【ARUHIアワード9月期優秀作品】『いつかのターコイズブルー』八嶋 祥子

 途方に暮れていると、砂浜を歩く佐久間が目に入る。今はとにかく助けてほしくて、佐久間のところまで駆けていく。
「あのさ、久しぶり」
「……」
「えっと、俺の事わかる? 同じクラスの高橋翠(あきら)なんだけど」
「わかるよ。それに、さっきここ来る時後ろついてきてたでしょ」
 う、バレていたのか。恥ずかしいけれど、今はそれどころじゃない。
「実はさ、ショルダーバッグ置いてたら盗まれちゃったみたいで。帰りの交通費だけでいいから貸してくれないかな? 本当に困ってるんだ」
「へえ」
 そう言ってこっちをじっと見る。長い前髪の隙間から覗く真っ直ぐな視線が落ち着かない。
「いいよ」
「え、ほんとか! すっげえ助かるわ!」
 なんだ、話のわかる良い奴じゃないか。そう思っていると、彼はごそごそと手に持っていた透明な袋を漁ってその中から一つ取り出した。
「その代わり、これ探すの手伝ってくれたらね」
 そう言って、太陽の光を柔らかく反射させた青色のシーグラスを俺に見せた。

 じんわりと汗がTシャツと肌の間を流れ落ちる。
 かれこれシーグラスを探し始めて三十分は経っていた。
 佐久間は、一つでも見つけてくれたらそれでいいよと、それだけ言ってまた一人で捜索を始めてしまった。
 砂浜を裸足で歩くのは結構痛くて、まずは近くの水道で足を洗って、ハンカチで拭いて靴を履いた。靴下を履く気にはならなかったのでポケットに押し込む。
 そしてようやく捜索開始。俺は結構自信があった。
 しかし、鮮やかな色のものを探して拾い上げるとそれはプラスチックだったり、光の反射で光ったところを確認するとそれはビニールの切れ端だったり。舗装されていない砂の上を歩くのは大変で、徐々に体力が奪われていく。
 耐えられなくなった俺は佐久間に声をかけた。
「なんか探すコツ教えてくれない?」
「まだ見つけてなかったんだ」
その物言いに少しイラッとしながらも、帰れないのは困るため大人しくしておく。
佐久間が口を開く。
「ないよ、別にコツなんて」
「え?」
「ひたすらにそれっぽいのを見つけて拾い上げて確認して、違ったらリリースして。ひたすらにその繰り返し」
「いや、それなら俺だってやってるよ。それでも全然見つからないから聞いてるんだけど」
「本当にちゃんとやってる?一個一個しっかり見てみなよ。案外違うかもなって思ったやつがビンゴだったりするんだから」
 そう言って佐久間はしゃがんでシーグラスを手に取るとまた一つ袋に入れる。
確かに図星だった。何回か拾い上げて、また落としての作業を繰り返しているうちに、どうせ次も違うだろうと。あとはひたすら砂浜を見ているばかりだった。
「楽して見つかるようなものでもないからね。じゃあ頑張って」
 こいつ実はすげえ嫌な奴なんじゃないのか。
 でも、とにかく帰れないのは困る。仕方がないから言われた通り、疲れた体に鞭を打って何度もしゃがんで確認、拾って確認。プラスチック、プラスチック、よくわからない色鮮やかな軽い物体。
 まさかこんなに見つからないとは思わなかった。
 もう諦めて親に電話をしてしまおうか。そう思っていると、砂の中から少し見える透けるような茶色。どうせまた違うんだろうなと思いながらしゃがんで手に取ると、それはガラスだった。でも、シーグラスとは言い難い、まだ全然擦れていないような表面がツルツルしたガラス。日に透かすとキラキラして思わず見入ってしまった。
 でも、これはカウントされるのだろうか。そう思いながら眺めていると、後ろから伸びた手に取り上げられる。
「いいよ、合格。お金貸してあげる」
 逆光で影になった満足そうな笑顔が頭上にあった。
 かれこれ探し始めてから一時間は経っていた。

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