直彦が階段を駆けあがってきた。寝室のカーテンを勢いよく引いて窓を開ける。目に飛び込んできたのは、一面の銀世界だった。まるでスキー場だ。
「なんだこりゃ!? 積雪1メートルなんてもんじゃないぞ」
「きれ~い、雪国みたい。こんなに積もった雪見るの、何年振りだろ? あ、カーポートの柱が、雪の重みで曲がってるわよ」
「なんなんだよ、これは。俺のベンツが埋まってるよ~」
私は、こらえきれずに笑い出した。直彦が悲痛な声を出す。
「笑い事じゃないよ、バッテリー上がってないだろうな」
「あのベンツ、ノーマルタイヤだから、すぐには運転無理じゃない?」
「変なところで冷静なんだな」
直彦もつられて笑い出した。ふと、ザクザクという音が耳に入った。彼方を見ると、お隣の澤村さんご夫妻がカラフルなプラスチックの大型スコップで雪かきをしている。私は両手を口に添えて叫んだ。
「澤村さ~ん、おはようございま~す」
澤村さんはすぐに気付き、こちらを見上げて手を振った。
「おはようございます。積もりましたね、秋山さん」
澤村さんのご主人も、タオルで額の汗を拭いながら笑いかける。
「玄関埋まってるよ、奥さん。出られなくなっちゃったみたいだねぇ」
「今、助けに行くわよ、秋山さん」
「お願いしま~す。私たちも後でお手伝いしますから」
直彦も澤田さんご夫妻に会釈する。
「ご近所付きあいもいいもんだな」
「でしょ?」
私は静かな空間に響く雪かきの音を聞きながら、早く起きてスコップを買ってこなくてはと思った。
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