住宅ローンは繰り上げ返済を利用すれば、当初設定した借入期間よりも早く完済できます。ただし、収入状況やライフスタイルによっては返済を繰り上げないほうがよい場合もあります。
今回は、住宅ローンを早めに完済することのメリット・デメリットや、繰り上げ返済を利用する前に考えるべきことなどを解説します。完済後に必要な手続きも紹介するので、参考にしてみてください。
住宅ローン完済までの期間は何年?
住宅金融支援機構が実施した「2020年度 住宅ローン貸出動向調査」によると、2019年度に新規契約した住宅ローンの借入期間(約定貸出期間)は平均27.0年でした。一方、完済した住宅ローンを見てみると、借り入れから完済までの期間(完済債権の貸出後経過期間)が平均16.0年となっています。
また、割合が最も多い約定貸出期間は25年超え30年以下で44.4%、完済債権の貸出後経過期間は10年超え15年以下が43.2%と最も多くなっています。
以上の調査結果から、当初設定した借入期間よりも約10年~20年早く完済するケースが多いことがわかります。
出典:2020年度 住宅ローン貸出動向調査 | 住宅金融支援機構
住宅ローンは早めに完済すべき?
住宅ローンを早めに完済すべきか考えるときは、まずメリット・デメリットを把握する必要があるでしょう。住宅ローンを短期間で完済すると、その分の利息が減り、総返済額を抑えることができます。
たとえば、2,800万円を借入期間30年・金利2.05%で借り入れた場合、約900万円の利息を支払うことになりますが、早く完済すれば利息の支払い額が減らせます。完済後は毎月の経済的負担も減るので、家計に余裕が出る点もメリットです。
一方で退職金や貯蓄を使って一括返済すると、手元資金が少なくなるため、大きな出費に対応できなくなるおそれがあります。
住宅ローンを完済する前に考えるべきこと
住宅ローンを完済する前には、これから紹介するポイントを考えておく必要があります。詳しく見ていきましょう。
住宅ローン以外の債務の返済
住宅ローンのほかに自動車ローン・教育ローンなどがある場合は、返済の優先順位を考えてみることをおすすめします。住宅ローンよりも金利が高い債務を先に返済したほうが、支払う利息が安く済むためです。
金利が高く、返済期間が長い債務ほど、早く完済することで総返済額が抑えられます。完済すると利息支払い額がどれくらいカットできるのか、ローンごとにシミュレーションして比べてみるといいでしょう。
子どもの教育費
手元資金を削って住宅ローンを完済する際、子どもの教育費は残しておかなければなりません。子どもの教育費は年齢が上がるにつれて高くなる傾向があるため、計画的に積み立てをして準備しておく必要があります。
進学先の学校が公立か私立か、どの学部に進むか、進学にあたって1人暮らしが必要かどうかによって、必要な教育費は大きく変わります。本人が留学を希望すれば、さらに資金が必要になるでしょう。
進学先について子どもの希望を確認したうえで、住宅ローン返済とのバランスを考えた確実な資金計画を立てることが大切です。
急な出費や収入減への備え
住宅ローンの繰り上げ返済額を検討する際には、急な出費や収入減への備えを残すことも重要です。
たとえば、病気や怪我をしたり、勤務先の経営状況悪化によりボーナスや給与が減額されたりすれば、手元資金で当面の生活費・治療費・教育費などをまかなう必要があります。
不測の事態が起きたときのために、手元には3~6ヶ月分の生活費があるといいとされています。急に職を失ったとしても、半年は生活に困らない蓄えがあれば、余裕をもって次の就業先が探せるでしょう。
住宅の維持管理費
住宅ローンの早期完済を検討する際には、住宅の維持管理費も考慮に入れておきましょう。
住宅は経年劣化に伴い修繕費がかかるようになります。また、故障や災害、事故などで、急に修繕費が必要になるケースもあります。
戸建ては基本的にすべて自己資金で維持管理費をまかなわなければなりません。分譲マンションの場合でも、共有部分の修繕は住民同士で負担するケースが大半です。
住宅の耐久性やメンテナンスの状況により異なりますが、新築~築30年のあいだに400万円以上の修繕費がかかるとされています。
マイホームの資産価値を保つためにも、こまめにメンテナンスを行い、家の状態を維持することは大切です。家に不具合が出たのに直す資金がない、という状況を避けるためにも、住宅ローンの返済ペースは慎重に検討しましょう。
老後資金
退職金で住宅ローンを一括返済する場合には、老後資金の確保も考えておきましょう。
定年退職後の生活を不安なく送るための生活資金や、病気や怪我をしてしまったときのための治療費を十分に残しておく必要があります。
退職金でローンを完済したい場合は、老後の生活を送れる十分な蓄えが退職金以外にあるかどうか、退職後も就労して収入を得られる見込みがあるかなどを把握したうえで検討しましょう。
住宅ローンを繰り上げ返済するタイミング
住宅ローンを繰り上げ返済するタイミングもよく検討する必要があります。
たとえば、子どもが独立して家計に余裕ができたり、急な出費への備えや老後資金などが十分に確保できたりしたなら、繰り上げ返済をするには良いタイミングです。
また、住宅ローン控除を受けている場合は、控除期間が終了したタイミングで繰り上げ返済を検討するのがおすすめです。
住宅ローン控除は、条件に当てはまれば住宅購入後から最大13年間(※2023年12月時点)所得税の控除が受けられる制度です。繰り上げ返済をして支払利息を減らすよりも控除を利用するほうが得な場合は、控除期間が終わるまでローン残高を減らし過ぎないようにしましょう。
金利の動向を注視することも大切です。変動金利で住宅ローンを借りている場合、金利が上昇する見込みなら、今後の返済額が増える可能性があります。その場合は、繰り上げ返済のタイミングを早めたほうが、総返済額が減らせるでしょう。
住宅ローンを完済した後に必要な手続き
住宅ローンを完済した後にも、必要な手続きがあります。どのような手続きをしなければならないのか、以下で紹介します。
抵当権の抹消
住宅ローン完済後にまず必要なのは、抵当権の抹消です。
抵当権は、住宅ローン契約にあたり住宅を担保にする債権者の権利です。万が一返済が滞った場合、債権者は抵当権を行使して、担保にしていた住宅を差し押さえることができます。
住宅ローンを完済すると抵当権の抹消が可能になりますが、自動的に抹消手続きが行われるわけではありません。住宅ローン完済後は、司法書士などの専門家に依頼するか、自分で抹消手続きを行いましょう。
火災保険質権の抹消
住宅ローン完済後は、火災保険質権の設定解除手続きも必要です。火災保険質権とは、住宅ローンの借り入れにおいて、火災保険の保険金請求権そのものを担保にできる権利のことです。
ただし、近年では火災保険質権の設定はあまり一般的とはいえません。もし設定していた場合は、金融機関から質権消滅手続きのための書類が送付されるため、火災保険会社に連絡するとともに、手続きに入りましょう。
まとめ
住宅ローンを完済するまでの期間は平均16年で、当初の借入期間よりも早く完済するケースが多いことがわかっています。繰り上げ返済にはメリットもあるものの、一時的に大きな出費をすることになるので、ライフプランや万が一の備えを考慮した慎重な判断が必要です。
また、住宅ローンを完済したら、抵当権の抹消手続きや火災保険質権の消滅手続きを忘れずに行いましょう。
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