足立区で子育ての不安を取り除く取り組みが続々! 従来のイメージを払拭する支援制度を徹底解剖

これから家族が増える予定のある人や子育て中の人にとって、住む街の「子育て支援の手厚さ」は気になることの一つ。せっかくなら、各種手当や医療費の助成など、自治体独自の支援制度が充実している街に住みたいものですよね。
最近、東京23区で「子育てしやすい街」として話題となっているのが、足立区です。どのような子育て支援制度があり、なぜ注目されているのでしょうか? 足立区役所の皆さんへのインタビューを交え、全3回にわたってお送りします。今回は第1回として、未就学児の子育て支援制度にフォーカスします。

足立区ってどんなところ?

【東京都足立区】都市風景 環状7号線
足立区の中央部を東西に横断する環状7号線(画像素材:PIXTA)

足立区は東京23区の最北端に位置し、東武伊勢崎線や大師線、JR常磐線、京成本線、東京メトロ日比谷線と千代田線、つくばエクスプレス、日暮里・舎人ライナーの8路線が利用可能。ターミナル駅である北千住駅をはじめ、綾瀬駅や竹ノ塚駅など24の駅があります。
大学連携を積極的に推進しており、6つの大学があることも特徴です。人口は2022年現在で約69万人。うち14歳以下の日本人は7万2,084人、15から64歳以下は41万5,315人で、東京23区内で5番目に子どもが多い区となっています(2022年1月1日時点)。

足立区の主な子育て支援制度

まずは、足立区が行っている主な子育て支援制度を紹介します。

「あだちスマイルママ&エンジェルプロジェクト」
妊娠期から出産・子育て期まで切れ目のない支援をおこないます。母子保健コーディネーターなどの保健師が相談に応じ、関係機関やサービスなどの案内をしています。
対象者:妊娠中の人や出産後に不安のある人
詳細:足立区「あだちスマイルママ&エンジェルプロジェクト

「保育コンシェルジュ」
相談員が、保護者の希望や家庭の様子などを聴きながら、保育施設の紹介や預け先の提案、子育て相談や関係窓口の案内など、個別のニーズに合ったサービスを案内してもらえます。
対象者:就学前までの子どもの保護者
詳細:足立区「保育コンシェルジュ

「あだちマイ保育園」
登録した「マイ保育園」で行事の見学や参加、給食や育児の体験などができる制度。保育士などが相談に応じ、子育てに対する負担感や不安感を少しでも軽減することを目的としています。
対象者:妊娠中または教育・保育施設を利用していない0~6歳の子どもを家庭で育てている人
詳細:足立区「『あだちマイ保育園』のご案内

「子育てサロン」
親子で安心して自由に遊ぶことができます。2022年度からは、生後4ヶ月までの子どもとその保護者を対象とした時間を設ける「あかちゃんず」という取り組みも実施しています。
対象者:0~3歳の子どもとその保護者
詳細:足立区「子育てサロン

「子ども預かり・送迎支援事業」
地域における子どもの預かり援助として、小学生までの子育てをしている家庭を対象に、自宅または子育てホームサポーター宅で子どもの一時的なお預かりや保育園などへの送迎を行います。
対象者:0歳から12歳の子どもとその保護者
詳細:足立区「子ども預かり・送迎支援事業

「きかせて子育て訪問事業」
子育てのちょっとした悩みやグチを聴いてもらうことができます。
対象者:妊娠中または未就学の子どもがいる保護者
詳細:足立区「きかせて子育て訪問事業

子どもと保護者の居場所や相談先を整備。取りこぼしのない支援を

足立区ではなぜ、子育て支援に力を入れているのでしょうか。また、子育て支援に対する取り組みにより、どのような変化があったのでしょうか。足立区役所の皆さんにお話を聞きました。

―足立区には数多くの子育て支援制度があります。子育て支援に注力している理由を教えてください

就学前期をターゲットとした計画を進める、子ども政策課の鶴巻さん
就学前期をターゲットとした計画を進める、子ども政策課の鶴巻さん

足立区には「治安・学力・健康・貧困の連鎖」という4つのボトルネック的課題があり、マイナスイメージの原因となっていることから、解決に向けた取り組みを進めてきました。子育て支援もその礎となっています。
足立区では子育てのステージとして「産前産後期」「就学前期」「小中学校期」「高校大学期」に分けており、「就学前期」では「足立区子ども・子育て支援事業計画」に基づき、その時々に必要な支援を見極めながら切れ目のない支援を行っています。

―足立区では自治体独自の子育て支援を数多く行っています。まずは産前産後期から就学前期の子育て支援策を教えてください

足立区が全面的に進めているのが「あだちスマイルママ&エンジェルプロジェクト(ASMAP)」。すべての妊産婦を対象に、妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を目指し、「気づく」「つなぐ」「支える」「見守る」の視点で、母子保健コーディネーターや各保健センターの地区担当保健師が訪問し、さまざまな相談に応じています。

保育施設の案内や預け先の提案、子育て関係の窓口への案内などを行う相談員「保育コンシェルジュ」は、保護者の希望や家庭の様子などを伺いながら、それぞれのニーズに合ったサービスを提案しています。足立区役所の本庁舎窓口に加え、子育てサロンでの出張相談やオンライン説明会も実施。特にオンライン説明会に力を入れていまして、どんな保育施設があるのか、保活は何から始めたらいいのかなど、入園に関する疑問を解決できる初心者向けの「通常編(施設の種類・申込案内)」と、入所申し込みをしたのに待機になってしまった、追加の利用調整はどうしたらいいのか、その他の預け先の選択肢はあるのか、今後の保活はどのように進めたらいいのかといった内容の「特別編」を見ていただくと、保活の悩みを解消するヒントを見出していくことができます。相談支援を強化することで、保護者の悩みに対して適切な関係機関へつなげ、安心して子育てができる環境を作りたいと考えています。
(子ども家庭部子ども政策課:鶴巻さん)

子育ての不安から「旦那のグチ」まで、心に寄り添いサポート

子育てサロンの様子
子育てサロンの様子(写真提供:足立区)

―「あだちマイ保育園」という独自の制度について、就学前の子どもを保育施設などで預けることができる「一時保育」との違いを教えてください

多くの自治体で利用できる「一時保育」は主に、保護者がリフレッシュなどの目的で利用します。足立区には妊娠中または教育・保育施設を利用していない0~6歳のお子さまをご家庭で育てている方を対象に「あだちマイ保育園」を実施していて、親子で保育園に足を運んでその場で一緒に遊び、安心して過ごすことができます。
同年齢の子ども同士が遊ぶ姿を見ると安心できますし、保育士と子どもの関わり方を見て子育てについて学び、看護師に離乳食や健康のことなどを相談できるとあって、保護者のみなさんに好評です。自分の用事のための「一時保育」と、子育てを学びながら安心して過ごせる「あだちマイ保育園」を上手に使い分けている人が多い印象ですね。 
(子ども家庭部子ども政策課:鈴木さん)

―ほかにも、家庭での育児をサポートする制度はありますか?

足立区内には、0歳から3歳までの子どもとその保護者の方を対象にした「子育てサロン」が65ヶ所あり、延べ20万人以上が利用しています。買い物のついでに気軽に立ち寄れる「商業施設等内の子育てサロン」、専門知識のあるスタッフを配置し相談機能が充実している「拠点型子育てサロン」、身近な「児童館子育てサロン」と3つのタイプがあります。このうち13ヶ所が商業施設型と拠点型で、専門スタッフを常時配置。子育てに関する相談や寄り添い、パパ・ママ同士が交流するためのコーディネートなどを行っています。
児童館は、親子の居場所として自由に遊び、保護者同士がつながる場となっています。3つのタイプを用途に応じて使い分けることができます。

―利用者はどのように子育てサロンを利用していますか?

スタッフに相談したい人、イベントを楽しみにしている人、気に入っている場所に行きたい人など理由はそれぞれですが、いろいろな子育てサロンに足を運んでいるママが多い印象です。毎日訪れる人もあれば、イベント毎に利用する人もいて、利用頻度はバラつきがあります。時期も影響していて、子どもが0から1歳の小さなとき、育休中や仕事を一旦お休みしている人など、子育ての悩みが多い時期に足繁く通う利用者が多いですね。

―男性の利用者もいるのでしょうか?

男性の利用者も増加しています。子育てサロンでも、パパ向けのイベントを実施したり、男性が優先的に足を運べる日を設けたり、パパも利用しやすい雰囲気を作っています。特に、千住大橋の商業施設型子育てサロンは、買い物のついでに利用しやすい環境にあります。土曜・日曜はパパが子どもを見ている間にママが買い物をする利用者も多いですね。開設時間内は時間を気にすることなく利用でき、昼食を持ち込んで食べることもできます。
通常、多くの子育てサロンが10:00から営業していますが、2022年度から拠点型の12ヶ所で本格的にスタートした「あかちゃんず」の実施日には9:00にオープン。約生後4ヶ月までの赤ちゃんが専用で利用できるようにしています。月齢が限られているため、パパ・ママ同士のつながりが生まれ、子どもに関する共通の悩みを共有できるとあって好評で、利用者が増加しています。
(地域のちから推進部住区推進課:矢野さん)

―そのほかに、どのような子育て支援制度がありますか?

「子ども預かり・送迎支援事業」は、地域における子どもの預かり援助として、小学生までの子育てをしている家庭を対象に、子どもの一時預かりや保育園などの送迎を行っているサービスです。対応する子育てホームサポーターは、地域にお住まいの子育て経験者が中心で、足立区所定の約30時間の研修を修了した人です。保育園の送迎で定期的に利用する人もいれば、不定期に利用する人もいます。

「きかせて子育て訪問事業」は傾聴支援で、NPO法人に委託している事業です。ちょっとした不安やグチを、ボランティアのサポーターが聞いてくれます。行政に相談するような深刻な事態ではないけれど、ちょっと不安な気持ちやグチを聞いて欲しいという人におすすめ。子育ての先輩であるサポーターに打ち明けることで、「気持ちが軽くなった」「孤立感や不安を軽減できた」という声が届いています。
(こども家庭支援課:茗荷さん、千葉さん)

保育所の整備と保育士の確保で待機児童ゼロへ

―足立区では待機児童の多さが課題となっていましたが、2021年4月に待機児童ゼロを実現しましたね

待機児童数
待機児童数の推移(画像提供:足立区)

2015年に待機児ゼロ対策担当課を発足。「足立区待機児童解消アクション・プラン」に基づき、保育施設の整備を進めるとともに、働く保育士の確保なども含めて一体的に整備を行ってきました。具体的には、2015年度から2021年度までの間に新規施設整備等により4,000人超の保育定員数の拡大を行いました。保育士の確保に関しては、ここ数年はコロナ禍で思うように実現できなかったのですが、就職相談会の開催や、大学と連携して就職を呼び掛けるなどの支援を行っています。

―保育士の確保は、各自治体で頭を悩ませている問題ですね

保育士の確保を進めるための対策として、奨学金の返済費用の一部を区が補助する「保育士奨学金返済支援事業補助金」を実施しています。都内では足立区が最初に始めた事業ですが、現在は同様の取り組みを行う区が増えているようです。現在、約200名が利用していて、補助上限額は返済額の2分の1・年間10万円としていますが、補助金を増やすことも検討中です。また、保育所等の事業者に月額8万2,000円を上限として家賃補助を行う「保育士等住居借上げ支援事業補助金」もほかの区と同様に実施しています。

そのほかにも、足立区独自の取り組みとして2019年から「足立区保育士・家庭的保育者永年勤続褒賞」を実施。5年以内で退職してしまう保育士が80%近くを占める現状を改善し、繋ぎ止める施策のひとつとして、勤続5年および10年(保育ママの場合は勤続10年および20年)を褒賞の条件とし、褒状と記念品を授与しています。
現在は、保育士を確保する施策から、定着させるための施策への変換期と捉え、日々試行錯誤しているところです。
(子ども家庭部私立保育園課:渡邉さん、中田さん)

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子育てにはさまざまな悩みが付き物ですが、「あだちマイ保育園」や「子育てサロン」など、足立区には子育ての不安を軽減してくれる制度がたくさんあり、きめ細かなサポートを行っています。より詳しい足立区の子育て情報は「あだち子育てガイドブック」などで確認を。

第2回は、子育てで最もお金がかかる受験期に無料で通える進学塾や返済不要の奨学金といった、足立区独自の学習支援策を紹介します。

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