ここ数年のコロナ禍の影響もあって、新築マンションのモデルルームによる販売スタイルも転換期を迎えています。キーワードは「集約型」、「ブランド」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の3つです。転換期を感じさせる3つのマンションギャラリー(サロン)を見学しました。どのように変わっていくのか、詳しく説明しましょう。
3D・VRを活用した集約型拠点「銀座サロン」
開設時期が早い順に紹介しましょう。まず、2022年5月14日にオープンした、東急リバブルの「銀座サロン」です。
東急リバブルは、土地や住宅などの仲介や新築住宅の販売を受託する不動産会社ですが、新築の分譲も行っています。新築分譲は主に同じグループの東急不動産が行っているので、東急リバブルが分譲するのは、シングルやカップル世帯向けのコンパクトな新築マンション「ルジェンデ」シリーズとなります。
銀座サロンは、ルジェンデシリーズ(取材時は3物件が対象)の販売拠点となっており、「集約型」であるというのが第一の特徴です。もう一つの特徴がDX、なかでも3DやVRの技術を活用している点です。
それぞれの物件の外観デザインや建物模型、各間取りなどは、モニター画面上で3DやVR画像によって確認できます。モニター上では、たとえば間取り図に家具を配置したり、カラーセレクトの色を変えたりといったことも可能です。ほかにも、室内を立体化して、その長さや高さを測ったりもできます。
銀座サロンにはモデルルームがありません。とはいえ、モニターの画面ではサイズ感が実感できません。そこで、3方向の壁面と床に投影された VR 内覧システムの「バーチャルシアター」で実感してもらうという仕組みです。ルジェンデシリーズは1LDKが主流のマンションなので、このシアターの大きさで3物件のすべての間取りが実寸でほとんど表現できるのだそうです。
シアターでは、実寸で立体的に再現した空間を自由に行き来することで、バルコニーの高さや部屋の大きさなどのサイズ感を体感できるほか、設備や収納などを再現して、室内にいるような感覚を味わうことも可能です。
小規模なマンションということもあり、間取りだけでなくすべての階の眺望が確認できるようになっています。
仕様設備の共通化による集約型販売拠点「プラウドギャラリー新宿」
2023年2月18日にオープンしたのは、野村不動産の「プラウドギャラリー新宿」です。ここでは、野村不動産の城西・城北エリアのプラウドシリーズ(取材時は2物件が対象)を販売しています。
複数物件を販売する集約型拠点はこれまでにもありましたが、プラウドギャラリー新宿の特徴のひとつが、「LABO ZONE」を設置して、VR模型や3面スクリーンへのプロジェクター投影を活用している点です。
東急リバブルの銀座サロンとの違いは、DX技術を「ブランドの強化」に利用している点です。プロジェクションマッピングやタッチモニターなどを使って、プラウドシリーズの特徴を紹介したり、自由度の高いキッチンレイアウトが可能な「ミライフル」によって将来どのように間取りを変更できるかを、3面スクリーンを使って疑似体験したりができるようになっています。
プラウドギャラリー新宿のもうひとつの特徴が、設備・仕様の共通化を図った2つのコンセプトルームです。通常は、物件の特徴に応じて、マンションの仕様や設備をそれぞれに変えるものですが、ここで販売する物件については、壁紙や建具などの内装、キッチンや浴室などの設備を共通化して、2つのグレードに集約し、それぞれのグレードのコンセプトルームを2つ(Aグレードの約100平方メートルとBグレードの約70平方メートル)を用意しています。
ただし、実際に販売するマンションの間取りは多様です。モデルルームで広さや仕様設備を体感してもらう一方で、商談ゾーンのパソコンですべての間取り図が確認できます。また、パソコンでは、マンションの外観や近隣建物の状況、敷地配置図などの3D画像を、ゲーム機器でも利用するコントローラを操作して見ることができるようになっています。
野村不動産では、以前にも集約型の販売拠点を設けていましたが、仕様設備の共通化を図りDXを活用したこのギャラリーで、今後は都心部エリアの物件を中心に10物件以上を取り扱えるようにする予定です。
ブランド発信拠点を兼ねる「リビオライフデザインサロン」
2023年3月10日にオープンしたのが、日鉄興和不動産の「リビオ」シリーズ(取材時は4物件が対象)を販売する、「LIVIO Life Design! SALON(リビオライフデザインサロン)」です。
2021年にマンションブランド「LIVIO」のリブランディングを実施した同社は、「LIVIO」ブランドの発信拠点として、かつ、DXを活用した集約型の販売拠点として、このサロンを設けています。見学した筆者の印象は、このサロンにかなり多くの情報が盛り込まれているということです。
まず、LIVIOシリーズの仕様・設備の共通化を図り、3つのグレード(Basic、Calm、Advance)に集約していく予定で、その3つのグレードの標準仕様が分かる5つのサンプルルームを用意しています。ルーム1が1LDKのモデルルーム(Basic)、ルーム2が2LDKのサンプルルーム(Calm・リビングと水まわり中心)、ルーム5が3LDKのサンプルルーム(Advance・リビング、水まわり、テラス中心)、ルーム3・4がプラスアルファの自由な空間を加える「モアトリエ」のサンプルルームとなっています。
加えて、各サンプルルームには、外壁、戸境壁、間仕切壁、パイプスペース、直床、二重床、床暖房、床下配管などの構造見本を設け、別途に構造模型や宅配ロッカー、災害備蓄品などの展示もしています。間取りだけでなく構造などについても見て理解できるようにしているわけです。
個別の物件に関する情報としては、「リアルサイズスクリーン」と「ライフデザインシアター」を用意しています。リアルサイズスクリーンは、3面LEDパネルを用いた実寸画像が映し出されるもので、家具の配置や眺望シミュレーションができるようになっています。
リアルサイズスクリーンは、銀座サロンのバーチャルシアターと同じ仕組みですが、バーチャルシアターではすべての階の眺望が確認できるのに対して、リアルサイズスクリーンでは下層から上層のうち特定階からの眺望になります。一方で、リアルサイズスクリーンでは、典型的な複数の家具の中かから選んだものを希望の場所に配置して、自分なりにレイアウトすることができます。こうした違いはありますが、すべての間取りの実寸が体感できるという点は同じです。
また、ライフデザインシアターでは、各物件の外観や共用部などが映像で確認できるほか、最寄り駅からマンションまでの徒歩ルートを、通勤時(日中)と帰宅時(夜間)で実際に歩いて撮影したものを大画面で紹介しています。これは、サロンと物件の場所が離れていることが想定されるためだと言います。
同社では、今後はサロンのある品川から1時間圏内にある首都圏の10物件程度(100戸程度の規模まで)を集約して販売する予定です。
事業経費圧縮やSDGsなどの観点でも集約型の効果が大きい
従来は販売する物件の近くに販売センター(モデルルーム)を設置していたものを、集約型販売拠点にすることで、大きなメリットもあります。まず、物件ごとに販売センターの土地を借りて、建物やモデルルームを造り、販売終了後に解体して廃棄するという工程をなくすことができます。代わりにDXを活用するための初期投資は必要になりますが、販売までの期間が大幅に短縮でき、販売経費も大きく圧縮することができます。最近は建設費が高騰しているので、さらに経費圧縮効果があるでしょう。
加えて、建設後に解体して廃棄する工程がなくなるので、環境負荷を低減するSDGsにも貢献します。これは、脱炭素社会に求められていることでもあります。
また、複数物件を取り扱う集約型にすることで、訪問客に対して一度で複数物件を案内することができます。最近は、新築マンション購入者の検討エリアが広域化しているので、そのメリットは大きいと言います。それぞれ配置していた販売員を一カ所に集めるので、将来的には前より少ない人員で複数物件の案内ができる可能性もあるでしょう。
一方、野村不動産と日鉄興和不動産では、仕様や設備の共通化を図っています。モデルルームではなくサンプルルームでの案内になるので、プラウドギャラリー新宿で販売しづらいのではないかと質問したところ、現地にモデルルームがあったとしても一部の間取りしか再現できず、異なる間取りについては資料等で説明していたため、集約型のサンプルルームだからといって案内が難しくなることはないということでした。
複数物件の仕様や設備を共通化することは、これまでよりもまとめて一括発注できるようになるので、その分コスト削減もできるではないかと思います。こうしたコストダウンの成果が、販売するマンションの価格に反映されるなら、購入する側にもうれしいメリットになるでしょう。
コロナ禍を経たことによる販売手法の変化
3社で共通しているのは、コロナ禍でオンライン接客が増加したことです。今後も最初の顧客接点はオンラインでの相談に始まり、具体的に検討する物件が固まっていく過程でマンションギャラリーを訪問してもらうという考え方です。
DXを活用することに、シニア層などの抵抗感はないのかが気になりましたが、各社とも若い世代からシニア層まで問題なく説明ができていると言います。DXの活用でデジタルの豊富なデータを提供するという新しい手法によって、ギャラリーを訪れる価値が高まることが期待されます。
また、マンションギャラリーごとに、訪問客がくつろげるさまざまな工夫をしており、じっくりと住まい選びができるように配慮されています。今後は、こうした販売手法を取る不動産会社が増えていくのではないでしょうか。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)