入居者負担となる原状回復の範囲とは? 原状復帰との違いも解説!

賃貸住宅の退去時、原状回復費用を請求される場合があります。賃貸借契約書に記載されていることの多い「原状回復」とはどのようなもので、入居者が負担すべき原状回復費用の範囲はどこまでなのでしょうか。

また、同じような場面で使われる「原状復帰」は、原状回復とどのような違いがあるのでしょうか。

この記事では、原状回復にまつわる疑問について解説していくとともに、よくある原状回復費用が高額になる要因と予防法についても紹介していきます。

原状回復とは?

原状回復とは、元の状態に戻すことを指す言葉です。賃貸借契約では入居者に原状回復義務が設定され、対象物件から退去する際には入居前の状態に戻すよう求められます。

具体的には、入居する際に行った「入居時チェック」の内容と照らし合わせ、汚れていたり傷ついたりしている箇所がないか確認します。

ただし、賃貸借契約に定められている使用目的どおりに使用していても、生活している間にちょっとした汚れや傷はついてしまうものです。原状回復費用を入居者が負担する義務が発生するのは、あくまでも入居者の故意や過失によって生じた傷や汚れなどに限られます。

ちなみに、1字違いの「現状回復」という書き方は、不動産業界においてほとんど用いられません。民法でも「原状回復」が用いられており、こちらが正式な表記です。

原状回復と原状復帰の違いとは?

「原状復帰」という言葉が、原状回復と同じような場面で使われるケースがあります。

賃貸借契約における原状復帰とは、入居者が退去する際などに、対象物件を入居前の状態に復帰させる行為のことです。

2つの言葉はおおむね同じ意味と考えてよいでしょう。あえて区別するならば、原状回復という言葉は元の状態に戻すことそのものを意味し、原状復帰は原状回復のための工事を指すパターンが多くなっています。

したがって、賃貸借契約では原則「原状回復」が使われ、原状回復のために行われる工事を「原状復帰工事」と呼ぶのが一般的です。

原状回復費用の負担割合はどのように決まるのか?

ここからは、国土交通省が公表する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の内容をベースに、原状回復費用の負担割合の決定方法を詳しく解説します。

(参考)国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

よくある原状回復の勘違い
「原状回復とは入居前の状態に戻すことを指す」と紹介しました。しかし、入居者に原状回復義務があるからといって、そっくりそのまま完全に入居前の状態に戻さなければならないわけではありません。

先ほども触れたとおり、入居者が賃貸借契約に定められた使用目的を遵守して使っていたとしても、日々の生活のなかで多少の汚れや傷はついてしまうものです。たとえば、ポスターや絵画を飾るために刺した画鋲やピンの穴、家具の設置による床やカーペットのへこみ、壁クロスの日やけなどが挙げられます。

こうした経年劣化や自然損耗による傷や汚れは、入居者の故意や過失によるものではないため、入居者が費用負担する必要はないとされているのです。

入居者負担となる原状回復の範囲とは?
それでは、入居者負担となる原状回復はどこまでの範囲なのでしょうか。床と壁を例に、入居者負担となるケースとならないケースを具体的に見ていきましょう。

上の表からもわかるとおり、入居者負担になるか否かのラインは「生活するうえで仕方なく生じる汚れ・傷かどうか」ということです。意識していれば防げたはずの汚れや傷については、入居者に原状回復費用の負担が生じます。

なお、畳床・カーペット・壁クロス・設備機器などは、耐用年数に応じて負担割合を算定する考え方が示されています。たとえば壁クロスは、6年で残存価値1円となるよう負担割合を計算するのが一般的です。

よくある原状回復費用が高額になる原因と予防法

賃貸物件の退去時、原状回復費用が思いもよらず高額になるケースがあります。

よくあるのが室内で喫煙をしていた場合です。喫煙によって壁や天井に付着したヤニ汚れや臭いは、日常生活を送るうえで当然につく汚れや傷(通常損耗)ではないとされています。実際、たばこのヤニ汚れを起因とする天井クリーニング・壁クロス張り替えなど、全体で20万円以上の支払いを入居者に命じた判例もあります。

こうした事態を防ぐには、室内禁煙とし、たばこは室外で吸うのが有効でしょう。

また、ペットを室内飼いしている場合も注意が必要です。ペット可の部屋において、「ペット飼育に起因とするクリーニング費用は賃借人負担」という判例があります。

ペット不可の物件では飼育しないというのは当然のことですが、ペット可であっても、汚しそうな箇所は保護しておくなど対策を講じておきましょう。

なお、入居者の故意や過失による損耗であっても、入居期間が長かったり建物が古かったりするケースでは、原状回復費用の大部分がオーナー負担となった判例も存在します。一方で、入居期間が1〜2年と短期間の場合には、修繕費用のほぼ全額を入居者に請求することが認められてた判例が多数あります。

また、「壁クロスは6年」といった耐用年数を超過していたとしても、入居者の故意・過失によるものと認められた場合に、全額免除にならないとされた判例があるため、注意が必要です。

もし入居前から傷や汚れがあった場合には、自身の故意・過失によるものではないことを証明できるよう、写真などで記録を残しておきましょう。

まとめ

原状回復とは入居前の状態に戻すことを指しますが、完全に入居前と同じ状態に回復するという意味ではありません。経年劣化や自然損耗による汚れや傷については、入居者が費用負担する必要は原則ないのです。

賃貸借契約を結ぶ際には、入居者が費用負担しなければならない原状回復の範囲を正しく理解しておくことが大切です。退去時に請求された原状回復費用が高すぎると感じた場合には、ガイドラインを確認して適切に対処しましょう。

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