【ウッドショック】木材価格の高騰は私たちにどう影響? 住宅の値上がりより「工事遅れ」に注意

昨年(2020年)から木材価格が世界的に高騰して、木材不足が続いています。日本が輸入する木材も減っていて、柱や梁に使う住宅用木材も国内で不足するのではないかと不安が広がっています。

木造住宅が多いにもかかわらず、日本の2019年の木材自給率は37.8%で輸入木材に頼っているのが現状です。今後、新築戸建ては値上がりするのでしょうか。

木材価格が1年で3倍に「ウッドショック」の経緯

世界的に木材不足が深刻になり、1970年代の「オイルショック」を文字って、「ウッドショック」と呼ばれる状況が起きています。アメリカでは木材価格が1年で3倍となるなど高騰しています。

米木材業界紙『ランダム・レングス』(Random Lengths)によると、針葉樹製材品総合価格(15種製材品の加重平均価格=図1)は、新型コロナ禍の影響で2020年は年初から低迷していましたが、4月の358ドルから上昇し始め、7月下旬には18年の史上最高値を上回り、9月上旬には939ドルとなりました。その後反落したものの、再び11月下旬から上昇に転じ、史上最高値を更新しました。今年4月上旬には1,048ドルに達しました。

出典:ランダム・レングス社のデータから一般財団法人日本木材総合情報センターが作成

木材の需給や価格、消費に関する情報収集・分析を行っている日本木材総合情報センターによれば、アメリカでは新型コロナウイルス感染症の拡大で昨年4月までは住宅着工件数が落ち、価格は低迷していたものの、過去最低水準の住宅ローン金利によって住宅ブームが巻き起こり、7月になると上がり始めたとしています。

新型コロナ禍でテレワークが定着し、都市部の集合住宅から郊外の広い戸建てへと引っ越しする人が増え、新築住宅需要を一気に押し上げました。もともと、アメリカにおける住宅売買のメインは中古物件ですが、すぐに中古住宅の在庫が逼迫(ひっぱく)し、これまで何もなかった土地に、新築の木造2階建て住宅が建てられていきました。

また、「中古住宅市場が活発なアメリカでは、自宅の資産価値を高めるために手入れをする人が多い」(同センター担当者)といいます。DIYの巣ごもり需要も活発化しました。

このように、アメリカにおける住宅需要の急増により、北米の木材価格が高騰、世界の木材需要を牽引する形となっています。

不動産コンサルティング会社・さくら事務所の長嶋修会長はアメリカの事情をこう説明します。

「コロナ禍による大規模な金融緩和により、10年前だと4%台だった住宅ローン金利が2%台になり、主にニューヨークのような大都市で住宅ブームが起きました。日本と大きく違うのは、大都市では暴動もあったので、郊外への人口移動が派手に起きたことです。昨年は製材工場でも労働者が解雇されましたが、現在のアメリカは経済が急激に回復し、求人ブームです。製材所にすぐに人が集まるかどうか見通せません。世界的に木材不足となり、今年になってからは、日本でも木材価格高騰が顕著になりました」(長嶋さん)

木材不足は長期化のおそれも? 難しい国産材への転換

国産の木材は人手不足と高齢化のため流通量を増やすことは難しい

木材高騰の原因はアメリカの国内事情ばかりではありません。

中国から始まったコロナ禍でしたが、経済活動をいち早く再開させたのも中国でした。咋夏以降、欧米での巣ごもり需要拡大により、中国から欧米向けの貨物が急増、世界的に海上輸送用コンテナが不足しました。そのせいで海上運賃が値上がりし、木材高騰の一因となっています。

欧州も経済活動再開後は建築市場が堅調でDIY需要も増加し、アメリカへの輸出も増加しました。
「欧米は国内で木材不足になっているので、輸出はしづらくなっています。日本の規格は独特なので、特に日本には輸出しづらいのです」(長嶋さん)

日本における2019年の木材国内自給率は37.8%(2020年9月林野庁発表)。日本は多くの木材を海外からの輸入に頼っています。世界的に高騰しているうえに、輸入木材が日本に入ってこないため、国産木材も値上がりしています。農林水産省が5月に公表した「木材流通統計調査」によると、4月のスギ丸太の価格は、前年同月比で1割程度上昇しています。

輸入木材の供給は短期間で回復する見込みはなく、林野庁は4月30日、関連の業界団体に対し、実際の需要に基づく適切な木材資材の発注に努め、必要以上に在庫を抱えることがないよう、冷静な対応を求めています。

輸入木材が不足しているなら国産材の供給を増やせば…、と考える人は多いでしょう。しかし、話はそう簡単ではありません。国産材は林業や木材加工業の人手不足と高齢化もあって、急激に流通量を増やすことは難しいといわれます。日本では木材用の樹木が山の斜面に植えてあるため、そもそも切り出すのが高コストになっています。また、木は成長するまでに30~40年かかり、その間も手間をかけて管理しなければならず、これからの森林政策に注意する必要がありそうです。

住宅価格の値上がりよりも工事の遅れが心配

これから戸建て住宅の取得を計画している人や大規模なリフォームを予定している人は心配でしょう。さくら事務所の長嶋会長に今後の見通しについて聞きました。

「現在建築中の人は大丈夫です。しかし、これから契約する人は、着工が7月以降になるので注意が必要です。木材の供給が遅れ、工事が遅れる可能性もあります。木材価格高騰による住宅価格の値上がり幅ですが、30坪4LDKの2,000~2,500万円の戸建てで20万円程度でしょう。住宅メーカーにどのくらいの木材ストックがあるかによって変わりますが、金額的には心配するほどではないかもしれません。むしろ、工事が遅れて引き渡しが読めない事態のほうが大きな問題です。賃貸に住んでいる人は引っ越しの見通しが立たず、想定外の出費が必要になるからです」

長嶋会長は最近、住宅メーカー担当者と弁護士を交えて、今後の契約書に関するセミナーを開催しているそうです。引き渡しの時期などについて、契約書にどんな文言を入れれば、万が一、工事が遅れた際に法的問題に発展しないか検討しているとのことです。

〈取材協力〉
一般財団法人日本木材総合情報センター
株式会社さくら事務所

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