タンス預金のメリット・デメリットとは? タンス預金で相続税対策は危険!

どの家庭にもいくらかの現金はあるものですが、かなりまとまった金額を「タンス預金」として家の中に保管している人もいるでしょう。タンス預金には必要なときにいつでも使えるというメリットがある反面、意外なデメリットも存在します。

今回は、タンス預金のメリットとデメリットについて解説します。

タンス預金とは

タンス預金といっても、実際にタンスの中に現金を保管しているとは限りません。そもそもタンス預金とはどのような預金を指すのでしょうか。

この章では、タンス預金の概要と日本におけるタンス預金の実態について解説します。

タンス預金は自宅に貯めている現金
タンス預金とは、銀行などの金融機関に預けずに自宅で保管している現金をいいます。日本の家庭では、現金をタンスにしまう風習があったことから「タンス預金」という俗称がつけられていますが、必ずしもタンスである必要はありません。自宅の金庫に保管していたり、本棚や押し入れの収納ボックス、キッチンの食器棚などに隠していたりする現金もタンス預金に該当します。

日本のタンス預金の合計

日本のタンス預金は50兆円?

日本銀行が発表した「資金循環統計(2022年10-12月期)」によると、2022年12月末の個人金融資産残高は2,022兆8,206億円と、前年比9兆円増の過去最高値を更新しました。そのうち「現金」は109兆7,227億円となっています。現金のうちタンス預金がどれだけの割合を占めているのかは不明ですが、仮に半分と仮定すると、実に約50兆円がタンス預金として存在している計算です。

また、家計の金融資産構成をみると、日本はアメリカやヨーロッパ諸国と比べ、現金の占める割合が際立って大きいことがわかります。

ちなみに日銀が2022年8月31日に発表した「資金循環の日米欧比較」によると、日本の家計の金融資産に占める現金の割合は54.3%、アメリカは13.7%、ヨーロッパ諸国は34.5%です。アメリカやヨーロッパ諸国では家計の金融資産の多くを株式や投資信託で保有しており、現金よりも運用に回して資産形成を行っていることが、データからも読み取れます。

日本の預金金利がアメリカやヨーロッパ諸国よりも高いのかというと、そうではありません。日本では古くから貯蓄信仰が強く、資産運用に対して抵抗があることも一因といえるでしょう。

出典:日本銀行 統計

タンス預金のメリット

タンス預金にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではタンス預金の代表的なメリットについて解説します。

現金をいつでもすぐに使える
自宅に現金を保有しておくことで、何かあったときにすぐに使える点は大きなメリットでしょう。家にあまり現金をおかず金融機関に預けておくと、まとまった金額が必要になった際にわざわざお金を引き出しに行かなければなりません。

そもそも、現在では金融機関に預けてもほとんど利息がつかないため、預金するメリットが薄くなっています。

引き出し制限や手数料がかからない

ATMで引き出すと手数料がかかってしまうことも

金融機関からお金を引き出す際には、手数料が発生するケースがあります。さらに、金額によってはATMでは引き出せず、窓口での手続きが必要です。窓口が開いている時間に金融機関に赴き、本人確認を行わなければならないなど、平日の昼間に時間が取れない人にとっては非常に手間がかかります。

その点、タンス預金ならそのような手間を気にすることはありません。緊急時などに時間や手数料などを気にせずに使える点は、タンス預金のメリットといえます。

相続時の口座凍結でも現金が使える
相続が発生すると、金融機関は被相続人(亡くなった人)の死亡を知った時点でその口座を凍結します。そうなると、いくら相続人であっても、相続手続きが終わるまで自由にお金を引き出すことはできません。

所定の手続きを踏めば、一定額までの預貯金を引き出すことはできますが、多くの書類が必要になるほか、金融機関の確認が済むまでに時間がかかります。

相続人としては、葬儀代などの資金が必要であるにもかかわらず、その費用を引き出せないのは困りますし、立て替えられる人がいればまだしも、立て替えられない場合は別途借り入れなどでその場をしのがなければなりません。

しかし、亡くなった人がタンス預金で資産を残しておいてくれれば、それを葬儀代などに充てられるため、相続人に迷惑をかける事態を防ぐことができます。これもタンス預金だからこそのメリットでしょう。

なお、葬儀代は、相続税評価額を計算する際相続財産から差し引くことができます。

タンス預金のデメリット

では、タンス預金のデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

盗難・災害のリスクがある

タンス預金には盗難のリスクがある

金融機関に預けておけば、盗難や災害リスクに備えることができます。

金融機関の建物は堅牢な造りになっており、特に金庫は厳重なセキュリティで管理されています。そのため、自宅に置いておくよりは安心です。自宅に多額の現金を置いておくと、空き巣などの盗難の被害にあう恐れがあるほか、火事や地震、水災などで消失・散逸してしまうリスクがあります。

最近では、2023年1月に東京都狛江市で住人が殺害され、時計などの高額な品物が盗まれるという事件がありました。俗にいう「ルフィ事件」です。犯人グループはこの事件以外にも、日本各地で同様の犯行を繰り返していたと見られており、主犯格がフィリピンから指示を出していた可能性があるなど、これまでにない形の強盗として恐れられています。

金融機関に預けておけば、このような被害にあう不安を和らげられるでしょう。

紛失するリスクがある
現金を家の中のいろいろな場所に分散して保管する場合、どこにどれだけの金額があるのかを把握しておかなければなりません。タンス預金に手をつけたなら、残額がどのくらいあるのかも知っておく必要があります。

しかし、どこに保管したのか忘れてしまったり、保管していたはずなのになくなっていたりなど、紛失のリスクもあります。保管場所ごと捨ててしまい、後から気付くということも考えられるでしょう。

特に高齢になり、認知症を発症すると、タンス預金の場所や金額を思い出せないという事態を招きかねません。

現金を分散して保管しておくなら、定期的に保管場所をチェックし、金額が合っているかなどを確認するようにしましょう。

相続税の申告漏れが起こることがある
タンス預金のデメリットで一番気をつけておきたいのが、相続時の申告漏れです。

人が亡くなって相続が発生した場合、相続人は被相続人から相続した財産の相続税評価額に応じた相続税を納めなければなりません。また、相続税の納付には期限が設けられており、「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」とされています。被相続人の財産には、当然タンス預金も含まれます。

近年、被相続人のタンス預金を把握できずにそのまま相続税を納付し、後で発覚して修正の申告を行わなければならなくなるというケースが多くみられます。その場合、「過少申告加算税」が加算されてしまうため注意が必要です。

被相続人が誰にも知らせず保管していた場合は、相続人がタンス預金の存在を知り得ることができないため、加算税は手痛い出費ですが、残った分は追加の収入となります。ですが、相続税を逃れる手段として利用していた、つまり虚偽の申告を行った場合は、不正な脱税目的の遺産隠しとして、相続税法違反で刑事罰を受けることもあります。

家庭にはそれぞれの事情があり、タンス預金をすべて明らかにしていないケースもあり得るでしょう。相続が発生した際に相続人に迷惑がかかることのないように、エンディングノートなどにその存在を記しておくなどの対策を取っておくことをおすすめします。

まとめ

現在の低金利下では金融機関に預けても資産が増えないばかりか、手数料で損をしてしまう可能性があります。そのため、預金にメリットを感じないという人もいるでしょう。ですが、あまりタンス預金で保管しておく金額が大きくなると、後々デメリットが生じる可能性もあります。

タンス預金をするにしても、あまり多額の現金は自宅に置かないほうがよいでしょう。

(最終更新日:2023.05.18)
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