大きなお金が動く不動産売買においては、トラブル予防やリスク軽減を目的として不動産売買契約書の作成と交付が義務付けられています。契約内容を明記した契約書の重要性は認識していても、役割や内容の詳細にまで理解が至っていない人も多いのではないでしょうか。
この記事では今後不動産の売買を予定している人に向けて、不動産売買契約書の役割と記載事項を解説します。不動産売買契約書の書き方や作成時の注意点も紹介しますので、参考にしてください。
不動産売買契約書とは?
不動産売買契約書とは、不動産を売買する際に売主と買主の間で取り交わす契約文書のことです。契約書には売買対象となる物件の概要、売買代金・手付金の額と支払日、住宅ローンに関する事項、契約解除に関する事項、契約不適合責任に関する事項などが記載されます。
宅地建物取引業法(以下、宅建業法)第37条において、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)が自ら当事者となって契約を締結した場合や、仲介によって契約を成立させた場合、契約に関する事項を記載した書類を遅滞なく交付することが義務付けられています。これを「37条書面」と呼び、実務上は不動産売買契約書と兼ねるケースがほとんどです。
不動産売買契約書の役割
不動産売買契約書を交付すると、売主と買主の間で契約内容に関する認識を合わせることができます。特に当事者の不都合や損害につながる事態が発生したとき、どのように対処するか、どちらが責任を持つかというのは重要なポイントです。
もし口約束だけで契約を交わせば、トラブル発生時に「言った、言わない」の争いに発展するリスクが付きまといます。双方同意の内容を契約書に明記しておくことは、認識違いによる将来のトラブルを予防し、係争リスクを軽減することにつながるのです。
不動産売買契約書に記載すべき事項
不動産売買契約書には、売買契約を締結するにあたって確認が必要な事項をひととおり記載します。記載すべき事項としては次のような項目が挙げられます。
不動産売買契約書の書き方
不動産売買契約書に規定のフォーマットなどはありません。前項で挙げた内容をはじめとする記載すべき事項が網羅されていれば書式は自由です。契約締結に先立って内容を作成しておき、締結前に契約当事者の確認を取っておきます。そうすることでスムーズに契約締結の手続きを進められるでしょう。
書式自由とはいえ、一から契約書面を作るのは骨の折れる作業です。全国宅地建物取引業協会連合会など業界団体が作成したひな形やテンプレートを活用すると、抜け漏れなく円滑に契約書を作成できます。
不動産売買契約書作成時の注意点
不動産売買契約書の作成にあたっては注意すべきポイントがいくつかあります。作成時には以下の2点に気を付けましょう。
買主・売主の一方が有利になる売買契約書を作成しない
当然のことながら、買主と売主が平等になるような売買契約を締結するのが基本です。売買契約書を作成する際は、買主・売主の一方が有利になる内容が含まれていないかどうか確認しておきましょう。宅建業者自身が売主となるケースや、仲介した宅建業者が37条書面と兼ねた売買契約書を作成するケースでは特に注意が必要です。
改正民法に従って作成する
売買契約書の根拠法となる民法は2020年4月1日に改正されています。本改正では不動産売買契約書に関係する項目も変更されているので要注意です。
なかでも影響が大きいのが、瑕疵担保責任が「契約不適合責任」に改められた点です。改正前までは「隠れた瑕疵」があった場合にのみ売主に担保責任が生じていました。これに対し改正後は、買主が契約内容との相違点を発見した場合、追完請求・減額請求・損害賠償請求・契約の解除が認められるようになっています。
ほかにも、債権者主義の見直しをはじめとする危険負担ルールの変更、解除要件の見直しも行われました。
旧民法に沿って作られた古い契約書テンプレートが残っている場合も多いため、上記の改正内容が反映されているか確認したうえで使用しましょう。
不動産売買契約書に関するよくある質問
ここからは不動産売買契約書に関してよくある質問に答えていきます。契約書作成時や締結の際の参考にしてください。
不動産売買契約にかかる印紙税の金額は?
不動産売買契約書を紙面で交付する場合、一通につき既定金額の収入印紙を貼付、消印を押すことで印紙税を納付する必要があります。
2024年3月31日までに作成した不動産売買契約書(契約金額10万円以下のものは除く)に関しては、印紙税の軽減措置が設けられています。原則の税率と軽減後の税額は次のとおりです。
なお、印紙税がかかるのは課税文書の原本に対してのみとされています。電子契約の場合には印紙税を納める必要はありません。
不動産売買契約書は誰が作成し説明するのか?
不動産売買契約は不動産仲介会社の媒介によって成立するケースが多く、契約書は重要事項説明書(35条書面)とあわせて不動産仲介会社が作成するのが一般的です。この場合、先ほど紹介した37条書面を兼ねた売買契約書が交付されるため、宅地建物取引士(以下、宅建士)の記名・押印が必要となります。なお、2021年5月に制定されたデジタル社会形成整備法により、宅建士の記名押印ではなく、記名だけで足りるようになりました。
不動産売買契約書に書かれている内容は、宅建士以外の人が説明してもよいとされています。宅建士が説明を行わなければならないのは重要事項説明のみです。
まとめ
不動産売買契約書は不動産取引に関するトラブルを予防するとともに、万が一のリスクを軽減する役割を果たす重要な書類です。不動産仲介会社を介して売買するケースなどでは、宅建業法において契約内容を記載した書面(37条書面)の作成が義務付けられており、売買契約書と一体的に交付されるのが一般的です。
不動産売買契約書は記載すべき事項を網羅できていれば、特にフォーマットの決まりはありません。業界団体などが提供するテンプレートを活用しながら、取引内容に合った契約書を作成するようにしましょう。