【ARUHI アワード2022 8月期優秀作品】『今日という日を僕は忘れない』佐藤宗太

さて次の場所だ。僕はメモ用紙の続きを確認した。
「次は喧嘩した時のあなたの避難場所!」
僕の避難場所…これは簡単!トイレだ!僕は奈帆と喧嘩した時頭を冷やすために10分ほどトイレにこもる。あのちょうどいい狭さが僕を落ち着かせてくれるのだ。
トイレのドアを開けるとフタの上にメモ用紙が置かれていた。
「トイレに逃げ込むのは反則だよね〜 私はまだ話すこと残ってるのに!!!これからはしっかり話し合って仲直りしようね!」
確かに僕は奈帆に色々言われて耐えきれなくなってトイレに逃げ込んでいた。奈帆の話を聞こうとせず自分勝手な行動をしていたのだ。これは後でしっかり謝ろう。私は深々と頭を下げた。

ここまでの傾向からするとメモ用紙には私の直して欲しいところが書かれている。直接言うのに気が引けたからこういった形で伝えているのか…?そう思いながらメモ用紙を見る。
「次は私があなたに迷惑をかけている場所!」
どうやら予想は外れているようだ。奈帆が何か迷惑をかけていたことがあっただろうか。しばらく考え込んだ結果、1つだけ思い当たる場所があった。
私は寝室に行きベッドの前に立った。「ここしか思い浮かばない」そう思いながら掛け布団をめく
るとメモ用紙が置かれていた。
「分かっちゃったか(笑)私朝弱いから寝起き最悪だよね、ごめん!頑張って直すけど時間かかるかも!」
そう、奈帆は朝にめっぽう弱い。一緒に住み始めた頃は起こされて不機嫌そうな奈帆が少し怖かった。ただそれにももう慣れた、別に迷惑だとは思ってない。まぁ直してくれるのであればありがたいが…さて、次の場所はどこだ?
「次は私のお気に入りの服!」
奈帆のお気に入りの服?そんなこと聞いたことも無かった。とりあえず僕はベッド横のクローゼットを開けた。奈帆は服が好きでクローゼットの3分の2は奈帆の服で埋まっている。この中からお気に入りの1着を探すのは骨が折れる。1着ずつ見ていくにも時間がかかりそうだと悩んでいたが 1つ思い浮かんだものがあった。手に取ったのはブランド物のネイビーのジャケット、これは菜穂が自分の誕生日にご褒美として買ったものだ。

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