東京都が運営する都営住宅の平均家賃は約2万3,000円(2016年時点)で、民間借家の約8万9,600円と比べて格安です。住宅にかかる費用を大幅に抑えられることから、できれば都営住宅に住みたいと考えている人もいるのではないでしょうか。しかし、都営住宅に申し込むためには条件が設定されています。
この記事では、都営住宅の入居条件や応募できる年収区分、東京都近隣県における県営住宅の入居条件などについて解説します。
※参考:東京都住宅政策本部「都営住宅の現状【資料集】」
都営住宅とは
都営住宅とは、東京都が運営する公営住宅のことです。公営住宅は公営住宅法に基づいて整備されるもので、同法第2条第2項において次のとおり定義されています。
公営住宅法第2条第2項
公営住宅 地方公共団体が、建設、買取り又は借上げを行い、低額所得者に賃貸し、又は転貸するための住宅及びその附帯施設で、この法律の規定による国の補助に係るものをいう。
※引用:e-Gov法令検索「公営住宅法」
上記のとおり、都営住宅は所得が低く住宅に困っている人をサポートする目的で整備された賃貸住宅です。家族向け、高齢者や身体障害者を対象とした単身者向けの2種類に分けられます。
都民住宅との違い
都営住宅とよく比較されるのが「都民住宅」です。都民住宅とは、国と東京都が建設費を補助して建てられた、国の制度に基づく特定優良賃貸住宅を指します。
都営住宅が低所得者向けであるのに対し、都民住宅は都営住宅の所得基準を超える中堅所得者向けの賃貸住宅です。都営住宅と異なり家族向けの住宅のみで、単身者用はありません。住宅によっては家賃減額補助が行われている場合もあり、家賃負担が軽いのが特徴です。なお、都民住宅は現在これから新たに建設することは予定されていません。
UR賃貸住宅との違い
UR住宅は、日本住宅公団を前身とするUR都市機構が管理しており、物件や地域にもよりますが、賃料水準などは民間の賃貸物件とそこまで大きく変わりません。
一般の民間賃貸物件と異なるのは、貸主・契約業務・管理のすべてをUR都市機構が担う点です。そのため仲介手数料がかからないほか、礼金や更新料も不要です。また、都営住宅のような上限所得は設けられていませんが、下記の基準月収額より平均月収が多い、などの条件があります。
都営住宅に入居するための条件
都営住宅の家族向け・単身向けそれぞれの主な条件を紹介します。
【家族向け住宅の条件】
・申込時点で東京都内に居住していること
・同居する親族がいること(パートナーシップ関係も含む)
・住宅に困っていること
・申込世帯の合計所得が、一定の基準の範囲内であること
・申込者および同居者が暴力団員でないこと
【単身向け住宅の条件】
・都内に3年以上居住する単身者であること
・60歳以上の高齢者、一定の基準を満たす障害者、生活保護受給者、支援給付受給者、配偶者などから暴力を受けた被害者で基準を満たす人などに該当すること
・年間所得金額が所得基準の範囲内であること
・住宅に困っていること
・申込者が暴力団員でないこと
家族向け・単身向けともに、所得に関する条件が設けられている点が重要です。
※参考:東京都住宅政策本部「都営住宅の入居資格」
都営住宅に応募できる年収区分
都営住宅は先ほどの条件に加え、年収にも制限があります。
所得区分の基準となる所得とは、いわゆる手取り収入のことです。会社員であれば、源泉徴収票にある「給与所得控除後の金額」欄の収入額が該当します。
所得区分には一般区分と特別区分があり、特別区分は対象となる所得上限が高くなっています。特別区分に当てはまるのは、高校生以下の子どもがいる世帯、60歳以上の世帯、心身障害者が同居する世帯などです。
また、家族人数には申込者と同居者の人数に加え、申込者や同居者の扶養親族で都営住宅に入居しない人も含まれます。
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都営住宅の倍率
一般の賃貸物件は申し込みが早い人が契約できることがほとんどですが、都営住宅は定期的に行われる抽選によって入居者が決められます。抽選方法は「一連番号方式」という公平性の高い方法が取り入れられており、条件により当選確率が上がる、というようなことはありません。
選べる物件は自由であることから、物件によって倍率は異なります。築年数が浅く立地の良い住宅では倍率160倍の物件がある一方、駅から遠い物件、築年数が古い物件、エレベーターがない物件では倍率が1倍に満たない物件や申し込みが入らない物件も見られます。
2022年8月募集で最高倍率160倍を記録したのが、千代田区にある1995年度築の物件です。都心部で比較的築年数が浅いこともあり、募集戸数1戸に対して160件の募集がありました。ほかにも、新宿区や品川区にある築10〜20年程度の築浅物件では倍率が60倍を超えています。
一方、葛飾区にある1973年度築でエレベーターなし、3DKの物件は倍率1倍です。同じく葛飾区にある1990年度築・3DKの物件も築年数はそれほど古くないものの、エレベーターがないこともあり倍率は1倍でした。立地や築年数だけでなく、エレベーターの有無も倍率に影響しているといえるでしょう。
※参考:JKK東京(東京都住宅供給公社)「令和4年8月都営住宅募集ポイント倍率表」
都営住宅は入居条件に合致しても入れないことがある
前述のとおり、申込者の条件によって当選確率が上がるわけではないため、入居条件に当てはまったとしても、必ず希望の住宅に入居できるとは限りません。
確実に都営住宅に住みたいのであれば、倍率が低くなりそうな物件を狙って申し込むとよいでしょう。築年数が古い、エレベーターがない、都心部へのアクセスがそれほどよくないといった条件に当てはまる物件は倍率が低くなる傾向にあります。
東京都近隣の県営住宅の条件
公営住宅法に基づいた公営住宅はほかの道府県にも存在します。ここでは、東京都近隣の神奈川県・千葉県・埼玉県が運営する県営住宅の入居条件を紹介していきましょう。
神奈川県
神奈川県が運営する県営住宅は、申込時点で県外に住んでいる人も申し込めるのが特徴です。「一般単身者向住宅」と「特定目的住宅(単身者向け・世帯向け)」に分かれています。
すべての県営住宅で入居に必要となる共通資格は、おおむね都営住宅と同じような内容です。一般単身者向住宅は特定資格を満たさなくても入居できますが、特定目的住宅は特定資格を満たしていなければなりません。
特定目的住宅には、入居期限付きの「子育て世帯向住宅」や高齢者に対するサービスの付いた「シルバーハウジング」、60歳以上の単身者向け「高齢単身者向住宅」などがあります。特定目的住宅へ入居するには、住宅の種類別に設定された特定資格を満たしている必要があります。
※参考:神奈川県「県営住宅申込資格について」
千葉県
千葉県の県営住宅は、都営住宅と同様に原則県内に住む人のみが申し込めます。
千葉県の特徴は申込住宅を「一般住宅」と「特別割当住宅」に区分している点。「特別割当住宅」は、精神・身体・知的障害者のいる世帯、高齢者等世帯、抽選で4回以上落選している世帯のみが応募可能です。
「一般住宅」は、申込世帯の区分が設けられています。申込世帯は「一般世帯」と「特枠世帯」に区分され、特枠世帯は一般世帯よりも当選確率が高くなるよう設定されています。特枠世帯に含まれるのは、抽選で4回以上落選している世帯、父子・母子世帯、子育て世帯、高齢者世帯や障害者世帯などです。
※参考:千葉県「これから県営住宅をお申込みになる方へ」
埼玉県
埼玉県の県営住宅は県内に居住している人のほか、県内に勤務している人も申し込みをできるのが特徴です。在住期間や在勤期間の制限は設けられていません。
住宅種類としては「一般住宅」のほか、「高齢者・障がい者住宅」「子育て支援住宅」「単身住宅」「車イス住宅」「単身車イス住宅」が設定されています。全種類の住宅に共通する申込資格は、都営住宅とおおむね同じような内容です。「一般住宅」と「子育て支援住宅」では、入居期間が10年以内という制限があります。
また、住宅種類ごとに特有の条件が設けられています。たとえば「子育て支援住宅」を申し込むには共通申込資格を満たしていることに加え、18歳未満の子どもを扶養している世帯か、申込時点でいずれも39歳以下の夫婦のみ世帯でなければなりません。
※参考:
埼玉県「県営住宅入居者募集のご案内」
埼玉県住宅供給公社「県営住宅をお探しの方」
まとめ
東京都が運営する都営住宅とは、所得が低く住宅に困っている都民をサポートする目的で作られた賃貸住宅です。都営住宅は単身向け・世帯向けに分かれており、いずれも所得が基準以内であることと住宅に困っていることが入居条件に挙げられています。
一般の民間賃貸住宅に比べて低廉な賃料が魅力の都営住宅ですが、誰でも利用できるわけではありません。都営住宅の入居基準を満たさない人は、都民住宅やUR住宅など、ほかの公的な賃貸住宅を検討してみるのもよいでしょう。
(最終更新日:2024.04.19)