足立区が目指している「日本一おいしい給食」 貧困の連鎖解消へ向け、子どもの成長を育む「あだちの食育」とは?

最近、東京23区で「子育てしやすい街」として話題となっている、足立区。どのような子育て支援制度があり、なぜ注目されているのか。足立区役所の皆さんへのインタビューを交え、全3回にわたってお送りします。
第3回となる今回は、子育ての負担を軽減するさまざまな取り組みとともに力を入れている「食育」について。なぜ、足立区は食育に力を入れているのでしょうか。また、食育により、子どもたちにどのような変化が起きているのでしょうか。

第1回:足立区で子育ての不安を取り除く取り組みが続々! 従来のイメージを払拭する支援制度を徹底解剖
第2回:足立区の受験生支援がすごい! 難関校合格者続々の無料学習塾、最大3,600万円が返済不要の奨学金も

足立区の「食育」とは?

健康に毎日を過ごし、ひいては健康寿命を延ばすためには「朝ごはんをしっかりと食べる」「十分な量の野菜を食べる」「(食事を野菜から食べる)ベジファーストを実践する」といった食習慣を定着させ、バランスのとれた食生活を続けることが大切です。しかし、家で料理をあまりしない家庭や、偏った食生活が続いている家庭も多いようです。
健康に生涯を過ごすための実践力を身につけるため、足立区では「あだち食のスタンダード」として、中学校卒業時までに以下の3つの実践力を身につけることを目指しています。

1.1日3食野菜を食べるなど、望ましい食習慣を身につける
2.栄養バランスの良い食事を選択できる
3.簡単な料理を作ることができる(ごはん・みそ汁・目玉焼き程度)

こうした食育の取り組みに欠かせないのが、給食の存在です。足立区では「日本一おいしい給食」を目指し、栄養バランスが整った給食を提供するだけでなく、栽培・収穫への参加や調理経験などさまざまな取り組みを行っています。

「日本一おいしい給食」により、食への興味や関心が向上

足立区は、「日本一おいしい給食」を目指していることで知られていますが、なぜ給食を重視することになったのでしょうか。足立区役所の学校運営部学務課おいしい給食担当である澤田さんにお話を聞きました。

澤田さん
澤田さんが給食で好きだった食材は、クジラ。「私が給食を食べていたのは40年ほど前のこと。現在は足立区でも、昔の振り返りメニューとして年に1回程度、クジラを出している学校がありますが、当時のクジラと今のクジラは味が違いますね」

―「日本一おいしい給食」に取り組むことになったきっかけは?

現区長(近藤やよい氏)が就任した直後の2007年から「日本一おいしい給食」に向けた取り組みが始まりました。区長が就任前、都議会議員だったのですが、都内の小中学校における給食の食べ残しが東京都の生ゴミの多くを占めていたこと、足立区内で転校した子どもが「転校前の給食と味が違う」と給食を食べなくなってしまったという声を聞いたことがきっかけでした。

―なぜ、給食の味に違いがあったのでしょうか?

足立区は元々、学校の調理室で調理をする「学校調理式」を採用しています。1校につき1人の栄養士が在籍し、食材の調達も各自で行います。予算や条件は同じはずなのですが、学校により味にばらつきがあり、残菜率も異なりました。「日本一おいしい給食」を始めるにあたり、各学校に在籍する栄養士が一堂に会し、情報を共有する会議を実施。区内で食べ残しの少ない学校に学務課の栄養士が行き、実際にどんな献立で、どのように調理をしているのか知ることで全体の底上げを図りました。

―具体的に、どのようなことを行ったのでしょうか?

各園で小松菜の栽培体験を実施
区立保育園やこども園、私立保育園、認証保育所、希望する私立幼稚園に「小松菜栽培セット」を配付。各園で小松菜の栽培体験を実施しています

当初は食べ残しに注視していたのですが、天然素材で出汁を取り素材のうまみを生かし、化学調味料を使わず、旬の食材を使って献立を作ることで、食への興味・関心を高めたいと考えました。また、食べるだけでなくマナーやみんなで食べる楽しさ、情緒の成長も期待するようになりました。

足立区は小松菜の産地として有名ですが、小松菜の生産者との交流や収穫体験といった食育も行っています。食材の大切さやありがたさ、食材の生産者や運ぶ人、調理する人などたくさんの人の手で給食ができていることを知り、感謝の気持ちを持つことで「残さず食べよう」という気持ちが生まれるのではないでしょうか。食に興味を持ってもらうことで「今日の給食おいしかったよ」「これ作ってみて」など家庭でも話題になり、「おいしい給食」の取り組みが学ぶ意欲や食べる意欲、ひいては生きる意欲につながっていくと考えています。

―給食の改善により、食べ残しを減らす以上の効果が期待できそうですね

こうした取り組みの結果、食べ残しはおのずと減っています。そして、3食のうち1食ではありますが、栄養バランスのいい給食を提供することで、栄養素に関することを食育として伝え、それを家庭に持ち帰り、地域に伝えてもらうことができます。結果的に小中学生が、卒業後も健康な体をもって生き抜くことにもつながります。
給食の思い出というのは学校生活の中で非常に大きなウエイトを占めていて、毎年成人の日の集いでも度々話題にのぼるほど。給食は小中学生にとって大切な、食に関する体験の場になると考えています。

ふるさと納税が、子どもの健やかな成長を支える

足立区には「治安・学力・健康・貧困の連鎖」という4つのボトルネック的課題があり、それぞれの改善に向けて取り組みを続けてきました。健康の維持には幼い頃からの食生活が大きく影響しますし、生活が困窮していれば家庭で十分な食事ができません。
「日本一おいしい給食」により、足立区で学ぶ子どもたちは食に興味を持ち、食べることの大切さや楽しさを知りながら成長することができます。それ以外にも、満足な食事を継続できるよう、無料または低額で栄養のある食事を提供する「子ども食堂」や食品を無料で提供する支援活動「フードパントリー」を実施。多くの子どもの命を繋ぎ、未来を育んでいます。

そのための財源となっているのが、ふるさと納税制度を通じて寄附ができる「あだち子どもの未来応援基金」です。足立区役所のあだち未来支援室子どもの貧困対策・若年者支援課の小原さんにお話を伺いました。

あだち虹色寄附制度
足立区では、ふるさと納税制度を発展させ、寄附の際に使い道を選んで足立区の事業に反映できる「あだち虹色寄附制度」を設けています

―「あだち子どもの未来応援基金」について教えてください

足立区では、ふるさと納税の寄附者が希望する使い道を選んで思いを反映できる「あだち虹色寄附制度」を設けています。2021年度には288件の寄附があり、そのうち「あだち子どもの未来応援基金」には91件の寄附をいただいています。同基金は2021年、子どもの健やかな成長を支援する団体や食の支援を行う団体への活動を助成するために創設した補助金制度ですが、2021年度の寄附実績の中で大きな割合を占めており、関心の高さを感じています。

―「あだち子どもの未来応援基金」はどのような用途で活用されていますか?

創設時は主に、子ども食堂やフードパントリーを運営する事業を行う団体への助成支援と、児童養護施設から退所する若者の自立支援に使っていました。使い道が限定的だったのですが、寄附者から「もっと広く子どものために使って欲しい」「困難を抱える子どものために使って欲しい」という声が多かったため、2021年12月に条例を改正。活用幅を拡大し、子どもの健やかな成長を支援するための取り組みに活用できることになりました。

2022年度はあだちっ子フードプロジェクト(夏休み中、食の支援が必要な子どもに食材を届ける事業)や児童養護施設退所後の若者の家賃補助などにも活用しています。2023年2月末時点で、昨年度を大きく上回る177件の寄附の申し出があり、個人・企業・団体からの寄附がかなり増えています。2023年度はさらに幅を広げ、子どもに関するさまざまな事業に使用する予定です。

足立区内にある、子育て世代におすすめのスポット3選

子どもの成長に応じた切れ目のない子育て支援に加え、学力対策や食育など、さまざまな角度から子育てをサポートしている足立区。区内には子どもの遊び場や、子連れで楽しめるスポットがたくさんあります。シティプロモーション課の徳井さんに、足立区内のおすすめスポットを教えてもらいました。

ギャラクシティ

ギャラクシティ
ギャラクシティにある直径17メートル、高さ10メートル、3階建ての「スペースあすれちっく」(写真提供:足立区)

西新井にある体験型複合施設「ギャラクシティ」は入場無料で学びながら遊べるスポット。高さ7.5メートルのクライミングウォールや、日本最大級のネット遊具など、体や頭を動かして遊べる遊具が勢揃いです。工作のワークショップやゲームの体験など、子どもたちの好奇心を刺激するプログラムの数々を楽しめるとあって、足立区外からも多くの人が訪れています。

ギャラクシティ
開館時間:9:00~21:30(こども体験エリアは18:00まで)
休館日:毎月第2月曜(祝日の場合は翌平日、8月を除く)、元日※1・3・9月に連続休館日あり
入場料:無料 ※まるちたいけんドーム(プラネタリウム)観覧料や一部の体験プログラムは有料
交通アクセス:東武スカイツリーライン西新井駅東口より徒歩約3分
公式ホームページ:https://www.galaxcity.jp/

足立区生物園

足立区生物園
足立区生物園に入ってすぐ「出会いの広場」にある金魚の大水槽(写真提供:足立区)

元渕江公園内にある「足立区生物園」は、動物園でなく生物園だということがポイント。南国の蝶が飛び交う大温室や約35種類の金魚が泳ぐ大水槽、一年中ホタルを育てる飼育室などユニークなゾーンが多い、全国的にもめずらしい施設です。水槽の内側から見ることができる展示など、生き物を近くに感じることができる工夫も見どころです。

足立区生物園
開館時間:2月~10月:9:30~17:00(足立区が定める夏休み期間中は17:30まで)、11月~1月:9:30~16:30(入園は閉園30分前まで)
休館日:月曜(休日及び都民の日<10月1日>は開園し、翌平日に休園・足立区が定める春・夏・冬休み期間中は休まず開園)、12月29日~1月1日
入園料:大人(高校生以上)300円、小人(小中学生)150円(未就学児および70歳以上は無料)
交通アクセス:東武伊勢崎線竹ノ塚駅より徒歩約20分
公式ホームページ:https://seibutuen.jp/

特色ある公園

舎人公園
舎人公園に2021年6月オープンした小学生向け遊具のある広場「冒険の丘」。幼児も利用が可能です ※写真提供:(公財)東京都公園協会

足立区は、都市公園面積23区内で2位(最近まで1位)。約65ヘクタールの広大な敷地を持ち、バーベキュー広場や遊具が充実している「舎人公園」や、全長2キロメートルでU字型が特徴で、カルガモの親子などを見ることができ自然を楽しめる「東綾瀬公園」、農業体験ができる「都市農業公園」も人気です。
鬼をモチーフにした「舎人いきいき公園」や恐竜のオブジェが特徴の「堀之内北公園」、ミニ列車や足踏みゴーカートを楽しみながら交通ルールを学ぶことができる「大谷田南公園」「北鹿浜公園」、宇宙をテーマにした公園など特色ある公園がたくさんあり、遠出をしなくても飽きずに楽しめます。

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足立区がなぜ「子育てをしやすい街」と言われるのか、全3回にわたってお届けしました。
足立区は自然環境に恵まれ、通勤利便性と生活利便性を両立していながら、東京23区の中では住宅価格もリーズナブルです。加えて、足立区には子育ての負担を軽減する独自の子育て支援制度が多く、金銭的な事情を理由に進学を諦めようとしていた子どもや、食生活が不十分な子どもに手を差し伸べる制度もあります。また、子どもが学びながら遊べるスポットも充実しています。東京23区で子育てを考えている人は、足立区を検討してみてはいかがでしょうか。

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