日本の中央銀行である日銀が金融政策決定会合において金融政策の修正を決定し、長期金利の上限が事実上1.0%までとなりました。しかしながら、今回の金融政策の修正の対象になっているのは長期金利だけであり、政策発表後も短期金利には調整が入っていません。
日本国内で住宅ローンというと、多くの人は変動金利を選択しています。変動金利は短期金利に連動しているので、こちらが上昇するのかしないのか、気になっている人も多いでしょう。そこで、今回は日銀の金融政策について解説していきます。
短期金利と長期金利
そもそも金利とはなんでしょうか? 分かりやすい例としては、いま100万円を借りる代わりに、1年後に元本の100万円とは別に利子として10万円を追加で払うという場合、この金利は10%であるといえます。それでは、短期と長期はどのように違うのでしょうか。
一般的には返済期間が1年以内の場合は短期、1年超の場合は長期と区分されています。
短期金利は時に「政策金利」と呼ばれることもあり、中央銀行が短期金利を変動させることによって、景気の過熱を抑えたり、不況を脱するために景気を刺激したりします。日本の場合は日本銀行が金融政策決定会合で、米国の場合はFRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利を上げたり、下げたりを決めるのです。日本で代表的な短期金利は「無担保コールレート翌日物」が指標とされています。これは金融機関同士で担保を預けずに資金を借り、翌営業日に返済するような借り入れの金利を指します。
長期金利は一般的には「10年国債の利回り」を指標としていることが多いです。こちらの場合は中央銀行が金利を操作するというよりは、主に市場参加者の需給によって利回りが決まります。株式市場と同じで、買いたいと思う人が多ければ価格が上がります。少しややこしいのが、債券の場合は、価格が上がるということは利回りは低下する、ということに注意しましょう。
固定金利と変動金利
さて、私たちが家を買う場合、なかなか現金一括で買うことはできませんから、銀行で住宅ローンを組みます。その際に、「固定金利にするか、変動金利にするか」という議論は必ず出てきます。「家は持ち家がいいか、賃貸がいいか」、と同様に、住宅に関して頻発する議論ですよね。
ここでは、どちらの金利タイプがいいか、という話よりも、それぞれの特徴を見ていきたいと思います。
固定金利の場合は借りたタイミングで金利負担が固定されますから、毎月の支出金額を固定して家計管理をしたい人にとっては、金利の変動を気にしなくて済むというメリットがあります。一方で、変動金利の場合は固定金利よりも金利が低く設定されているため、金利負担が小さくなります。しかし金利が上昇していくと、場合によっては固定金利を選択しておくよりも返済負担が大きくなる可能性もあります。もちろん、住宅ローンを組んでからさらに金利が低下する可能性もあるので、ある意味では金利負担については不確実性が存在してしまいます。
日本の場合、固定金利は「10年国債の利回り」、短期金利は「短期プライムレート」の影響を受けます。短期プライムレートとは金融機関が最も信用力の高い顧客に短期で貸し出す際に設定している金利を指します。金利ですから絶えず変動していきますが、この目安に前述の「無担保コールレート翌日物」があります。
金融政策の修正とは?
2023年7月28日、日銀が金融政策決定会合において、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール/YCC)の修正を決めました。具体的には、これまで上限としていた長期金利の変動幅0.5%を今後は「めど」として、1%を事実上の上限とすると決めました。この決定を受けて、10年国債の利回りは0.6%を超えて、2014年6月以来、9年ぶりの高水準を記録しました。
メガバンク3行は8月に入り固定型の住宅ローン金利を引き上げましたが、各行は日銀の政策修正を受けて引き上げたのではなく、あくまで7月下旬に長期金利が上昇していたことを受けたものであるとコメントしています。そうであれば、来月は政策修正の影響を受けて固定型の住宅ローン金利がさらに上がる可能性があります。
先ほど、短期金利は金融政策によって変動し、長期金利は市場の需給によって変動すると説明しましたが、その説明に基づけばYCCという政策に違和感を覚えるはずです。その違和感は正しくて、これまで日銀が行ってきた『短期金利はマイナス金利まで引き下げ、長期金利も日銀が低位に押さえつける』という金融緩和は特殊なものでした。故に「異次元の金融緩和」と呼ばれていたのです。
日銀は今回の修正をした理由について、「金融緩和の持続性を高めるため」としています。しかし、同時に発表した今後の物価見通しにおいて、来年度、再来年度と2%を下回る予想を出しておきながら、YCCを修正したことは市場に混乱を与えることになりました。
今後の金融政策の行方
総務省が2023年7月に発表した同年6月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比+3.3%となりました。政府が実施している激変緩和措置の影響で物価は1%程度低く算出されているため、実際にはすでに足元の物価上昇率は4%を超えていると考えてよいでしょう。日銀が目標としていたのは2%ですから、表面上の数字だけをみれば、日銀は早々に緩和を終了し、欧米の中央銀行のように金利を引き上げていかないといけないと思われるかもしれません。
しかし、前述の通り、日銀は来年度、再来年度の物価は2%を下回ると予想しています。また、すでに海外ではインフレがピークアウトしており、中国に至ってはデフレに突入しそうになっています。日本は海外に比べてインフレ局面に入るタイミングが1年ほど遅れていたことから、近いうちに日本のインフレもピークアウトするのでしょう。故に日銀は、来年度以降は2%を再び下回ると見通しているのだと思います。
そうなると、YCCの修正はしたものの、年内に日銀が金融緩和をやめて引き締めに転換するとは考えにくいでしょう。ちなみに、今回のYCCの修正は引き締めのようには見えますが、マイナス金利の維持やETF、J-REITなどの資産買い入れなど、金融緩和の枠組みは一切いじっていません。
今後、日銀が金融緩和をやめる場合には、まずはマイナス金利をやめ、さらにはゼロ金利政策を解除してから、利上げというステップを踏むことになります。この場合は住宅ローン利用者の7割以上が選択している変動金利にもいよいよ影響が出ますから、注意が必要です。