【ARUHI アワード2022 8月期優秀作品】『普通な二人』真銅ひろし

「・・・僕も。」
 そして4人が黙る中、宮代君が静かに話し始める。
「僕も、自分の性癖にずっと違和感はありました。男の人を好きになってはいけない事だといつの間にか思うようになっていました。でもいけない事だなんて誰も言ってなくて、なんとなく周りをみて勝手にいけない事だと決めつけていました。陽介君のご両親が僕たちの交際に反対なのは分かりました。でもだからと言って、じゃあ分かって貰わなくていいから二人で生活していく。っていう風になりたくないんです。僕と陽介君にとってはこれが普通の事だし、自然な流れなんです。だから認めて貰うまでお二方とコミュニケーションを取って行きたいと思ってます。お二人は嫌かもしれませんが、だってそれが好きな人のご両親に思う普通の事だから。」
 宮代君は努めて冷静に、それでいて何か物悲しい口調になりながら話す。
「あの、ちょっといい?」
 美沙子が口を開く。
「陽介と宮代君の考えは分かったんだけど、私は別に反対はしてないわよ。」
「え?」
 三人が虚をつかれたように母親の顔を見る。
「あんまり賛成出来ないとは言ったけど、別に反対とは言ってない。なんか惑わせてしまってごめんなさい。」
 言ってる意味を飲み込めない三人に美沙子は続ける。
「お父さんと同じで、こういう事にどう反応していいか分からなかっただけ。でもだからって分かったようなフリして賛成するのは抵抗があったのよ。だから素直に賛成出来ないって言っただけ。ごめんね、宮代君、陽介。」
「うん・・・。」
「でも今話してみて思った。話してる内容は男女の恋愛と何も変わらないのね。宮代君の言うように普通の事かもしれないわね。それも今日実感したわ。」
 美沙子は微笑む。それにつられるように陽介と宮代君の顔もほころぶ。
「今度そちらのご両親ともお話をしないといけないわね。」
「え?」
 驚いたように宮代君が母親を見る。
「だって、二人は将来の事を考えて一緒に生活していくんでしょ。」
「えっと、あの、そのつもりではいますけど。」
「じゃあ連絡くらいするのが普通じゃない。それに“家族”になるってそういう事でしょ。」
 美沙子は先ほどまでとは違う、いつものような柔らかい表情を見せる。
「・・・。」
 宮代君はその言葉にゆっくりと下を向き、手で目元を覆う。
「お父さんは?どうなの?」
 美沙子はこちらに顔を向ける。
「え?俺?いや・・・俺もそうした方が良いと思う。」
「ちゃんと自分の意見を言いなさいよ。さっきからずっと曖昧。」
「あ、いや、そうだね。ごめん。」
 私の言葉に三人がクスクスと笑う。
「それじゃあご飯でも作りましょうか。食べていくでしょ?」
「え?ああ、そうだね。手伝おうか?」
「何言ってんの?今まで手伝ったことなんてないじゃない。宮代君がいるからってかっこつけないの。」
「別にそう言う訳じゃないし。」
「ゆっくり待ってなさい。」
 美沙子はそう言ってキッチンへと消えていった。
 陽介は下を向いている宮代君の背中をそっと触る。
「・・・。」
 母親のいう通り、行動は男女のカップルと何も変わらない。ただそれが同性なだけなのだ。
未来に対して一番怖いのは私たちより本人達なのかもしれない。
「・・・。」
 それを少しでも理解し、支えて行くのが“家族”の役目なのだと思う。

 ただ、今はこの目の前の状況が恥ずかしいので、美沙子の手伝いに席を立つ。

『ARUHI アワード2022』8月期の優秀作品一覧は こちら  ※ページが切り替わらない場合はオリジナルサイトで再度お試しください

~こんな記事も読まれています~