【ARUHIアワード12月期優秀作品】『本当はダメなサプライズ』梶原匠平

そこからは場所決めだ。回転寿司はたくさんお店があるのだから自由に決めればいいとは思うが行く時に迷ってしまっては折角の結婚記念日が台無しになってしまう。なのでお互いスマホで回転寿司屋の場所を探していると家の近くにお店があったのでそこにすることにした。家の近くということもあるので、あっという間に到着した。
お店は混雑しており、少し待つかな、なんて思っていると妻が店員に向かって「予約していたものです」と言った。おいおい、予約なんていつの間にしたんだよ、最初からこの店に来るつもりだったのか?なんて思っていると妻が「さっき探してるときにここの予約システムがあったから使ってみた」と言ってきた。
こういうところができる妻なんだよなぁと私は心の中で感心しながら「そうなんだ。それはいいね」と返した。すると店員が「はい、すぐにお通ししますね」と言って私たちを席に案内してくれた。席に着いたらそこからは自由にお寿司を食べる時間だ。適当に好きなお皿を取っては食べるを繰り返していく。二人でおいしいね、このお店で良かったね、なんて談笑をしながらだ。ああ、こんなに気楽に食事ができて妻とも仲良く話せるなんて回転寿司は悪くないな、なんて思っていると妻がいくらの皿を取った。
実は私はいくらが苦手なのだ。とはいえ食べたことはない。つまりいわゆる「食わず嫌い」と言うやつだ。
ただいい歳をした大人がいつまでも食わず嫌いなんてかっこ悪いよなぁなんて思い「私もいくら食べてみようかな」と妻に言った。
すると妻が驚いた顔をして「あれ?いくら嫌いじゃなかったっけ?」と言ってきた。普段の私ならここで引き下がるが今日は少し強気になっており「そうなんだけど、食わず嫌いだからさ。食べてみたらおいしいかもしれないじゃん」と妻に言うと妻が「そっか。じゃあ今日はやめておこっか」と言ってきた。おいおいなんでだよ、人の決意をそんな風に流すことないじゃないかと思っていると妻が「折角の結婚記念日なんだからさ、もしいくら食べてみておいしくなかったら損な気分になるじゃない」と言ってきた。
そう言われたら成程なぁと思い妻に笑いながら「確かにそうだね。今日はチャレンジはやめておくわ」と言った。すると妻が「家の近くにこのお店はあるんだから、今度は何でもない日に連れてきてね」と言ってきた。確かに家の近くにあるお店だしな、と思い「わかった。じゃあチャレンジはその時にするね」と言いながらお互い笑いあった。
そんな風に談笑しながら食事を進めていくとだいぶお腹もいい感じになってきた。いわゆる腹八分目と言ったところか。
妻に「大体腹八分目くらいだから、あと2、3皿食べたらおしまいかな」なんて言うと妻が「あ、そうなんだ。じゃあ食べるのは終わりにしよう」と言ってきた。私はえ?あと2、3皿食べるって言ったじゃんと思い「あれ?もう少し食べようかなと思ったんだけど・・・」と言うと妻が「腹八分目なんだからもういいでしょ」と言ってきた。
えぇ?何で?折角結婚記念日なんだから満腹まで食べさせてくれよ、と思った。何か気にしてるのか?と思い考えを巡らせてみる。
お会計か?いやいや妻が結婚記念日でお金をけちるわけないよなぁと思いじゃあ私が食べ過ぎていることを気にしているのか?と思うが別に私は太っているというわけでもない。いわゆる中肉中背なのだ。だからその線も考えにくいしなぁと思い、結果として私には理由がわからなかった。とはいえここでなんで?と聞いてしまってはかっこがつかないし、もっと食べたい!とわがままを言って喧嘩になってもしょうがないのでまぁいいかと思い「わかった。じゃあお会計の前に渡すものがあるんだ」と妻に言った。妻がなぁに?と言ってこっちを見てきた。私はカバンの中からキキョウの花を一輪取り出した。
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