ふと祖母の顔を見てみると、笑顔だった。大成功の文字が頭をよぎる。これで少しでも元気になってくれれば嬉しい。
「ありがとう」
笑顔でお礼をいう祖母に、どこかもの寂しさを感じた。天井を見上げる祖母の顔が、夜空を見上げる祖母のそれとは違って見えたのである。
星を眺めると同時に、祖母の幸せそうな表情を見ることが好きだったのだと痛感した。
祖母の部屋を覗くと、最初の数日はプラネタリウムを使ってくれていたが、徐々に頻度が減っていった。
飽きてしまったのかと思い、別のタイプのものを買った方がいいかと祖母に尋ねた。祖母は申し訳なさそうに「ごめんね。やっぱり本物のお星様が良いかな」と言った。
謝るのは私たちだ。自己満足に陥っていたのかもしれない。配慮が足らず、ただ単に「本物の星空を眺めていたい」という願いを刺激したに過ぎなかったのだと思うと、胸が痛くなる。それからと言うもの、プラネタリウムにはホコリが被るようになっていた。
少しでも力になりたい私と両親は、再度話し合った。
心機一転、祖母の部屋だけでもリフォームするのはどうかという案が出た。
いい案だと思う。真新しい綺麗な洒落た部屋であれば、自然と気持ちも晴れやかになるはずである。ついでに私の部屋もリフォームしてもらうことになった。ついに古臭い昭和の香りがする部屋から卒業できると考えるとせいせいした。
祖母にリフォームをすることを伝えても、「気を使わなくていいよ」と言われる気がしたので、内緒にして両親と共にリフォーム店へ足を運んだ。
リフォーム店ということもあってか、おしゃれな内装である。我が家が見窄らしく見えた。吹き抜けになっており、天窓から指す日の光が眩しく、思わず目をつぶってしまった。
リフォームの担当者と打ち合わせをしていく内に、祖母の部屋の天井や壁のクロスを宇宙の柄にする案や、星屑の様に光る壁紙にしてみたらどうかという案が出た。
プラネタリウムの二の舞になるのではないかと思ったが、無難な壁紙でもそれはそれでほとんど代り映えせず、折角リフォームしても意味がないのではないか。
色々と考えを巡らせるが、非常に悩ましい。
やはり祖母が一番望んでいるのは星空なのであり、代わりになるものは無いと思うと、いたたまれない気持ちになる。。
「こんなことになるのであれば、あんな古い家をわざわざ買わないで賃貸にすれば良かったのに」と思わずぼやいてしまうところだった。
ふと上を見ると、先ほどの天窓から月が見えた。夜の月も綺麗だが、昼の月も好きだ。青空に見える月にほんの一瞬違和感を覚える感覚がたまらない。
月をぼんやりと眺めていると、ある考えが閃いた。これならどうだろう。
「私の部屋、リフォームしなくていいからさ。追加でおばあちゃんの部屋にこんなリフォームできないかな?」
両親に提案すると狐につままれた様子だったが、すぐさま「それいいかもね」と共感してくれた。担当者も「事例はありますよ」と乗り気になってくれて、活路を見出せた私たちは胸を弾ませた。
ちょうどふたご座流星群の現れる時期が迫っていたので、リフォームが終わる日を十二月十四日に指定した。