住民税は前年の所得に応じて納税額が決められるため、収入が少なかったり、収入に対して控除額が大きかったりすると非課税になることがあります。この記事では、住民税の基本情報や非課税になる所得金額、非課税になったときに受けられる措置について解説します。
住民税は収入に応じて支払う地方税
住民税は、生活に必要な行政サービスに用いられる費用を住民全員で負担するという目的で集められる地方税です。個人住民税には次のような種類があり、「所得割」と「均等割」は毎年1月1日時点に住所がある自治体に、道府県民税(東京都では都民税)・市町村民税(東京都23区では特別区民税)をあわせて納めます。
1年間の課税額は以下のとおりで、別荘や相続した実家など日常的に使用していない建物についても「均等割」の納付義務があります。
なお、上記は標準税率で、実際の課税額は自治体によって異なります。防災対策や環境保全などの目的でいくらか上乗せされることもあるため、正確な税負担は各自治体に確認してください。
住民税非課税となる条件
住民税は所得割・均等割ともに非課税になるケースと、所得割のみ非課税になるケースがあります。それぞれどのような条件で非課税になるのか解説します。
所得割と均等割が非課税になる条件
以下のいずれかに当てはまる世帯は、所得割・均等割ともに非課税です。
・生活保護法による生活扶助を受けている
・障害者、未成年者、寡婦またはひとり親で、前年中の合計所得金額が135万円以下(給与所得者の場合は、年収204万4,000円未満)
・前年中の合計所得金額が区市町村の条例に定められた額以下
「条例に定められた額」は自治体ごとに異なります。ちなみに、東京23区内の条例による基準額は以下のとおりです。
・同一生計配偶者または扶養親族がいる場合
「35万円×(本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計人数)+31万円」以下
・同一生計配偶者および扶養親族がいない場合
45万円以下
所得割のみ非課税になる条件
前年中の総所得金額等が次に示す金額以下の場合は、所得割のみ非課税になります。
・同一生計配偶者または扶養親族がいる場合
35万円×(本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計人数)+42万円
・同一生計配偶者および扶養親族がいない場合
45万円
なお、上記は東京23区内の条例による基準額です。基準額は自治体によって異なるため、住所地の役所で確認してください。
住民税非課税世帯が受けられる措置
住民税非課税世帯には生活を支援するさまざまな措置があるほか、給付金が支給されることもあります。ここからは、住民税非課税世帯が受けられる措置や給付金の一部を紹介します。
教育費無償化の対象
子どもがいる住民税非課税世帯は、以下のとおり教育費無償化の対象になります。
【幼児教育・保育の無償化】
住民税非課税世帯では0〜2歳児クラスも無償化の対象です。また、認可外保育施設などの0〜2歳児クラスも、住民税非課税世帯は月額4万2,000円を上限として無償で利用できます。
2019年10月から、幼稚園・認可保育所・認定こども園などの3〜5歳児クラスは、非課税世帯だけではなくすべての子どもを対象に利用料(保育料)が無償となりました。
参考:幼児教育・保育の無償化|内閣府
【高等学校等就学支援金・高校生等奨学給付金】
世帯年収が一定以下の場合、2010年4月から公立高校、2020年4月からは私立高校の授業料が実質無償化となりました。
ただし、授業料以外の教科書代や学用品代などは各家庭で負担しなくてはなりません。負担軽減のため、住民税の所得割が非課税の世帯には返還不要の給付金(高校生等奨学給付金が支給されます。給付金の年額は、第一子で最大13万7,600円、第二子以降は最大15万2,000円です。
参考:高校生等への修学支援|文部科学省
【大学などの授業料減免と給付型奨学金】
大学や短期大学、専門学校などに通う住民税非課税世帯の学生は、最大で7万5,800円(月額)の給付型奨学金が受けられます。給付金の額は、国公立か私立か、さらに自宅通学か自宅外通学かによって異なります。なお、給付型奨学金の対象になった場合、学校に申し込むことで授業料の免除や減免の対象にもなります。
参考:給付奨学金(返済不要)|独立行政法人 日本学生支援機構
社会保険料の減免
原則として、住民税非課税でも国民健康保険料や国民年金は納めなくてはなりません。国民健康保険料の内訳は、前年の所得に応じた「所得割額」と加入者全員が負担する「均等割額」です。
住民税が非課税でも、前年に所得があった人には「所得割額+均等割額」の国民健康保険料が発生します。なお、所得が一定基準以下だった場合は均等割額が減額されることがあります。一方、国民年金保険料は一律で、支払いが難しい場合は自分で免除または納付猶予の手続きを行います。
年金生活者支援給付金
年金生活者支援給付金とは、公的年金その他の所得が一定基準額以下の年金受給者を支援するために、年金に上乗せする形で支給される給付金です。給付金を受けられるのは、以下の要件をすべて満たした人です。
・65歳以上の老齢基礎年金の受給者
・同一世帯の全員が住民税非課税
・公的年金等の収入金額を含め、前年の所得が87万8,900円以下
なお、遺族年金や障害年金はもともと非課税収入なので、収入金額には含まれません。給付額は、月額5,140円を基準にして、納付済期間や免除期間、被保険者月数に応じて決まります。
その他さまざまな給付金がある
2020年には、新型コロナウイルス感染症の経済対策として、住民基本台帳に記載されている人全員に一律10万円の特別給付が行われました。翌2021年には、住民税非課税世帯を対象に1世帯あたり10万円の臨時特別給付が行われています。
さらに2022年には、電気・ガスなどの価格高騰緊急支援として1世帯あたり5万円の給付が行われましたが、これも主に住民税非課税世帯を対象とした施策でした。
2023年にも住民税非課税世帯に3万円の支給が行われています。社会情勢が安定せず物価高が続くなか、今後も住民税非課税世帯には優先的に給付が行われるかもしれません。
住民税非課税世帯はお得?
住民税非課税世帯は税金を払わなくて済むうえ、教育費の減免を受けられたり、優先的に給付金が支給されたりします。
非課税になるかならないかのボーダーライン上の所得を得ている世帯と比較した場合、手取り額の逆転が起こる可能性もあり、優遇されていると感じる人もいるかもしれません。
しかしながら、教育費の減免は子どもがいない世帯には関係ありませんし、給付金も一時的なものです。そもそもの収入が少ないため、生活にゆとりがあるとは考えにくく、決してお得とはいえないのではないでしょうか。
まとめ
住民税は、前年の所得に応じた「所得割」と金額が一律の「均等割」で構成されています。教育や警察・消防などの行政サービスを支える地方税なので、基本的には所得が少なくても均等割は負担しなくてはなりません。
ただし、所得が一定基準を下回る場合には全額非課税となり、さまざまな減免制度や給付制度の対象になります。なお、均等割の税率は自治体によって異なるため、住所地の役所で確認してみてください。