先週幼馴染の志保(しほ)から誘われたときのことだ。志保は五年前に結婚して既に一男一女の母である。人生のスピードも生活パターンも全く違うふたりだが、なぜか気を許せる友人としてもうかれこれ二十五、六年のつきあいだ。
「子どもたちはいいの?」
「今日は実家に泊まりに行ってる。嬉しいなあ。久々の外出よ」
案外真面目なのだ。
焼き鳥でビールを少しずつ飲みながらお互いの近況報告をした。
「なんで友香に彼氏がいないのか私わかる」
「なんでよ」
「学校のカーストって言い方知ってる?」
「もちろんそれくらいは。今の子は大変だよね」
「だけどさ、私たちのときだってそんな言葉がなかっただけで、中身は存在したと思うのよ」
「そうかもね」
「でね、ここからが大事なの。なぜ私はいつもちゃんと彼氏がいたかっていうと理由があるの」
「聞きたい!教えてよ」
そういえば志保は高校の頃から交際相手が切れたことがなかった。それも結構人柄のいい男ばかりに好かれる。結婚相手の俊英(としひで)にしても誠実で子煩悩で働き者だ。
「私はね、自分をよくわかっていたの。モデルみたいにきれいでもなければ、とびきり頭がいいわけでもない。だからどういう男子が自分と合うか、どういう人が自分を好きになってくれるか、しっかり見極めて、勘も磨いて、自分からちゃんと言うようにしていたから失敗知らずなの。友香は努力が足りないと思うよ」
「どんな人が自分に合うかわからなくて失敗続きなのよ」
「簡単よ。例えば、私が上原君みたいな人に当たっても絶対だめじゃん」
懐かしい名前が出た。上原君はサッカー部のエースで、かつ成績はいつも五番以内、涼しい目のアイドル系のスターだった。性格も温厚で怒ったところを見たことがないと、男女問わず認める人格者でもあった。
なのに友香は上原君にドキドキしたことがない。長い列に並ぶのが苦手な性格だからかもしれない。例えば好きなバンドやアイドルグループでも、ボーカルの人よりちょっと後ろにいる陰の薄い人のほうが好きなのだ。
「そうかなあ。案外うまくいったかもよ」
「だめだめ、あの頃の上原君の倍率考えると。そう、それでね、かといってモッチーや、イシケンだと妥協しすぎっていうか」
モッチーこと望月君はいつもふざけてクラスを盛り上げていた。それが自分の使命だと固く信じていたのか、ついついやってしまうのかはわからなかった。そんなモッチーを嫌いではないけど、異性として見ることができるかと言えば難しい。イシケンはもはやフルネームを忘れた。小学校のとき、しょっちゅう大した理由もなく泣いていた。それだけで対象外だ。
「ひどい!でも確かにそうかもね」
「あの頃の私にちょうどいいのは、うちの団地で言えば、そうねえ……あっ、 水野! ああいう感じの人よ。そうそう」
自分で言っておきながら志保は的確さに感心している。
「水野君か。そっか……」
「水野って目立つほど優等生でもないし、走るのが速いってわけでもなかったじゃない。かといって不良でもないし、いい人だけど特別人気者ってわけでもないでしょ。影の薄さがほどよいっていうか」
「ひどい」
何しろ名字呼び捨てなのだ。
「だけど友香は上原君が無理だとしても、上原君と水野の間くらいをガンと狙っていいと思うよ」
間くらいって……なんかすごく失礼なことを言われた気がしたけどおかしかった。人を上から順に並べて比べるのはどうかと思うけど、志保はどこかいつも公平で温かい。口で言うほど打算がないし、人を見下すこともしない。
「そうは言ってもね、うちの俊君、私にはもったいない人だと思っているのよ」
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