一年が経つのは早いものです。2022年も残り少なくなりました。ウィズコロナながら経済活動も戻りつつあるなか、世界情勢や金融市場などにはさまざまな動きがありました。では、住宅業界にとって、2022年はどんな年だったのでしょうか? 「住まいのヒットワード番付2022」(LIFULL)や「2023年の住まいのトレンド予測」(積水ハウス)から、この一年を振り返ってみましょう。
住まいのヒットワード番付、東の横綱は「建築資材の価格高騰」
LIFULLが公表した「住まいのヒットワード番付2022」は、LIFULL HOME'Sに加盟する全国の不動産事業者へアンケートを実施し、その結果をもとにLIFULL HOME'S総研チーフアナリストなど社内有識者が総合的に判断して、番付にしたものです。その番付を見ていきましょう。
それぞれが番付に選出された理由については、LIFULLのサイトに記載されていますが、番付の中から筆者が気になったヒットワードを取り上げたいと思います。
新築マンションをはじめとして、住宅価格の上昇が続いています。その要因が、東の横綱「建築資材の価格高騰」や東の大関「住宅地価上昇」でしょう。2022年の住宅市場は活況でした。コロナ禍による新たな需要もあり、生活が元に戻りつつあることから、住宅購入需要は堅調でした。
一方で、ウッドショックやアイアンショック、円安などの影響で建築資材が高騰するなどで、新築住宅の価格が押し上げられました。新築の価格上昇が中古の価格にも影響して、全体的に価格は上昇トレンドの一年でした。
西の横綱には「18歳からの住まい契約」が入っています。2022年4月から成人年齢が18歳に引き下げられ、保護者の同意なしに契約が結べるようになりました。いったん契約をしてしまうと、親がその契約を取り消すことができないために注意が必要です。一方で、18歳から対象になる優遇税制もあります。当サイトの筆者の記事「4月から成人年齢が18歳に引き下げに 親や祖父母から「住宅費用の贈与」が受けやすくなる!?」も参考にしてください。
政府の政策によるヒットワードも数多く登場
リモートワークの普及がもたらした住まいの変化もあります。東の関脇「ワークスペース付きマンション」、西の関脇「転職なき移住」がその事例です。新築マンションの共用設備は、その時のトレンドに強く影響されます。かなり前は「キッズルーム」が流行りでしたが、「キッチン付きのパーティールーム」や「シアタールーム」などが広がり、直近は「ワークスペース」へと変わっています。
「地方移住」や「二拠点居住」、「ワーケーション」については、地方活性化のために政府が力を入れています。リモートワークの普及によって、今後拡大することが期待されています。地方移住では、地方での仕事が課題といわれていましたが、リモートワークによって、都市部の仕事を続けながら地方に移住する道筋が開かれました。この点を評価して「転職なき移住」が番付入りしたのでしょう。
菅政権下の「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、政府は「カーボンニュートラル」に力を入れています。具体的に脱炭素化に向けて、建築物の省エネ化や木材の利用促進を掲げています。今後増えるだろうと予測できるのが、西の小結「ZEH-M(ゼッチエム)」です。ZEHとは、住宅の断熱性を上げ、エネルギー消費効率のよい住宅設備を搭載して、エネルギーの消費を抑える一方で、太陽光発電設備などでエネルギーをつくることで、収支をプライマイナスゼロにするもの。これまでは戸建てで多く供給されてきましたが、マンションにおけるZEH化が進むことが予想されています。それが「ZEH-M」です。
また、木材の利用促進の事例が、木造のマンション。略して「木ション」です。木造建築物は、耐火性や耐久性などが課題とされていましたが、技術革新により基準を満たせるようになりました。最近は、木材の魅力を活かした木造マンションが建てられるようになっています。
検索上昇ワードから見る、戸建ての間取りや暮らし方のトレンド
次に積水ハウスが発表した、「2023年の住まいのトレンド」を見ていきましょう。筆者は、積水ハウスのYouTubeによるオンライン発表会でこの住まいのトレンドを閲覧しました。このトレンドは、Pinterest(ピンタレスト)の膨大なデータを分析して「住まいのトレンド」を予測したものです。ピンタレストとは、自分の好きな写真や画像を自分専用のコルクボードにピン止めして、それをシェアできるサービスで、近年人気を集めているSNSです。
キーワードは大きく3つ。「おうち時間の充実」「高い機能性」「居心地の向上」です。ただ、このキーワードだけでは、具体的なイメージが付きづらいので、発表資料から具体的な上昇検索ワードを見ていきましょう。
■キーワード1:おうち時間の充実
まず、第一のキーワード「おうち時間の充実」は、「ベランダ時間の充実」と「趣味の時間の充実」への関心が高いことから導き出されています。主にベランダでは、野菜や植物を育てる場所として活用しよういう動きが顕著です。また、自宅のリビングなどにシアターやオーディオを設置しようとしたり、家でトレーニングをしようとしたり、家飲みを充実させようとしたりしています。
■キーワード2:高い機能性
第二のキーワード「高い機能性」は、コロナ禍の影響が見て取れます。在宅勤務などが増えたことから、リビングで仕事をしたり勉強したりすることが増え、リビングが多目的に使われるようになりました。そのワークスペースも、ピンタレスト・ジャパンによると、「ワークスペース自体の検索はコロナ禍ですぐに増えたが、そのあとにおしゃれが加わった」ということです。
「隠すスペースの充実」で注目されたのは、パントリーです。パントリーとは、食品や飲料をストックしたり、調理器具や日用品を保管したりする収納スペースです。間取り図では「食品庫」などと表記されることもあります。コロナ禍で食料品をストックする人が増えたことで、パントリーへの関心が高まったり、パントリーの使い勝手をよくしたいと考えたりする人が増えたのでしょう。
■キーワード3:居心地の向上
第三のキーワードは「居心地の向上」は、検索ワードを見ると広がりのある空間を求めているように思います。開放感を得られるからでしょう。室内では「吹き抜け」など高さを含めた広さに、リビングはアウトドアとつながる空間にして、居心地の良さを求めているようです。
不動産分野のデジタル化の加速に注目
さて、これまで2社が発表したヒットワードやトレンドワードを見ていきました。いずれも、コロナ禍の生活様式の変化による影響が見て取れます。ただし、住み手はその変化を楽しんだりもっと充実させたりといった方向に向かっているという印象を受けます。
そんななか、筆者が2023年以降も影響が大きいだろうと思うキーワードが「不動産DXの加速」です。「DX」とはデジタルトランスフォーメーションの略。デジタル技術を活用することで、生活やビジネスが変容していくことをDXといいます。DXが遅れていると言われる不動産分野ですが、不動産事業者の営業活動や顧客への付加価値の向上のためにデジタル技術が使われることが期待されています。
特に注目しているのが、AIを使った価格査定やVRおよび実画像を使ったオンラインによる物件見学、売買契約時等の電子契約です。特に、電子契約は今後増えるのではないかと思います。安易に契約してしまうことは避けるべきですが、契約内容をきちんと理解したうえでの電子契約は、時間的に効率化が図れ、書面がデータで保存できるうえ、契約時の印紙税が不要(収入印紙を契約書に貼らずに済む)などのメリットがあるからです。来年のキーワードには、こうしたデジタルワードが増えているかもしれません。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)