「東京一極集中」は終わったのか? 一極集中とは何か、データに基づいてひも解く

日本が抱える問題の1つに、東京一極集中があります。政府も東京一極集中の解消を課題として掲げていますが、何が問題なのでしょうか? また、コロナ禍においては東京から人が流出したという報道があったことは記憶に新しく、奇しくも外的要因によって東京一極集中は解消されたように思う方もいるかと思いますが、実態はどうなのでしょうか? 東京一極集中に関する議論は印象論が多く、実際のデータに基づいていないケースが散見されます。今回はデータに基づいて東京一極集中を論じていきましょう。

コロナ禍で東京一極集中は終わったのか?

コロナ禍では感染拡大防止を目的として、多くの企業がリモートワークを導入しました。職種にもよりますが、特に出社を必要としない業種ではフルリモートといって、基本的には出社せずに自宅やカフェで毎日仕事をしてもいいという企業も現れました。これまでリモートワークは一切認めていなかったような企業でも、集団感染を回避するために従業員を半分ずつ1日おきに出社させるといった勤務体系をとった企業もありました。

その結果、一切会社に行かなくてもいい、または週に1、2回しか出社しないという人が増えました。そのような働き方であれば家賃の高い東京都内に居を構える必要がないと考える人も増え、結果として、東京都からは久しぶりに人が流出することとなりました。

総務省が公表している「住民基本台帳人口移動報告」の月次データを時系列でみてみると、たしかに2020年から2021年半ば頃までは東京から人が流出していることが分かります。また、東京だけでなく、近隣の3県(埼玉、千葉、神奈川)を含めた東京圏からも人が流出していたことにも気付きますね。

住民基本台帳人口移動報告

しかし、2021年後半からは再び東京へ人が流入しており、東京圏で見ても似たような傾向にあります。実際に、リモートワークを導入した企業の多くが一部だけリモートワークの制度を残しながらも、徐々に出社を求める日数を増やしています。やはり、リモートワークだと仕事の効率が下がったり、社内における人事評価がしにくくなったりするなどの問題があったのでしょう。

コロナ禍による人々の変化

結局、コロナ禍という特殊要因があった期間だけ東京から人が流出し、コロナが落ち着けば再び東京一極集中が始まってしまったという味気ない結論で終わってしまうのでしょうか。ここで、東京都の転入超過数を年齢階級別にみてみましょう。

東京都の転入超過数

2022年のデータをみてみると、15~19歳、20~24歳、25~29歳はすでにコロナ禍前(2019年)と同水準まで東京都への流入が回復していることが分かります。しかし、一方で0~4歳、5~9歳という自分の意志で移動を決められない年代および、30~34歳、35~39歳、40~44歳、45~49歳などいわゆる子育て・ファミリー世代は依然として東京からの流出が目立ちます。

このデータから読み取れるのは、すでに職に就いていて、かつ家庭を築けるような安定した世代は引き続きコロナ禍で確認された東京都から郊外への移動が確認されるのに対して、感染防止の観点から行われていた行動規制が解除されると、職を求める若い世代は東京に出てくる、つまり依然として東京一極集中という現象は解消されていないと言えるでしょう。

東京一極集中の問題は?

それでは、東京一極集中は何が問題なのでしょうか? 最初に考えられるのはリスク分散が一切効かなくなるということでしょう。これは東京一極集中の問題というよりも、東京一極集中が進んでしまう理由にも繋がってくるのですが、「集積の経済」という概念を知ると理解が進むはずです。

ある特定の地域に企業が集積し、結果としてそこに「ヒト・モノ・カネ」が集まることで、多くの経済的なメリットが発生します。分かりやすい例を出してみると、取引先が徒歩圏内にあれば、いつでも会いに行けますし、交通費もかからなくなります。また、多種多様な人材が集結することによって、新たなイノベーションが起こりやすくなります。当然、企業と人が集まれば、インフラも重点的に発展します。実際、東京都の路線図と地方の路線図を比べてみれば、視覚的に理解することが可能でしょう。

したがって、東京一極集中は経済的な観点からみると合理的ではあるのですが、一方で国家運営の観点からはリスク分散ができていないという脆弱性を浮かび上がらせます。仮に首都直下型地震が発生し、東京都内のインフラや建物が崩壊したらどうなるでしょうか? 企業活動や物流はストップし、さらには省庁の多くが都内にあることから、国が提供する各種サービスにも影響が出るはずです。

そのような観点を持てば、政府が東京一極集中を解消しようとしている理由も分かるでしょう。

経済安全保障と民営化の問題

次に問題になってくるのは東京一極集中が進むと、一方で地方の過疎化が進むということです。特に今は私たちの生活インフラを運営する主体の一部は民営化されてしまいました。そして、さらにそれらの企業の多くが上場をしています。民営化されていて、かつ上場しているということは、四半期ごとに利益を出すことを株主から求められてしまうことを意味しますから、不採算事業を続けることはできません。

つまり、電力会社や鉄道会社からすると、老朽化する地方の発電施設は設備投資が行われずに発電機能を失い、採算性の低い路線は廃止されてしまうわけです。そうなれば、人口の多くが東京に流出してしまい、人口が減って過疎化が進む地方はインフラが荒廃し、さらに過疎化が進んでいきます。

個人の生活というミクロの観点だけで考えれば、自分は東京へ生活の拠点を移すのだから、自分が去った地方が過疎化しようが関係ないと思うかもしれません。しかし、国全体で考えれば前述の通り、東京に多くのリソースが集まるという脆弱性が高まることを意味しますし、昨今耳にする機会が増えた「経済安全保障」の観点からも非常にマズい状態であることが分かるかと思います。

ただし、東京一極集中という問題を語る際に、ついつい「東京 vs 地方」という対立軸で考えてしまいがちです。しかし、そもそも現在の東京と地方における分配の仕組みに問題がないのか、という仕組みに対する疑義や、日本と海外という観点から、どのようにして地方に海外の企業や観光客を迎え入れるのか、といった観点など、様々な角度からの議論を進めなければ、正しいソリューションを導き出せないのではないか、とも考えます。

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