不動産の価格は、さまざまな要因で常に変動しています。この記事では、近畿圏の新築分譲マンションについて、現在の価格水準がどのくらいなのか、直近10年の価格や発売戸数の推移をもとに解説します。
また、価格が高騰・下落する要因についてもあわせて紹介します。近畿圏の新築分譲マンションを今購入すべきか迷っている人や、市場の動向を知りたい人は参考にしてみてください。
2022年の近畿圏の新築分譲マンション市場動向は?
株式会社不動産経済研究所が公表した「近畿圏 新築分譲マンション市場動向 2022年のまとめ」によれば、1戸あたりの平均価格は4,635万円でした。前年に比べて1.6%アップで5年連続上昇、1991年以来の高値となっています。
また、平米単価(1平方メートルあたりの価格)は3.1%アップの77.4万円でした。こちらも10年連続上昇、2年連続となる最高値更新と高い水準を示しています。
一方、発売戸数は1万7,858戸と2年ぶりに減少、在庫数も3年ぶりに減少しています。総契約戸数は1万8,353戸と、前年同期と比べて1.1%アップしました。
特徴的な地域としては、大阪メトロ御堂筋線につながる北大阪急行線の延伸の影響で大幅に供給が増加した「箕面市」、2021年に続きマンション価格の高騰が目立った「京都府」などが挙げられます。
そのほか、「ZEH-M」と呼ばれる省エネ住宅の普及が進みつつあるのも最近の傾向です。
総じて、2022年の近畿圏の新築マンション市場は活況だったといえるでしょう。ただ、価格高騰が続いていることから、今後は需要が鈍化する(買いたい人が減る)との見方もあります。買いたい人が減れば、価格が下がる可能性もあるでしょう。今後の動向を注視したいところです。
2013年~2022年の新築分譲マンション価格と発売戸数の推移
新築マンションの価格は、そのときの需要と供給の状況次第で変動します。同等の物件でも、購入する時期によっては数百万円程度の差が出ることもあります。
近畿圏の新築マンションについて、直近10年間の推移を見てみましょう。
上のグラフのとおり、直近10年間では1戸あたりの価格は上昇し、販売戸数は減少する傾向が見られます。販売戸数(供給)が少なく、買いたい人(需要)が多いと、価格は上昇します。
10年間の推移を見ただけでも、価格の変動幅は大きいものです。地域によっては平均価格が3,500万円~5,000万円程度と、タイミングによって1,000万円超の差が生じているケースも見られます。
なかには京都市のように、富裕層やインバウンド向けの高級路線の開発が進んだ結果、平均価格が急激に高騰して一般的な収入の人には手が届かないような状態になっているところもあります。
過去の価格推移はデータから読み解けますが、将来の価格がどうなるのかを正確に予測するのは、プロでも容易ではありません。ただし、マンション価格が高騰や下落には、それぞれ理由が存在します。続いて詳しく見ていきましょう。
近畿圏の新築分譲マンション価格が高騰する要因とは?
近畿圏の新築分譲マンション価格が高騰する要因として、主に以下の4つが考えられます。
・低金利政策
・建材価格・人件費の高騰
・共働き世帯の増加
・発売戸数の減少
1つずつ解説します。
低金利政策
住宅購入をすると大きな金額が動くため、国は経済促進の一環として個人が家を買いやすくなるような政策をいくつも実施しています。住宅ローン控除もその一つで、近年は住宅ローンの金利も低水準で推移していたこともあり、利用しやすい状態が続いていました。
今後も低金利が維持されて住宅ローンの負担を感じにくければ、お金を借りて住宅を買いたいと考える人が増え、さらなる価格高騰につながることも考えられます。
建材価格・人件費の高騰
2022年以降、さまざまなものの「値上げ」を実感している人も多いのではないでしょうか。食料品や電気代だけでなく、マンション建設に必要な建材などの価格も高騰しています。また、働き手を確保するために必要な人件費も、今後上昇する可能性もあります。
当然ながらマンションを建てて利益を出すためには、原価が上がった分を販売価格に上乗せせざるを得ない状況になるでしょう。今後も物価上昇(インフレ)が続く、もしくはより加速するようなことがあれば、マンション価格もさらに高騰する可能性があります。
共働き世帯の増加
一昔前の日本では「大黒柱の夫+専業主婦」という夫婦が一般的でした。しかし、共働き世帯が年々増加し、2019年には「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」の2倍以上が共働き世帯となっています。
参照:厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書(図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移)」
共働きで夫婦ともに収入がある場合、「ペアローン」という住宅ローンの組み方ができます。2人分の収入をもとにローンが組めるため、1人だけで組むより大きな金額を借りやすいのが特徴です。
共働き世帯のなかには、夫婦そろって高年収のいわゆる「パワーカップル」と呼ばれる人たちもいます。ペアローンの利用で高額なマンションでも購入できるようになれば、需要が増加して価格が高騰する要因になります。
発売戸数の減少
需要の増加だけでなく、供給の減少も価格が変動する大きな理由です。首都圏ほどではありませんが、前述のとおり、近畿圏も販売戸数が減少傾向にあります。
買いたい人の数が変わらない状況で販売戸数が減れば、少ない部屋を大人数で奪い合うことになるので、価格が高騰しやすくなります。
ちなみに前述の調査によれば、2022年の在庫数は前年より減少しました。2023年の近畿圏の新築マンション発売戸数は、2022年と同等の1万8,000戸程度と予測されています。
近畿圏の新築分譲マンション価格が下落する要因とは?
上記とは逆に、近畿圏の新築分譲マンション価格が今後下落するかもしれない要因として考えられるものもいくつかあります。たとえば以下のとおりです。
・人口減少
・住宅ローン控除の縮小
・金利の上昇
・生産緑地問題
一つずつ見ていきましょう。
人口減少
人口が減って住宅の需要が減ると、マンション価格が下落する要因になります。
日本全体としてみても人口の減少は顕著ですが、実は全国で最も人口減少数が多かったのは京都市で1万1,913人、次いで神戸市が9,208人と、近畿圏の主要都市が上位になっています。
参照:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2022年1月1日現在)。
人口の動向は市町村ごとに異なるため、マンションを購入しようとしている地域の人口が増えているのか減っているのか、どちらの傾向にあるか確認してみるのもおすすめです。
住宅ローン控除の縮小
マンション購入時の大きな支えとなる「住宅ローン控除」ですが、制度内容は2022年に改正されています。
2022年度の税制改正で、「原則10年」だった控除適用期間が「原則13年」となりました。一方で、「1.0%」だった控除率が「0.7%」に引き下げられるなど、利用者にとって不利な改正点もあります。また、2024年以降に入居する場合、一定の省エネ性能を満たさない住宅では、住宅ローン控除を受けられなくなる予定です。
住宅ローン控除が縮小されると、買いたいと思う人が減り、価格の低下につながる可能性が考えられます。
金利の上昇
日本では、低金利でお金を借りやすい状況がしばらく続いてきました。しかし近年、住宅ローンの金利を引き上げる金融機関も現れるようになりました。
住宅ローンの金利が上がるかどうかは、日本銀行(日銀)の今後の金融政策次第です。諸外国では物価高を抑えるため、利上げに踏み切っているケースが多く見られます。
まだ先が読めない状況ですが、もし日銀が利上げして住宅ローン金利も上がれば、同じ金額を借りても返済がより大変になります。そうなれば、お金を借りて住宅を買いたいと思う人が減り、価格下落の要因になるでしょう。
生産緑地問題
あまり知られていませんが、2022年には「生産緑地問題」の影響で価格が下落するという声もありました。
生産緑地問題とは、2022年をもって大都市にある農地(生産緑地)に対する固定資産税や相続税の優遇措置がなくなることを指しています。
大都市にある広大な土地が新たに宅地として売りに出される=供給が一気に増えることから、価格の下落要因になるといわれていました。生産緑地の過半数は関東圏に集中していますが、近畿圏にも多く存在します。
しかし国が優遇措置の延長ができる制度などを用意したことから、今のところ大幅な下落にはつながっていません。ただ、個別の地域ごとに見れば、周辺の大きな農地が廃業して宅地として提供されるなど、急に供給が増えて価格に影響するということは充分ありえるでしょう。
首都圏に比べて割安な近畿圏のマンション価格
近畿圏の新築マンションは近年、高騰が続いています。とはいえ、首都圏(東京圏)のマンション価格と比較すれば、まだ大幅に低い水準で推移している状況です。
日本の人口は東京に一極集中しているといわれて久しく、東京のマンションは需要があるため高い価格でも売れるのです。
もし移住を検討しているなら、首都圏と遜色ない便利さがありつつも、割安に住まいを確保できる近畿圏も候補に入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
近年、近畿圏の新築分譲マンション価格は上昇傾向にあります。ただし、近畿圏の中でも都道府県によって細かい動向は異なり、大阪市や京都市などの大都市とそれ以外の市町村でも違います。時期や地域によって大きな差が生じていることもあるので注意が必要です。
気になる今後の価格動向ですが、高騰・下落双方の要因が考えられます。購入を検討している人は、日々ニュースなどをチェックして市場の動きにアンテナを張っておくとよいでしょう。
(最終更新日:2023.05.18)