新型コロナウイルス感染症が世界中に拡散し、大切な人命を奪うだけではなく、社会・経済に深刻な打撃を与えています。マンション市場も例外ではありません。価格が高くなりすぎたこともあって、売れ行きは鈍化しているものの、価格は2019年まで上がり続けてきましたが、リーマンショック時以上の打撃といわれる今回の事態を受けて、マンション市場はどうなるのでしょうか。
※本記事は5月24日までの情報をもとに執筆されています
経済活動の自粛がいつピークアウトとなるか次第
新型コロナウイルス感染症拡大の怖さは、現在までの被害が大きいだけではなく、その影響がどこまで続くのか分からないところにあります。
すでに2019年度第4四半期(20年1月~3月)の実質GDP(国内総生産)は、図表1にあるように、年率換算でマイナス3.4%(速報値)まで低下しており、20年度第1四半期(20年4月~6月)は、三菱総合研究所の予測ではマイナス13.2%まで下がると見込まれています。調査機関によっては、20%前後のマイナスになるとするところもあるほどです。
その後については、いつこの新型コロナウイルス感染症を抑さえ込めるのかによって、見方が異なってきます。経済活動の自粛を6月までとした試算であれば、20年度第2四半期(20年7月~9月)には、年率15.5%まで急回復することが期待できますが、自粛が20年12月まで続いた場合には、なだらかな回復にならざるを得ず、本格的な回復が遠のいてしまいます。
いずれにしても、当面は大きな落ち込みを避けられないわけで、マンション市場にも深刻な影響を与える可能性があります。
強気から弱気まで三つのシナリオが考えられる
いろいろな調査機関や住宅問題の専門家などが、今後のマンション市場への影響を予測していますが、その論調を大きく分けると、次の三つに分類できそうです。
(1)経済の失速によってマンションは売れなくなり、価格は暴落する
(2)市場は弱含みになるものの根強い需要は変わらず、やや下落程度に収まる
(3)1年後か2年後にはハイパーインフレが発生して、価格は暴騰する
弱気から強気までさまざまですが、著者はまず(2)が妥当なところではないかと考えています。
その理由として一番大きいのは、新築マンションにおいては、首都圏を中心に大手不動産会社の寡占化が進んでいる点が挙げられます。三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産などの大手が発売戸数の半分以上を握っていて、多少売れなくなっても、すぐに値下げする必要はなく、売れるまで待つだけの体力がある会社が大半になっているのです。
ローンの超低金利が根強い住宅需要を後押しする
新型コロナウイルス感染症による景気後退によって、賃金は上がらず、むしろ実質賃金は下がる可能性がありますが、それでも、日本人の持ち家指向の強さは変わりません。不動産を持っている人が強いという土地神話に支えられて、多少苦しくても不動産を買っておこうと考える人は、一定の割合で存在するはずです。
それを、超低金利が後押しすることになります。新型コロナウイルス感染症による景気後退が続けば、とても金利を上げることはできません。住宅ローンも超低金利が続くことになって、いまのうちに買っておかなければと考える人がいるのではないでしょうか。
将来景気が回復すれば価格が上昇、金利も上がって買えなくなってしまう、だったらいまのうちに買っておいたほうが得策――と買いに走る人がいて、マンション市場の売れ行き鈍化が続いても、価格が暴落することはないと考えられます。
そうはいっても、需要が多少なりとも減退するのは避けられないので、価格も若干は下がるでしょうが、大幅な暴落はあり得ず、やや下がる程度の範囲に収まることになるとみているわけです。
市場では価格が下がるとする業界関係者が多数派に
いや、新型コロナウイルス感染症の影響の深刻さを考えれば、そんな程度ではすまない、大暴落が起こるはず――というのが(1)の考え方です。
2008年のリーマンショック後には、首都圏新築マンション価格は、2008年の4,775万円から翌年には4,535万円に5.0%下落しました。今回はこのリーマンショック以上の打撃であり、1990年代のバブル崩壊時のような暴落もあり得るという見方もあります。
当時は1年で1割程度、5年で3割ほど下がったものです。そこから立ち直るまでには10年以上の歳月を要しました。
図表2をご覧ください。これは、全国宅地建物取引業協会連合会が会員企業に対して、四半期に一度実施している調査から、最新の結果をグラフ化したものです。2020年4月時点で、3ヶ月後の市場について土地価格やマンション価格などの見通しを聞いているのですが、新築マンション価格では72.9%が「やや下落している」「大きく下落している」としており、なかでも19.4%と5社に1社近くが「大きく下落している」と答えています。
オリンピックが中止になればハイパーインフレが始まる?
反対に、「大きく上昇している」とする回答は皆無で、「やや上昇している」が2.6%とたいへん厳しい結果になっています。
新築マンションの取引件数に関しては、「やや下落している」「大きく下落している」の合計が84.1%に達し、「やや上昇している」「大きく上昇している」はゼロでした。新築マンション取引は賑わいを失い、価格が大幅に下がるとする不動産会社が少なくないわけです。
一方、新型コロナウイルス感染症は長期的にみると、マンション価格の暴騰をもたらすので、まだ価格の安いいまのうちに買っておいたほうがいいとする専門家もいます。冒頭の三つのシナリオのうちの(3)です。
その論者によると、東京オリンピックは1年先送りにしても開催は難しく、日本は世界中から信頼を失い、通貨や国債の価値が急落、金利が上昇してハイパーインフレが始まり、住宅価格も暴騰するとしています。
こうした考え方をとる専門家は少数派であり、個人的には、日本の経済・社会のファンダメンタルズを過小評価しているのではないかという気がします。
さて、実際にどうなるのか――正しい見極めを行う判断力が問われそうです。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。