9月1日は「防災の日」です。1923年9月1日に発生した関東大震災を教訓として、防災の意識を高めるために1960年に制定されたものです。
東京都では地震に弱い木造住宅の課題を解決しようと、地域を定めて支援する「不燃化特区制度」という制度の活用をすすめています。防災・減災につながる、この制度の概要と現状について解説していきます。
関東大震災では9割以上が火災の犠牲者
関東大震災では、10万人を超える死者のうちおよそ9割が火災による犠牲者とされています。
東京には、JR山手線の外周部を中心に木造住宅密集地域(木密地域)が広範に分布しています。こうした地域には倒壊の恐れがある老朽建築物や、消防車が入れないような狭い道路が多く、首都直下地震が発生した場合、火災の延焼が広範囲に及ぶリスクを抱えています。
東京都では、このような木密地域のうち、特に改善を図る地区を指定し「燃え広がらない・燃えない」まちづくりを進めています。指定された地区は「不燃化特区」と呼ばれます。
不燃化特区に指定されている地域は、東京都が公表している下記一覧表の通りです(2021年4月1日時点)。
老朽化した建築の建替えに助成金
東京都は、23区それぞれの自治体が推進している不燃化の取り組みに対し、2026年3月まで支援を行っています。取り組みの内容はそれぞれの区で異なりますが、老朽化した建物の建替えなどにかかる費用の一部を助成するケースが多くなっています。
例えば、老朽建築物を取り壊す際に、弁護士・税理士・建築士・不動産鑑定士などの専門家を無料で派遣します。要件を満たせば、取り壊しにかかる費用の一部が助成されます。老朽建築物除去後の更地に関しては、固定資産税や都市計画税の減免(最長5年間)が受けられる場合があります。
そして、建替えに伴う建築設計費や工事監理費が助成されます。建替え後の住宅が要件を満たせば、固定資産税や都市計画税の減免(最長5年間)が受けられます。老朽化した自宅を建替える予定がある人には良い機会でしょう。
助成金額や内容の具体例
足立区では老朽建築物の解体費用として最大210万円、不燃化建替え費用として最大280万円を助成しています。
世田谷区における支援は、区の目標である不燃領域率70%に達した年度で終了します。不燃領域率とは、市街地の「燃えにくさ」を表す指標で、70%を超えると延焼による市街地の焼失率がほぼゼロになるといわれています。
地震火災を起こさない取り組みを
首都直下地震対策は喫緊の課題ですが、不燃化特区制度による燃えないまちづくりについては、専門家も簡単ではないと言います。防災に関する調査研究を行っている公益財団法人市民防災研究所の理事・事務局長、坂口隆夫さんはこう話します。
「燃えないまちづくりは道路の拡幅も必要とされています。その場合、老朽化した建築物の建替えだけでは済まず、その建物の土地自体に踏み込むような内容になり、簡単にはまちづくりが進んでいません。実際、反対運動が起きた地域もありました。とくに高齢者世帯では建替え費用の問題が大きく、相続する家族がいなければ、建替え意欲は起きないでしょう」(坂口さん)
この制度では、耐火性能の高い住宅への建替えを強制することはできず、あくまでも所有者の任意によらざるを得ません。坂口さんは、建替えが進まない場合でも、住民の防災意識を高めることが重要だと指摘します。
「地震火災を防ぐには、例えば、感震ブレーカーの設置が有効です。感震ブレーカーは、ブレーカーに後付けが可能で、設定値以上の揺れを感知すると自動的に電気の供給を遮断します。これによって漏電による火災を防ぐことができます。防災は感震ブレーカーのような各家庭の取り組みだけでなく、地域コミュニティの連携も大切です」(坂口さん)
2023年には関東大震災から100年を迎えます。あのような惨事は二度と起こさないように、建替え需要に特区制度がうまくつながればと思います。
取材協力:公益財団法人市民防災研究所