コロナ下で、住宅市場はこれまでとは違う状況になっています。こんなときだから、人は動かないと思いがちですが、実は意外にも売り時と言える状態になっています。住宅市場の動向を把握して、売り時について考えていきましょう 。
マイホームの売り時を左右する条件は3つ
2016年は、住宅市場のターニングポイントの年になりました。新築マンションの供給数よりも中古マンションの成約数のほうが多くなり、市場のカギを握るのが「新築から中古に」転換したからです。それ以降、リーズナブルな価格で手に入る中古住宅に人気が集まっています。中古住宅市場が活性化している時は、住宅を売るチャンスといえます。実は、売り時を左右する条件は3つあります。
1. 需要がある
2. 類似物件が少ない
3. 価格が高い
売るためには、買い手が必要です。買い時で買い手が多いことが、売りやすさの条件になります。ただし、買い手がいても類似した物件が多ければ、買い手は条件が良いもの、価格の安いものを選んでしまいます。類似物件が多いことは、売りやすさを阻害する要因になります。
また、売るのであれば高く売りたいものです。住宅価格が高止まりしている時期が、ベストのタイミングです。価格だけを見れば、上昇しているときはじっくりと、下降しているときはできるだけ早く売るといった考え方になります。
では、今はどういった住宅市場になっているのでしょうか?
コロナ禍でも住宅需要は落ちていない
リクルートが実施した「第2回 コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査」(2020年12月公表)によると、新型コロナウイルス感染拡大によって、住まい探しを「抑制」された人がいる一方で「促進」された人もいますが、最多は「影響はない」でした。
首都圏の結果を第1回調査(2020年5月緊急事態宣言中に実施)と第2回(2020年9月実施)を比べてみると(図表1参照)、「抑制」された人よりも「促進」された人のほうが多くなっています。なぜ促進されたのかというと、従来の結婚や出産、子どもの進学といった家族の変化や、就職、転勤などの通勤先の変化による需要に加え、「在宅勤務」が増えたことで、仕事をするためのスペースや通信環境を確保したい、あるいは換気や日当たり、冷暖房効率の良い住宅に住みたくなったといった、新しい需要が生まれたからです。
中古市場の成約件数は落ちていない
では、実際に中古マンション市場はどう動いているのでしょう?
東日本不動産流通機構(以下、東日本レインズ)が公表する、首都圏の四半期ごとのデータ(図表2参照)を見ていきましょう。四半期ごとのデータを見るときに注意したいのが、季節要因です。住宅市場は4月の新年度に向けて、1~4月に活発化します。夏枯れといわれる7~9月(第3四半期)は動きが鈍くなります。10~12月(第4四半期)に市場が回復するといった波を繰り返すのが通常です。
過去3年間の成約件数(売買が成立した件数)の推移を見ると、最初の緊急事態宣言が発令された2020年4・5月にかなり落ち込んだことが影響して、4~6月(第2四半期)の成約件数は対前年同期比で33.6パーセントダウンとなりました。しかし、それ以降は回復し、2021年1~3月(第1四半期)では対前年同期比で12.2パーセントと増加しています。
つまり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時的に中古マンションの売買が減ったものの、市場の動向として売買取引は縮小していないことが分かります。
では、成約価格はどうでしょう?
新築マンションの供給戸数が少なくなり、価格が上昇するにつれて、中古マンションに注目が集まっています。そのため、中古マンションの価格は上昇トレンドにありました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年4~6月(第2四半期)でやや減少に転じましたが、以降は再び上昇しています。平均成約平方メートル単価は、2018年第1四半期の51.65万円から2021年第1四半期の58.14万円へと3年で6万円以上上昇していることが分かります。
マンションの価格は景気の影響を強く受けるので、今後も同じように上昇するかどうかは不透明です。コロナ禍の景気動向にもよりますが、筆者は当面は高止まりするのではないかと見ています。
ここでは中古マンションのデータを使って説明しましたが、中古戸建ての市況も同じようになっています。もともと新築も中古も戸建ての市場は戸数や価格が安定しており、大きな変化がないのが特徴です。それでも「在宅勤務」が広がるにつれ、家の広さや部屋数が求められるようになり、中古戸建ての2021年第1四半期の成約件数は対前年同期比27.8パーセントアップと大きく伸びました。ただし、成約価格はおおむね横ばいで推移しているのが、中古マンション市場との違いです。
最も注目したいのが、売り出す物件数の減少と在庫の圧縮
住宅需要もあり、価格も横ばいか上昇という、売るにはよい条件にありますが、最も注目したいのは、市場に出回る物件数が少ないことです。
先ほどの東日本レインズの首都圏の四半期ごとのデータ(図表2)を見ると、中古マンションの新規登録件数(市場に新たに売り出される件数) は、2019年第4四半期から減少トレンドに転じています。以降も四半期ごとに、減少する割合は大きくなっています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響は、買い手よりも売り手の意欲を削ぐ形になっています。
需要はあるのに新たな売り出し物件が少ないことで、市場に出回っていた在庫物件が買われています。同じ東日本レインズの首都圏の月次データ(図表3参照)を見ると、新規登録件数が減り続けるのにつれて、在庫件数も減っていることが分かります。首都圏の中古戸建ても同じ状況になっています。
つまり、史上まれに見る「品薄」の状態になっているわけです。品薄イコール競争相手が少ないということですから、売り時と言ってよいでしょう。
リクルートの「2020年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」によると、売却検討者の数が、2020年は2019年より少なくなっています。また、売却を検討する時期として、「有利」(とても有利+やや有利)と回答したのは38.3パーセント、「不利」(とても不利+やや不利)と回答したのは22.1パーセント、「どちらともいえない」は30.3パーセントとなっていました。
有利と思った人が相対的に多いという結果ですが、なぜ「有利なタイミング」と感じたのでしょうか? 一番多かった理由(図表4参照)は「買いたい人が増えていそうだから」(44.5パーセント)でした。売り時の条件でいえば、「需要がある」という観点です。
「住宅ローンの金利が安いから」や「住宅ローンの減税制度が充実しているから」なども需要から見た理由です。コロナ下で売却を検討した人(検討開始月が2020年4月以降)に限ってみると、「貸すより売ったほうがよさそうだから」や「競合する物件が少なそうだから」が多くなっています。
筆者は、中古住宅市場の品薄によって「競合物件が少ない」ことが、売却に有利な最大の理由だと思います。ここまで新規売り出し物件や市場に出回る物件が少ないことは、それほど多いことではありませんから。
売れない物件には理由がある。最大の理由は…
だからといって、どんな住宅でも売りに出せば売れる、というわけではありません。
すむたすが「不動産のプロが考える不動産が売れない理由」ランキングを発表しています。
ランキングは、不動産売買業の従事者に対して、選択肢に当てはまると思うかを聞き、「当てはまる+やや当てはまる」の合計の多い順にランク付けをしたもの。トップ10の理由は図表5の通りです。
トラブルのリスクがあったり、築古などの理由で建物や室内、設備等が劣化していたり、駅から遠かったり… これらに該当する住宅は売りづらいというのが、プロの意見です。ただし、飛びぬけて1位になったのは、「売主の希望価格が相場より高く設定されている」ことです。
売主にとっては愛着のあるわが家ですし、住み慣れているので、買い手が感じるほど気にならないこともあるでしょう。だから、売主がこの額で売りたいという希望価格が、相場より高い額になるということはままあることです。上手に売るためには、相場に応じた適正な価格で売ることが欠かせません。
もし、今が売り時と考えて自宅を売却をする場合は、適正な売り出し価格を提案できる、そのエリアの相場に精通した不動産会社を見つけ、プロの助言を参考にして売り出すのがよいでしょう。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)