「こんな時代だから、受け入れて”好きなようにしなさい”って言うのが普通なのかもしれないけど、それでも感情が追いつかない。陽介から電話で聞いた時はまだあまり実感なかったけど、直接二人を見たら実感が湧いたわ。さっき陽介が“まずは知っておいて欲しい”って言ったけど、それでも抵抗があるわ。」
落胆も悲壮感も出さずただ淡々と答える。何を考えて発言しているのか読めない。そこで下を向いていた宮代君が顔を上げる。
「いきなり訪ねて、驚くような事を言ってしまい申し訳ありません。ただ僕もここに来るのにそれなりの覚悟を持ってきているつもりです。始めは賛成して頂けなくても、そのうち賛成して頂けるように努力を続けるつもりです。」
「どう努力してくれるの?具体的に教えて。」
「・・・。」
折角勇気を持って発言した言葉も、一言で打ち消される。
「ねぇ、話は変わるけど、もし二人がこのまま一緒にいる事になるとしたら子供はどう考えてるの?」
「それは、一応コウ・・・いや、宮代君とも話したんだけど、養子を取ろうと思ってる。」
「養子ね・・・。」
そう言って美沙子は黙る。そしてまたしても沈黙が流れる。
「父さんはどう思ってるの?母さんと一緒で反対?」
「俺か・・・俺は・・・。」
陽介も宮代君もまじまじとこちらを見てくる。チラッと横を見ると美沙子もこちらをジッと見ている。一体なんと答えれば正解なんだろうか。
「えっと、正直に言うと・・・よく分かんないって言うのが本音かな。こんな事初めての経験だし、陽介たちのような二人が将来どうなって行くのかも全然予想できない。母さんの言っている事も理解できるし、陽介たちが言ってる事もなんとなくは理解できる。だけどやっぱり先が予想できない事は分からないし、怖いかな。」
「怖い?」
こちらの言葉に陽介が反応する。
「うん、怖い。男と女の事だったら自分たちもそうだし、自分達の親だって見て来てる。それに周りもそう。色んな話も聞くし、だから先の事がなんとなく想像が出来るんだ。でも男と男はあまりにも現実味がないし、分からない事が多すぎる。」
「じゃあこれからゆっくり知っていけばいんじゃない?こういう関係もあるんだっていうのを。」
「・・・。」
“分かった”と即答してあげられないのが歯がゆく感じる。何かはハッキリしないが心のどこかで引っかかるものがある。
「ダメって言ったらどうするの?」
美沙子が入ってくる。
「結局あなた達はそれでも一緒にいるんでしょ?」
「・・・。」
「はっきり言いなさい。」
「・・・そうなるかもしれない。」
「じゃあこの時間は特に意味はないんじゃないの?私達に断る必要なんてないじゃない。」
「・・・でも、なるべくなら両親に受け入れて欲しいって言うのは子供として普通の事じゃないの?」
美沙子の質問にややムキになって陽介が言い返す。
「俺も宮代さんも偶然男性が好きってなっただけで、別にそうしようと思ってそうなった訳じゃない。それなのになんでこんなにも苦労したり、気を使わなくちゃいけないのかってこっちもイライラしたりするよ。世間の大勢の男みたいに女を好きになって子供が出来て両親を安心させられるならそうしたいよ。でも違うんだからしょうがないだろ。」
語気を強めて伝えてくるその言葉に陽介のこれまでの苦労が詰まっているように感じた。
「・・・。」
ただ、それよりも不思議なのが、何故美沙子はこんなにも陽介たちにきつく当たるのだろうか。普段はそんなトゲのある言い方をしないし、もっと柔らかい雰囲気なのに。
「宮代君のご両親にはこの事お話したのか?」
険悪な雰囲気に耐えられず話題を変える。
「この前話に行ったよ。」
「向こうはなんて?」
「応援してくれるって。宮代君の所は前々から伝えてたから。」
「そっか・・・。」
それ以上続かない。向こうが大丈夫だからといってこちらも大丈夫な訳はない。変える話題を間違えた。
けれどこれ以上何を聞いて、何を知ればこの事は解決するのだろうか。この場にいる全員が分かっている。これ以上話をしても何も進展しないことを。