日本では今後、すべての住宅の省エネ対策の義務付けが予定されています。その準備段階として、2024年4月から「省エネ性能表示制度」が始まりました。省エネ性能表示制度がどんな制度なのか、どんなラベルなのか見ていきます。
1.2050年カーボン・ニュートラルに向けた第一歩
カーボン・ニュートラルとは、温室効果ガスを吸収・除去して「排出量を差し引きゼロ」にした状態のことで、日本を含む120以上の国が2050年の実現を目標に掲げています。カーボン・ニュートラルに向けた取り組みは、すでに私たちの身近でも行われています。例えば、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー設備の設置や、EV(電気自動車)の導入は、排出量抑制に貢献する代表的な取り組みといえます。
CO2 排出量全体の約3分の1を占めると言われる住宅・建築物においては、最終的には2050年時点で「新築だけでなく中古住宅もZEH水準・ZEB水準(ネットゼロ・エネルギーハウス/ビル)の省エネ性能の基準を満たす」つまり「家は省エネ性能が当たり前」となることを目標としています(下記イメージ参照)。そして、その前段階として省エネ性能表示制度の開始があるのです。
2.省エネ性能表示制度ってどんな制度?
省エネ性能表示制度とは、住宅販売業者や賃貸事業者が住宅など建物の省エネ性能を、新聞・雑誌広告、チラシ、パンフレット、ネット広告にきちんと表示することで、私たち消費者が住宅を購入したり借りたりする際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度です。住宅などの買い手・借り手の省エネ性能への関心を高めることで、省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進される市場づくりを目的としています。
「住まいを省エネ性能で選ぶ」ためには、建物の省エネ性能を見てすぐにわかるようにすることが非常に大切です。そこで、始まるのが「省エネ性能表示制度」です。2024 年4月から住宅・建築物を販売・賃貸する事業者に、省エネ性能ラベルの表示が努力義務となります。努力義務とはなっていますが、適切なラベル表示がされていなかった場合には国から勧告等を受けるなど、結構厳しい制度となっています。
3.省エネ性能表示制度の努力義務の対象は?
すべての建物がラベル表示の対象になるわけではありません。対象となるのは2024年4月以降に新たに建築確認される分譲マンション、分譲戸建て、賃貸住宅などで、販売・賃貸する予定でない注文住宅、性能評価が難しい既存住宅などは現時点で対象ではありません。
なお、省エネ表示の方法としては、「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書(建築物の概要と省エネ性能評価を記した保管用の証明書)」のセットで行われます。「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」を発行するには、住宅販売会社等が国の指定するWEBプログラムを使って自身で行う「自己評価」か「第三者評価」の2種類の方法があります。第三者評価の場合には、現時点では、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使うとされています。
4.省エネ性能ラベルを見れば何がわかる?
省エネ性能ラベルでは、ひとめで「省エネ性能」や「省エネ水準の達成度」がわかるように星のマークや数字で省エネ等級が記されています(イメージ図参照)。星の数が多いほど数字が高いほど、省エネ性能が高いことを表しており、パッと目で見てすぐに省エネ性能が判別できます。
【1】エネルギー消費性能
国が定める省エネ基準からどの程度消費エネルギーを削減できているかを見る指標で、星の数で表示されています。星の数が多いほど、消費エネルギーが少なく、つまり省エネ性能が高くなります。例えば、国の省エネ基準に適合していれば星1つ。星1つはエネルギー消費量の削減率10%分なので、10%削減するごとに、星が1つずつ増えていくイメージです。ただし、エネルギーを使っても、太陽光発電などのいわゆる再エネ設備があればエネルギー消費は抑えられるので、再エネ分でのエネルギー削減量については、光る星のデザインの星でその評価を表します。
【2】断熱性能
「建物からの熱の逃げやすさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」の2つの点から建物の断熱性能を見る指標です。数字が多いほど、外からの熱が入りにくく中から熱が逃げにくい、つまり室内が適温に、快適に保たれやすいといえます。なお、国が定める省エネ基準に適合していれば「4」、ZEH(ゼッチ)水準に達していれば「5」となります。
【3】目安光熱費
その住宅の省エネ性能であれば、電気やガスなどの年間消費量がどの程度になるかを一定の条件を基に計算して、エネルギー単価をかけて算出した年間光熱費が目安として金額で表示されています。なお、これについては、住戸面積30平方メートル当たり1人で設定、住戸面積が 120平方メートル以上の場合は4人で設定されています。また、全国を8つの地域に分けて気温を想定、一日のなかの冷暖房の使用時間なども設定して計算されています。当然、家族の人数や生活スタイルでも光熱費は変わるので、あくまで目安ということや、実際に光熱費がその金額になるわけではない点、太陽光発電の売電量は光熱費の対象外という点には注意が必要です。
また、この項目は任意項目なので物件によっては表示されていないケースもあります。ちなみに、新築マンションや分譲戸建てでは、各住戸のラベルを個別に表示しきれない場合に、1つの省エネ性能ラベルを使って広告をすることがあるようです。購入時にはチェックしましょう。
5.エネルギー消費性能評価書は捨てないで大切に保管する
2024年4月以降に新たに建築確認された分譲マンション、分譲戸建てを購入した際には、「エネルギー消費性能の評価書」が渡されるようになります。これは、省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類です。将来、住宅を売却するといった場合には、評価書があれば売る際の広告等でも表示ラベルが使用できます。もちろん、リフォーム等で住宅の性能を変えていないなど、当初の省エネ性能が維持されていることが条件ですが、売却時に評価書の有無で売値が変わる可能性があります。失くさないよう、大切に保管しておきましょう。
2024年以降、省エネ基準に適合していない新築住宅は住宅ローン減税の対象外となっていること、近年エネルギー価格が高騰していること、小型のエアコンでも良く効き、朝・夕は風通しの良い家で暮らすことでの快適な生活、【フラット35】では省エネ性能が高い住宅については一定期間金利の引き下げを受けられること、補助金などさまざまなことを考慮すると、今後は省エネ性能で住まいを選ぶ、というのもひとつの選択肢として挙がってきそうです。
ただし、建築や設備の設置などにかかるコストが高く、初期費用が高くなりがちなことなど注意点もあります。省エネに飛びつくのではなく、将来の生活スタイル、維持コストも踏まえてメリット・デメリットを踏まえて選択することが大切ですね。