アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、2つのテーマで短編小説を募集する『ARUHI アワード2022』。応募いただいた作品の中から選ばれた8月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。
東京から帰省してきた息子の陽介が“彼氏”を連れてきた。
「初めまして。宮代洸一と言います。25歳です。」
そう言って宮代君という男性は頭を下げる。息子と同い年。一般企業に勤めるサラリーマン。中肉中背のメガネをかけた普通の男性。悪い言い方をしてしまえばどこにでもいそうな感じだ。
「3年前から付き合ってるんだ。」
陽介もどこか緊張した感じで話す。
「・・・。」
なんて言っていいのか迷う。“彼女”ではなくて彼氏だ。チラッと母親の美沙子を見る。
「・・・。」
何も言わずに少し目線を下げて黙っている。
「母さん、知ってたのか?」
「まぁ、少しだけ。」
「言ってくれよ。」
「だって言ったら会う前から色々余計な事考えちゃうでしょ。」
「それはそうかも知れないけど・・・。」
「父さん、ちょっと待って。」
陽介が割って入ってくる。
「俺が母さんに黙っててって言ったんだ。」
「・・・。」
「ちゃんと会って話した方が伝わると思ったから。前もって言わなくてごめん。」
「いや、それはまぁ、いいんだけど、えっと、なんだ、お前はさ、その・・・。」
「うん。男性が好きなんだ。」
「・・・。」
言葉に詰まる。ご時世的になんとなくは理解していたが、面と向かっては少々言葉の攻撃力が強い。
「ずっと黙っててごめん。受け入れてくれないかもって考えるとなかなか言い出せなくて。」
「まぁ・・・そりゃあ少しはびっくりはするわな。」
「ごめん。」
「いつから、その、男性が好きになったんだ?」
「はっきり好きって分かったのは小学3年の時かな。男性を好きになったのもその時だから。」
「え?そうなの?」
陽介の言葉に彼氏の宮代君が入って来た。
「初めて聞いた。」
「だってコウちゃん聞いてこなかったし、言う必要もないと思ったから。」
「だって、あんまりプライベートな事は聞いて欲しくなさそうだったし。」
「それはそうだけど、今は状況が違うから。」
「・・・。」
「ごめんね。」
「うん・・・。」
「怒んないでよ。」
「怒ってないよ。大丈夫。」
「怒ってるじゃん。」
「だから怒ってないって。」
「・・・えっと、陽介、いいか?」
「あ、ごめん。」
こちらの声に気まずそうに我に返る二人。
「宮代君の事、コウちゃんって呼んでるんだな。じゃあ陽介の事はなんて呼んでるの?」
「お父さん、そういうのは二人の事だから。」
黙っていた美沙子がたしなめてくる。少し空気を和ませようとしたが完全に間違った。咳ばらいをして仕切り直す。
「えっと、それで、どうすれば、いいのかな?」
「・・・欲を言えば俺たちの事を認めて欲しいって言うのが本音かな。でもいきなりじゃ無理があるだろうし、今は知っておいて欲しいって言うのがデカいかな。」
「じゃあ最終的にはどう考えてるんだ?」
「・・・一応、一緒になる事を考えてる。」
「一緒って、結婚って事か?」
「まぁ、そんな感じかな。」
「・・・。」
全く想像が出来なかった。男同士で結婚。やはり違和感はぬぐえない。
「でも結婚はまだ認められてないだろう。」
「そこはパートナー制度があるから、それに乗ろうと思う。」
「・・・それ詳しく知らないんだけど。」
「俺たちもこれからだからそんなに詳しくないんだけど、一応二人が生活を共にする事を世間的に認めてくれる証明書かな。まぁ、それよりも気持ちの方が大きいかな。」
「・・・。」
話の展開が早すぎてまたしても答えに詰まる。美沙子の様子を見ると無表情で何を考えているか分からない。
「母さんはどうだ?」
「・・・。」
何も答えない。しかしそこからゆっくりと口を開いた。
「私はどっちかというと、あんまり賛成出来ない。」
静かに、けれどはっきりと答えた。普段は物分かりのいい優しい母親だけにこの言葉は意外だった。陽介も意外な表情をしている。
「でも母さん伝えた時は何も言わなかったじゃん。」
「その時はお父さんがいないじゃない。私だけの意見を言ってもしょうがないでしょ。」
「・・・。」
「陽介が男性が好きで、今は宮代さんとお付き合いしてるって言う事は分かった。性の事だから私達がああだこうだいっても仕方ないのも分かる。でもすんなり受け入れられないのも事実だから。」