【ARUHIアワード12月期優秀作品】『優しさに染まるとき』辻本羽音

 手紙を開けば、犬のイラストが描かれた可愛らしい便箋が目に飛び込んできた。どうやら犬派か猫派か揉めたことをいまだに根に持っているらしい。瞳は「結衣らしいなあ」と思いながらくすっと笑い、手紙を読み始める。なぜか心臓はいつもより速く脈打っていた。

 いっつも「なにを描いてるか分からない」って言ってた瞳にプレゼントです。私が有名な画家になるまで大切に取っておいてね。

 結衣から残されたメッセージはあまりに短かった。しかし、よくみると何度も書き直したような跡が紙に残っている。瞳は目頭が熱くなるのを感じながら、細い指先でラッピングされた袋のリボンを丁寧に解いた。そして結衣が瞳へ残していったものと対面する。それは額縁に入った一枚の絵。
 描かれていたのは、コーヒーを淹れている瞳の姿だった。
「こんなのいつの間に……」
 瞳は声を震わせながら絵をなぞる。いつも奇抜な色合いをしている結衣の絵とは違う、そのままを描いた絵だ。瞳は絵に触れた瞬間、初めて結衣の絵を、見ている世界を理解する。
 もしかしたら同じ景色を見ているつもりでも、二人の目には違ったものが映っているのかもしれない。瞳はずっとそう思っていたが、それは間違いだったのだ。二人が並んで見ていた景色は確かに同じ色をしていた。修学旅行の時に見た夕日も、合唱コンクールで優勝して一緒に流した涙も、二人の思い出は全て同じ色だった。
 その事実に気づいた時、ずっと我慢していた結衣への思いが溢れ、瞳は声をあげて泣いた。結衣にとっての優しさがコーヒーであったように、それは瞳にとってかけがえのない優しさだったのだ。
 泣いている瞳の姿が、コーヒーを飲んで涙をこぼした結衣と重なる。正反対な二人は、お互いに与えあった優しさで同じ色に染まっていった。

「ARUHIアワード」12月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」11月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」10月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」9月期の優秀作品一覧はこちら 
※ページが切り替わらない場合はオリジナルサイトで再度お試しください

~こんな記事も読まれています~