【ARUHI アワード2022 7月期優秀作品】『安心とラブ』青井優空

「やっほー。元気?」
「久しぶり、イチちゃん。ご飯食べる?」
 髪の毛がピンクになっていたイチさんはアンさんの問いに頷いて、席に着いた。とても自然な行動で、違和感は全くない。お互いこういうことに慣れていることが分かる。
「お久しぶりです、イチさん。」
「久しぶり。えっと、すみれちゃん?あれ、うめちゃんだっけ?」
「さくらです。」
「あ、さくらちゃん。そうだ、さくらちゃんだ。やっほー。」
「やっほーです。」
「オムライス、美味しい?」
「はい、卵がとろとろしてます。」
「そう。あ、ビール飲みたい。」
 イチさんは席を立って何の断りもなく、冷蔵庫を開けてビールを取った。
 イチさんとアンさんはどうして仲良くなったのだろうか。私は二人が並んでいるところを見るたびに、そんなことを考える。だって、本当に似ていない。共通点は文章が好き、というところぐらいしかなさそうだ。けど、イチさんはエッセイや評論などなんでも書いているけれど、読むことはないらしい。反対に、アンさんは文章を綴ることはなくても、純文学をよく読んでいる。それ以外に二人に似たところはない。アンさんがお姫様なら、イチさんは魔法使いだ。私が二人と同じ物語に登場するなら、名もなき村人といったところだろうか。
「ねえ、イチちゃん。家族ってなんだと思う?」
 お昼の時間に私に聞いたことをアンさんはイチさんにも聞いた。
「え、なに?」
「家族。イチちゃんにとって家族ってどんなもの?」
「えー、なんだろ。よく分かんないけど、強いて言うなら安心できる人、かな。あ、それならあたしにとって母さんは家族じゃないかもしれない。連絡するたび結婚とか家庭とかうるさいから、安心できないし。うーん、なんだろうね。」
 アンさんと違ってイチさんは適当に言葉を吐き出す。けれど支離滅裂なことを言っているのではなく、ちゃんと筋が通ったことしか言わないから、イチさんの言葉も私は嫌いじゃない。
「さくらちゃんは?どう思う?」
 イチさんがオムライスを頬張りながら、私を見た。アンさんも微笑んで首を少し傾けた。うーん、と考える素振りをして、数秒後口を開いた。
「イチさんが言った、安心、というのは一つアリだと思います。けど、それだったら私も母を家族と認識できなくなります。」
「なるほど、なるほど。」
「あ、ちょっと待ってください。家族が安心できるグループだとすると。もしかしたら、こういうことを言っても怒られるか不安にならない人、かもしれないです。」
 自分で口に出しながら、ストンと胸の中になにかが落ちてピッタリとハマった。
「お?というと?」
「暴言とか陰口とか、そういう言葉でなくて。悩みごととか相談ごととか、それからその日にあった楽しかったこと悲しかったことを気軽に話すことができる人、が私にとっての家族なのかもしれないです。」
「おー、なるほど、なるほど。」
 イチさんが「いいね。」と言う横で、アンさんは静かに微笑んでいた。
「やっぱり、私にとってアンさんは家族なんだ。」
「ん?」
「そうなの?」
「うん。だって、アンさんにはいろいろなことを伝えたくなるの。悲しいことも嬉しいこともイライラすることも、全部アンさんと共有したくなる。そうだ、伝えたくなるんだ。なにかをしている時に伝えたいな、って思い浮かんでくる人がその人にとって安心できる人で、愛を与えたくなる人で、家族なのかもしれない。」
「どうしよう、すごく嬉しい。」
「最近の若者はすごいね。いろんなこと考えてるんだね。けど、納得した。よし、新しい記事が書けそうだ。帰るね、バイバイ。」
 ドタバタと音を立てて、一分も経たないうちにイチさんが扉を閉めた。
「アンさん、オムライス美味しかったよ。ありがとう。」
「うん、よかった。・・・・・・ふふ、すごく嬉しくて、変な顔になっちゃってる。」
 アンさんが嬉しそうに頬を緩めるだけで、私もとても嬉しくなる。きっと母やクズの笑顔を見ても、私は笑顔になれない。アンさんがとても大切だ。なんだか胸がポカポカする。フワアと風が吹いて、アンさんの綺麗な髪が少しの間宙に舞う。またセミの鳴き声がした。

 数日後、イチさんのホームページに新しい記事が載せられたらしい。タイトルは『家族とは、安心とラブでできている』。

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