アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、2つのテーマで短編小説を募集する『ARUHI アワード2022』。応募いただいた作品の中から選ばれた9月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。
私の祖母は星が大好きだ。両親も祖母の影響を受けており、よく家族みんなで星を見に行ったりしていた。特にふたご座流星群が見られる日は、家族の誕生日と同じくらい特別な日だ。
勿論、私も無類の星好きである。
そんな祖母だが、祖父に先立たれてしまったと言うこともあり、私たち家族と一緒に住むことになった。
両親は「いい機会だから」と言い、郊外にある平屋の中古戸建を購入した。都心から少し離れた場所にマイホームを持つことができれば、いつでも綺麗な星空を見られるからだという。
新居は中古ということもあり、それなりに年季が入っていた。祖母は「このくらい古いのは慣れている」と言い、なんとも思っていない様子だった。それよりも綺麗な星を毎晩見られることに心を躍らせていたのである。
私は中古でもリフォームされた真新しい今風の家がよかった。欲を言えば新築が良かったが、高校生である私にそんな発言権はない。おまけに通学時間が倍以上になってしまったし、都心で遊ぶことが億劫になった。どちらかと言えばこの家での生活は嫌いだ。
唯一、好きだと思えたのは、祖母と同じく庭から見上げる星空だった。家の周りは木々に囲まれているので窓からはそれくらいしか見られないが、一歩外に出て空を見上げればこんな興奮はない。特に冬は首が痛くなるのを忘れてしまうくらい空を眺め続けていた。
庭が広いのでベンチとテーブルを置いた。夕食後には星空の下でお茶を飲みながら一家団欒することが半ば日課となっていた。当然、望遠鏡をしっかり持って。
祖母も夜遅くまで一緒に星を眺めていた。あまり口数は多い方ではないが、星明かりに照らされた祖母の顔はいつも幸せそうだった。
そんな祖母であったが、徐々に一家団欒に参加しなくなり、たまに参加したかと思っても、十分位経つと「お先に」と言って部屋に入り、ベッドで横になっていることが多くなった。
両親は「年齢も年齢だし、疲れやすくなったのだろう」と言った。その通りだとしても気の毒だ。こんな家では夜空を見ることくらいしか楽しみはないだろう。木しか見られない古臭い部屋に篭っていては気が滅入ってきてしまうはずだ。私には絶対に耐えられない。
私は祖母のために何かできることはないかと両親と話し合った。
部屋の中でも出来ることということで、家庭用プラネタリウムを設置してあげようということになった。街灯がほとんどない真っ暗なこの辺りでこそ、真価を発揮するのだろうと意気込み、早速週末には家電量販店やデパートを巡った。数千円の安いものもあったが、折角ならばと三万円のものにした。これならば祖母も喜んでくれるはずだと、帰りの車内は盛り上がっていた。
夕食後、祖母はいつものように自分の部屋へ戻って行った。私たちは溢れる笑顔を抑え、プラネタリウムを持って祖母の元へ行く。
「おばあちゃん。これ、プレゼント」
プレゼントを受け取った祖母は、笑顔混じりで驚いている様子だった。プレゼント自体には喜んでくれたかと思うが、恐らくこのプラネタリウムがどんなものなのかを分かっていなかったのだろう。もっと祖母を喜ばせたいと思い、すぐさまプラネタリウムを起動させた。