経済成長率って何? 「名目GDP」と「実質GDP」はどう違うの?

よくニュースでは日本を「世界第3位の経済大国」と表現したり、「今年の日本経済は2%成長した」などと報じたりすることがあります。なんとなく聞き流してしまいますが、よく考えてみると、何をもって日本の経済規模が世界第3位なのか、日本の何が年間で2%成長したのか、など不思議に思うことが多いのではないでしょうか。今回は経済の規模や成長率を表現する際にどのような経済指標を用いるのか、という基本的な説明から、世界における日本経済の実態についても解説していきます。

経済の規模と成長率

日本が「世界第3位の経済大国」ということは、経済規模が世界で3番目に大きいということを意味すると考えますが、経済の規模とは何でしょうか。正解は、国内総生産の額をみています。国内総生産という言葉は聞いたことがなくても、GDPという経済指標の名前は聞いたことがあるかもしれません。

GDPはGross Domestic Productの頭文字をとったもので、日本語に訳すと「国内総生産」となります。GDPは1年間など、一定期間内に国内で生産された付加価値の合計額によって表されます。付加価値と言われると難しいかもしれませんので、「国内で生み出された利益の総額」と考えればよいでしょう。ここで1つ注意しなくてはいけないのが、“国内”で生産された付加価値の合計額という点です。

現在、日本企業の多くが海外に生産工場を持っています。しかし、GDPは国内で生産されたものだけが対象になるため、仮に日本企業が海外で付加価値を生み出したとしても、それは日本のGDPには算入されないのです。

ちなみに、日本における今年のGDPが去年のGDPに比べて5%増えた場合、これを日本経済はこの1年間で5%成長した、と表現します。GDPは3ヶ月に一度発表されるため、計算方法は前の年の同じ四半期を比較する前年比(前年同期比)と、直前の四半期を比較する前期比の2つがあります。前期比の伸び率が1年間続いた場合に、どれぐらいGDPが増減するか、という前期比年率という計算方法があることも知っておきましょう。

名目と実質の違いとは?

GDPについて基本的な情報を理解してあらためてニュースを眺めてみると、もう1つ不思議に思うことが出てくるはずです。それは、GDPの前に付く「名目」と「実質」という言葉です。名目と実質の違いを理解するために、少し極端な例を挙げてみます。

Aという国では1年間でリンゴを1つ作っていて、リンゴの値段は1つ100円だとしましょう。そうすると、この国のGDPは100円ということになります。翌年もこの国はリンゴを1つ作ったとします。しかし、リンゴが値上がりして105円で売れた場合、この国のGDPは100円から105円になった訳ですから、1年間の成長率は5%となります。

しかし、Aという国はどちらの年も同様にリンゴを1つしか作っていない訳であり、GDPが5%成長したのも物価が上昇しただけであって、とても経済が成長したとは言いづらいですよね。そこで、物価の変動による影響を取り除いて計算しなおしたGDPが「実質」であり、物価の変動による影響は気にせずに計算した前者が「名目」ということになります。

少し込み入った情報も追記しておきましょう。名目GDPを実質GDPにするためには「GDPデフレーター」と呼ばれる数字を用いますが、これは「名目GDP÷実質GDP=GDPデフレーター」という式を頭に入れておくと理解が進むかと思います。

世界における日本経済

基本的にGDPは各国の通貨で表現されますが、それだと世界各国での比較をしたときに分かりづらいため、ドル表示で順位付けをすることがあります。世界銀行が公表している名目GDPのデータを見てみると、2022年の名目GDPは米国が25兆4,627億ドルで1位、中国が17兆9,632億ドルで2位、そして日本が4兆2,311億ドルで3位となっています。ここからドイツ、インド、英国、フランス、ロシア、カナダ、イタリアと続くのが世界のトップ10になります。

「日本は経済成長していないと言われるけど、まだ世界で3番目に大きな経済規模を誇るのか」と思うかもしれませんが、たとえば2000年の1人当たりドル建てGDPと2022年の1人当たりドル建てGDPを比較してみると、G7のなかで、唯一減少しているのは日本なのです。

つまり、日本の経済規模は現時点では世界的に見て大きい事には間違いないけれど、ほとんど経済成長はしていないということ。そして、そのうち高成長を続ける新興国などに抜かれていき、次第に順位を下げていくと考えられる、ということです。

GDPの分析方法

それでは、日本経済が成長できない理由は何でしょうか。その原因を探るためには、GDPの分析方法を身につける必要があります。GDPは多くの要素から構成されていますが、構成要素を大きく分類した上で、式で表すと以下のようになります。

GDP=民間の消費+民間の投資+政府の支出(消費と投資)+(輸出-輸入)

GDPがどれぐらい成長したか、という表面的な数字の変化率だけではなく、GDPの内訳をそれぞれ確認する必要があります。しかも、国によって各構成要素のシェアが異なる事にも注意が必要です。日本の場合、GDPの半分以上が民間の消費によって占められており、消費が増えなければGDPが大きく成長することはありません。

「失われた30年」とも称される日本経済は長らくデフレ経済を経験しており、その間は人々の賃金が増えませんでした。賃金が増えなければ消費が抑えられるのは自明の理で、つまり日本経済は成長することはありません。しかし、ここにきて日本でも物価が上昇するようになりました。そして、今年の春闘では歴史的な高水準の賃上げが実現しました。

足元では、物価高に苦しむ家計が節約をしている様子を各種データから読み取れます。しかし、来年以降もしっかりと賃金が増えるような循環に突入し、かつ、ある程度物価の上昇速度が収まれば、日本経済がついにデフレを脱却し、再び経済が成長するようになるかもしれません。

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