【フラット35】が2023年4月に制度変更、省エネ基準の要件化でどんな影響がある?

2023年4月に【フラット35】の制度変更があります。全期間固定金利型の住宅ローン【フラット35】が、新築住宅で利用できない場合があるため、利用を検討している人は変更点を押さえておきたいところです。キーワードは「省エネ基準」。この背景には、政府のカーボンニュートラルへ向けた「北風と太陽」の政策があります。

4月の制度変更で【フラット35】の断熱性の基準が大幅に引き上げられる

【フラット35】とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する、全期間固定金利型の住宅ローン。年齢や所得などの利用者に関する条件のほかに、住宅に関しては、一定面積以上で住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合することが求められます。たとえば、新築住宅では定められた断熱性や耐久性などの条件を、中古住宅では新耐震基準への適合や定められた耐久性などの条件を満たす必要があります。

新築住宅では、通常は【フラット35】が利用できることを意識して建てているので、その多くが借入対象となります。ただし、2023年4月の制度変更で、求められる断熱性の水準は大きく引き上げられます。

現行の断熱性で求める基準は、国が定めた住宅の性能の共通のモノサシである「住宅性能表示制度」の「断熱性能等級」で等級2相当以上となっています。これが、4月以降になると「断熱性能等級」で等級4以上と2段階上がり、さらに「一次エネルギー消費量等級」で等級4以上の条件が加わります。

■新築住宅における【フラット35】の省エネ技術基準の見直し

【フラット35】の省エネ技術基準の見直し
出典:住宅金融支援機構【フラット35】制度変更の案内チラシより

断熱性能等級が2段階上がると、どの程度変わるのでしょうか。ここでは、専門的な説明は避け、簡略化して説明しましょう。

「断熱等性能等級」の等級2では、結露を防止するために壁や天井・床に断熱材をしっかり入れるといったことが求められます。等級4になると、その断熱材をかなり厚く入れる必要があり、加えて窓ガラスを単板ガラスではなく複層ガラスにするなど、開口部の断熱性を高める必要が出てきます。

また、「一次エネルギー消費量等級」は、住宅で使用する冷暖房機器や給湯器、照明、換気設備などでどの程度エネルギーを消費するかを測るもので、同じ規模の住宅に対して、どれだけエネルギーを削減できたかを表します。等級が高いほど、エネルギーの消費効率のよい設備機器を設置する必要があります。

実際には、求められる基準は寒冷地と温暖地などの地域特性も考慮されますし、さまざまな要因についてデータ(UA値など)を算出して判断します。一概にどんな仕様かを説明することが難しいのですが、2023年4月からは、外気にさらされる部分の断熱性を高め、電気やガスなどの使用量を抑える省エネ機器を設置して、住宅全体でエネルギーを使わない住宅にすることが求められるようになると理解しておきましょう。

住宅の断熱性が高まることで、冷暖房費などの光熱費を削減できたり、室温の差が減って快適に暮らせたり、ヒートショックのリスクが軽減されたりといったメリットもあります。

省エネ化を促進する【フラット35】の「北風と太陽」?

ではなぜ、こうした制度変更をしたのでしょうか? それは、政府がカーボンニュートラルに向けて、建築物の省エネ化を加速させているからです。実は、建築物の中でも非住宅については、すでに「現行の省エネ基準」に適合させたものしか新築できないことになっています。そして、住宅についても2025年度には「適合義務化」することになっています。

これに先駆けて、2023年4月以降の新築住宅では、省エネ基準に適合した住宅でなければ、【フラット35】を利用することができないとしたわけです。先ほど説明した、「断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上」というのが、「現行の省エネ基準」と同じ水準になります。

一方、こうした「北風」の制度変更だけではなく、「太陽」も用意されています。すでに、2022年10月に制度変更されていますが、省エネ性の高い住宅ほど、【フラット35】の金利引き下げを大きく優遇するようになっています。

■2022年10月以降の【フラット35】Sの制度変更

【フラット35】Sの制度変更
出典:住宅金融支援機構【フラット35】制度変更の案内チラシより

【フラット35】では、優良な住宅については当初一定期間、適用される金利を0.25%引き下げる制度を用意しています。これを【フラット35】Sといいます。以前は、Aプランで当初10年間、Bプランで当初5年間、025%引き下げる制度になっていました。10月からはこれに「ZEH(ゼッチ)」基準を加えて、金利引き下げ率もポイント制度に切り替えました。ZEH基準であれば、即3ポイントとなり、当初5年間は0.5%、6~10年目までは0.25%の金利引き下げが受けられます。さらに、長期優良住宅であったり、自治体の子育て支援制度と連携していたりすればポイントが加算されて、当初10年間0.5%の金利引き下げが受けられるようになります。このように、省エネ性の高い住宅には金利の優遇という「太陽」の制度も用意されているわけです。

■2022年10月以降ポイント制度に変更された【フラット35】S

ポイント制度に変更された【フラット35】S
出典:住宅金融支援機構【フラット35】制度変更の案内チラシより

なお、ZEH基準というのは、「断熱等性能等級」等級5、「一次エネルギー消費量等級」等級6に該当します。本来、ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスを略したものなので、住宅の省エネ性を高め、省エネ性の高い設備を使うことに加えて、太陽光発電設備などで電気を生み出して、消費するエネルギーをプラマイゼロにすることを言います。

ただし、ここでいうZEH基準は、必ずしも太陽光発電設備などの設置を条件とするものではありません。土地や建物の形状から屋根が小さくて、十分な電気を生み出すだけの大きな太陽光発電設備を設置できなかったり、多雪地帯のように屋根に雪が積もる期間が長かったりすることを考慮したものとなっています。

住宅ローン減税でも「北風と太陽」が盛り込まれている!

実は、「住宅ローン減税」でも同様に、省エネ化に向けた「北風と太陽」が盛り込まれています。
「太陽」はすでに2022年から用意されています。住宅ローン減税は、13年(中古は10年)にわたって、年末の住宅ローン残高の0.7%を控除するもの。控除対象となるローン残高の上限は、住宅の省エネ性によって異なり、省エネ性の高いものほど上限額が高く設定されています。ただし、段階的に縮小するようになっていて、2024年以降で下がります。

一方、「北風」の部分は、2024年以降で、新築住宅(不動産会社が買い取ってリフォームしたうえで再販する中古住宅を含む)の場合、「省エネ基準」適合住宅でなければ、住宅ローン減税の対象になりません。

■住宅ローン減税の概要

住宅ローン減税の概要
出典:国土交通省「令和4年度国土交通省税制改正事項」より転載

このように、政府は2025年度の新築住宅の省エネ基準適合義務化に向けて、融資面や税制面で制度変更をしています。今回の【フラット35】の2023年4月の制度変更は、その一環としてとらえることができます。

なお、実態として、すでに多くの新築住宅が省エネ基準を満たしていると言われています。融資面や税制面で対象外となる新築住宅は一部に限られると思いますので、あまりナーバスになる必要はないでしょう。とはいえ、新築住宅の省エネ性については、制度変更を理解したうえで、不動産会社や施工会社に確認するとよいでしょう。使えると思っていたのに、使えないということのないようにしたいものです。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

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