【ARUHIアワード12月期優秀作品】『落雷のサンタクロース』長尾優作

 立子、思考回路、停止中……再起動までしばらくお待ちください。
「何よ、それ!」
 私が叫ぶと彼は慌てて玄関に入ってくる。「しー、静かに。もう喧嘩はよさないか。子供達が可哀想だ。親の喧嘩を見るほど辛いものはない」
 人が変わったような振る舞いで喧嘩したことを後悔しているようだった。
 でも、誰か……誰でもいいので教えてください。

 さっきまで、家にいた『男』は誰ですか。

 これ以上考えれば鼻から煙を噴き出して頭が沸騰するに違いない。
 夫は寒そうに肩を縮め、買い物袋を手に「はっくしょんっ、べらぼうめっ」と、くしゃみをした。間違いなく三太郎だ。捨てられた子猫のような目つきで私を見つめ「映画、借りてきたから一緒に観ようよ」と言った。
 あんなに怒っていたのに夫が帰ってきた途端、気持ちが楽になった。
「ただいま。美結、玲美」
 夫が居間に入ると娘二人が「パパ!」と喜び抱き着いた。私はお腹を触り、くすっと笑う。私の顔を見た夫は家族にこう告げた。
 三人目が産まれたら一軒家に引っ越そう。中古だが広くて庭もある。研究の成果が認められ、昇格して別の仕事をすることになった。と彼は教えてくれたのだ。
 あの約束を覚えていた。私は夫に微笑み返し、娘の前で彼に抱き着いた。
「おめでとうございます!」テレビの中で芸人さん達が新年を祝っている。
 今日は〝彼〟との『大切な日』になりそうだ。
 夫は恥ずかしそうに「映画観ようか」と借りてきたDVDを取り出した。
「何の映画?」と私は訊いた。
「昔の作品で『バック・トゥ・ザ・なんとか』って、タイトルだよ。
《息子が三十年前にタイムスリップ》して両親の恋を実らせるんだ」
 そう言いながらDVDデッキにディスクを入れる。
「赤ちゃんの名前は決まったの?」
「『美しい時が来るように――』〝美来〟という名前にしたの」
「じゃあ、お祝いに《鎧兜と鯉のぼり》を買わなきゃな」
「五月五日の『端午の節句』は、まだまだ先よ」
 私はリモコンを手に取り【再生】ボタンをぐっと押す。
 と同時に、お腹の中で赤ちゃんが元気に動いたような気がした。

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