「定借マンション」は好立地でお得? 定期借地権付き分譲マンションの魅力を徹底解説

「定期借地権付き分譲マンション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 不動産業界では略して「定借マンション」と呼んでいます。住宅市場に多く出回っているものではないので、聞いたことがないという人も多いことでしょう。実は、好立地に安く買えるというメリットがあるマンションなんです。その仕組みを説明していきましょう。

「定期借地権付き」とは?

通常の分譲マンションでは、土地の「所有権」を得ます。「所有権」に対するのが「借地権」です。土地を借りて建物を建てることは一般的に行われてきましたが、「普通借地権」では、土地を借りている側が賃貸借契約の更新を希望すれば、原則として貸す側は拒めませんでした。一度土地を貸したら契約の解除が難しいことから、利用価値の高い土地を貸しづらいという課題がありました。

こうした背景から1992年に創設されたのが「定期借地権」です。借りた土地は賃貸借契約の期間満了時に返還しなければならず、契約の更新はありません。土地の所有者にとっては、一定期間だけ土地を貸して収益を上げ、それ以降は自由に使えるという点で、これまで貸しづらかった土地が貸しやすくなりました。

結果的に、「定期借地権」のマンションを買う側にとっては、所有権や普通借地権では市場に出にくい土地のマンションを所有権の場合よりも安く買うことができるので、好立地に安く買えるというわけです。所有権と比べてどの程度安くなるかは一概に言えませんが、一般的には2~3割ほど安くなると言われています。

定借マンションのメリットとデメリット

定借マンションを買う側にとっては、好立地で広いマンションが手ごろな価格で買えるのが最大のメリットです。特に近年は、新築マンションの価格が高騰しているので、好立地で割安なマンションは魅力的に見えるでしょう。

一方、定借マンションの最大のデメリットは、期限が来たら更地で返還しなければならないこと。一般的な定期借地権では、「借地期間50年以上」で「期間の満了に伴い、原則として借り主は建物を取り壊して土地を返還する」ことになっています。借地期間が50年間であれば、50年後には住んでいるマンションが取り壊されて住めなくなります。

なお、定期借地権には3つの種類があります。

○一般定期借地権
借地期間を50年以上としたもの。期間の満了に伴い、原則として借り主は建物を取り壊して土地を返還する必要がある。

○建物譲渡特約付借地権
契約後30年以上経過した時点で土地所有者が建物を買い取ることを、あらかじめ約束しておくもの。買い取った時点で借地権が消滅する。

○事業用定期借地権
借地期間を10年以上50年未満とし、事業用に建物を建てて利用するための定期借地権で、居住用には使えない。

所有権との違いは? 注意点は?

所有権との違いをまとめてみました。

土地が所有権のマンションと定期借地権のマンションの違い

ほかにも、コスト面で違いがあります。定期借地権ならば、土地の取得費用が発生しませんが、土地を借りる「権利金」や「保証金(退去時に返還される)」、毎月の「地代」が必要となります。また、将来建物を解体するための「解体準備金」も毎月積み立てていく必要があります。ただし、土地を所有していないので、毎年納税する「固定資産税・都市計画税」の土地分は不要になります。

定期借地権の住宅の供給実態

日本住宅総合センターでは、1994年以降継続して、定期借地権付住宅の分譲事例についてデータを収集し、分析を行っています。戸建て住宅とマンションの両方の事例を収集していますので、年度別の事例数を見ていきましょう。

「定期借地権」が普及した1994年度から2004年度までの10年間は事例数が多くなっています。特に、この間の戸建て住宅の事例数が多いのですが、以降は急速に減少しています。一方、マンションは新築マンション全体の市況に相関して増減していますが、ある程度の事例数を2022年度まで維持しています。

定期借地権
出典:(公財)日本住宅総合センター「定期借地権事例調査(2022年度)

さらに、定期借地権が登場して30年目を迎えたことから、東京カンテイでは「『定期借地権分譲マンション』のストック総括および供給動向分析」を発表しました。定借マンションのストック数(累計戸数)が多いのは、東京都(122棟/1万1,263戸)、愛知県(142棟/4,342戸)、大阪府(79棟/5,478戸)です。このTOP3に続くのが、神奈川県(61棟/3,103戸)、兵庫県(58棟/2,347戸)で、大都市圏に多いのが特徴です。

借地権の期間が長期化している!

東京カンテイでは、定借マンションの借地期間を竣工年別に調査していますが、徐々に長期化しています。制度創設当初は借地期間が50年という事例が多かったのですが、2006年には平均期間が60年を超え、2015年には70年台に達するなど、次第に借地期間が70年というのが一般化しています。

東京カンテイ
出典:東京カンテイ「定期借地権分譲マンションの借地期間

定借マンションの中古市場はどうなっている?

さて、定借マンションですが、売ったり貸したりすることができます。売る場合に中古市場がどう形成されるか、気になる点でした。定借マンションができてから30年ということで、東京カンテイが分析をしました。同じ駅15分圏内に同時期に竣工した所有権の分譲マンションと定借マンションを「新築分譲時」と「中古流通時」でそれぞれ価格を比較する方法を採っています。

データが複雑でわかりづらいので、結論を言うと、2020年以降に竣工した最近の定借マンション群では、新築時には所有権と比較した周辺相場比76.9の価格で売られたものの、中古流通時は所有権と同等かそれ以上のものが多くなっています。しかし、それ以降になると借地期間を消化した年数が長くなるので、残りの借地期間を考慮した価格になっています。ただし、2000年代に竣工した定借マンション群のなかでも、タワー物件や人気住宅地に立地する物件では、高額になっている事例もあったということです。

定借マンションを売る場合には、残りの借地期間が考慮されるものの、売りづらいというわけではないようです。いくらで売れるかは、立地の希少性や所有権のマンションとの割安感などで、市場の評価が変わります。定期借地権の種類や借地期間、地代、保証金などの金額もさまざまですので、細かい点までしっかり確認することが大切です。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

(最終更新日:2023.10.23)
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