【ARUHI アワード2022 7月期優秀作品】『新しい生活に欠かせない物』伊達

その後も別に疎遠になることもなくて、大学合格の喜びを分かち合うところまで変わらず過ごしていた。
そして上京当日に、私たちは約束する。
「遠くにいても私たちずっと一緒だからね。たくさん連絡しよう。約束!」
「うん、約束!」
そう言って、駅員さんに注意されるまでいっぱいハグしあって、私たちはお別れをしたの。それから初めて、彼女が視界にいない新しい生活が始まった。もう懐かしい記憶の一ページ。

で、彼女との連絡は途絶えた。
確かに最初の一か月は、毎日のように連絡を取り合ったけど、それが二か月目になると三日に一回、三か月目になると一週間に一回と目に見えて連絡が途切れ途切れになっていって、夏休み前に向こうが「少し連絡取れなくなるかも」って電話で話してきて、そして途絶えちゃった。
どっち断ち切ったかと聞かれたら、最終的にはその会話からだから彼女が連絡しなくなったと言えるんだけど、流れを見ると私から連絡を取らなくなったと言ってもいい。
だって上京してから、私は滅茶苦茶忙しかったから。バイト探しに大学の授業、しかも田舎町と違って都会のテンポは速くて、それに慣れて追いつくためには必死になってしまって、それで連絡を返せるタイミングがドンドン遅くなってしまった。
向こうもいつも電話口で私の疲れた声を聴いて、気を使ってくれたんだと思う。それに向こうにも大学の授業とか新しく始めたバイトの時間があって、そして何より人付き合いもある。
向こうにとっても、遠くの会えない人より、近くの会える友人関係に時間を使うのは仕方ない。
だから「少し連絡取れなくなるかも」ってことなんだと思っている。
お盆やお正月も、バイトやサークルで帰れないのもあったけど、彼女に顔を合わせるのが怖くなっていたのもあって地元に帰らなかった。
もちろん会いたかったし、会って疎遠にしてしまったことを謝りたかったけど、それを考えた時、頭を中に暗く落とされる影があるの。
(彼女の周りには、もう私の居場所が無いんじゃない?)
新しい生活が始まったから、彼女も周りの人間関係が更新されているんじゃないのかな。だって私はどうだ。私も彼女と連絡とっていないのに、こうして東京生活を送れてるなら、
彼女も新しい生活、新しい人間関係の中で楽しく生活できてるはずよ。そこに私がまた飛び込むのも迷惑になる可能性がある。
彼女を困らせるのはとっても嫌だ。
だから私は悩んでいた。東京生活に慣れてきたからまたその連絡を再開していいのかを、ずっとずっと悩んでいた。

そして今に至る。
「はぁ…」
呻きながら手紙に向かっては、ため息をついて天井を仰いで窓の外へと意識を飛ばすこと数十回。いつまでたっても解決しそうにないこの現状に、頭をグルグルと悩まし続けていた。
連絡取ろうと思って最初は電話しようとしたけど、なんて話したらいいのかわからなかった。それからスマホのメッセージやメールを考えたけど、いつものノリで文字を打っては
「何か違う」と下書きも残さずにアプリごと消していた。彼女と話したい、彼女と仲良くしたい、彼女と会いたい。
そういう想いだけはドンドン積もっていくのに、不安に感じる私自身がその手を鈍らせてその足を逃げるほうへと持っていく。
そこで思いついたのが手紙。いつものノリが駄目で今の関係性がわからない、それならいっそ最初の一歩からやり直そう。堅苦しい定型文で他人行儀に様子をうかがってみよう、そういういう魂胆の作戦だった。
残念ながら、その作戦も失敗に終わりそうだけどね。

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