日本銀行は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定しました。日銀にとっては17年ぶりの利上げとなり、黒田前総裁のもとで行われた異次元の金融緩和が終わりを迎えたことを意味します。普段は経済に興味がない人方でも、本件は住宅ローンの変動に大きな影響を与えるため、強い関心を示しています。今後の金融政策はどうなるのでしょうか?
3月の金融政策変更の詳細
日本銀行は3月の金融政策決定会合において、黒田前総裁のもとで行われた異次元の金融緩和から金融政策を大きく転換することを決めました。ニュースではマイナス金利政策の解除は報じられていますが、実はそれ以外にも多くの政策変更を決めています。①10年物国債の金利を低位に押さえつけるイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の廃止、②ETF(上場投資信託)やJ-REIT(日本の不動産投資信託)の新規買い入れ終了および、1年後を目途にCPや社債などの買い入れを終了、③消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比の実績値が安定的に2%物価目標を超えるまでマネタリーベースを拡大するという、オーバーシュート型コミットメントの廃止を決めています。
ここまで大きく金融政策を変更したにもかかわらず、為替や金利には大きな影響がなかったと感じている人も多いかと思いますが、それには2つ理由があります。1つは、何故か政策変更の内容が事前に報じられていたため、市場が織り込んでいたこと。そして、もう1つは毎月6兆円程度の長期国債の買い入れと、機動的なオペも維持することを決め、植田総裁が依然として緩和的な環境が継続されることを強調したからと考えます。
金融政策変更の理由
それでは、なぜ日銀はこのタイミングで大きな政策変更を決定したのでしょうか。
一般的な考え方として、景気が悪い時には金融緩和をし、景気が過熱する前に金融を引き締めて調節をしていきます。異次元の金融緩和をやめたということは、日本の景気が良くなってきたということなのでしょうか。たしかに日経平均はバブル後最高値を更新し、4万円を超えましたし、春闘においても大企業は5%以上の賃上げを決定しました。しかし一方で実質賃金が23ヶ月連続でマイナスだったり、家計調査における実質消費指数は11カ月連続でマイナスだったりと、そこまで景気が良いようにも感じません。
植田総裁の会見を見てみると、賃金の上昇を伴う形で物価が安定的に2%上昇する「賃金と物価の好循環」が見通せるようになったと判断したため、今回の判断に至ったことが分かります。日銀の政策の効果というよりは、コロナ禍やウクライナ戦争に起因する資源価格の上昇などもあり、2023年から日本でも物価上昇率は2%を上回っています。それにともない価格転嫁も進み、2年連続で大幅な賃上げが実施されました。
追加利上げのタイミング
今回の政策変更によって為替や住宅ローンの金利が大きく動くことはありませんでしたが、すでにメディアでは次の利上げのタイミングに焦点が当てられています。植田総裁は記者会見のなかで、「物価見通しがはっきり上振れる、政策委員の中心見通しの上振れリスクが高まる場合は追加利上げの理由になる」と説明していました。この発言を基にいくつかのメディアでは追加利上げのタイミングとして、具体的に7月や10月が挙げられています。
前述した通り、なぜかメディアには日銀の政策変更についての情報が流れているように思われることがあり、それを前提にすれば、事前に追加利上げのタイミングを予測するかたちで報じることで、いわゆる「地ならし」をしているのかもしれません。
小幅ではあるもののプラスに転じた政策金利から、予想物価上昇率を差し引いた実質金利は依然として大きなマイナスであり、植田総裁の発言をふまえれば、年内に追加利上げが行われても不思議ではありません。私個人としてはこのタイミングでの金融政策の転換は拙速だったと考えていますが、どうも植田日銀にとってはこのタイミングですら遅すぎたと判断しているように感じているフシがあります。
今後の経済環境をみるうえでのポイント
現在、日本の物価上昇率は鈍化傾向にあります。一方で、春闘による賃上げの反映は4月から徐々に表れ始め、夏から秋にかけて実質賃金がプラスに転換するタイミングが訪れる可能性が高く、日銀はそのタイミングで追加利上げをするのではないでしょうか。
この観点からいえば、私たちも物価と賃金の2つの指標を特に注視すべきなのですが、足元ではイランとイスラエルの間で緊張感が高まっています。仮に中東において戦火が拡大すれば、一気に原油価格が上昇し、再び日本でも物価上昇率が加速する可能性があります。そうなると、実質賃金のプラス転換は後ズレし、追加利上げはしばらく行われない可能性もあります。
とはいえ、中東の情勢は私たち個人ではどうしようもない話です。そのため今のうちから、どのタイミングまでは変動金利のままでいくのか、どのタイミングから固定に切り替えるのかなど、各自が住宅ローンに関するシミュレーションを行っておくとよいでしょう。
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