文部科学省の統計によると、大学進学率は2021年度の54.9%に続き、2022年度は56.6%と過去最高値を記録し、年々大学に進学する人の割合が高くなっています。そのうち私立大学に進学するのは、全体の80%弱です。大学の学費は国公立のほうが少なくて済みますが、誰もが国公立の大学に進学するとは限りません。国公立大学に進学するか私立大学に行くか決まっていない場合は、高い方の私立大学の学費を目安に準備しておくと安心です。
今回は、私立大学に進学する場合、どのくらいの学費が必要なのか、またその費用をどのように準備しておけばいいのかについて解説します。これから、大学受験を考えておられる親御さんや高校生の人は、ぜひ参考にしてください。
私立大学に進学すると学費は総額いくらかかる?
私立大学の学費は学部によって異なりますが、初年度では110万円~160万円程度、4年間では400万円~550万円程度です。
ただし、医学部や歯学部となると6年間で2,000万円~5,000万円と高額になり、大学や学部によっても大きく差があります。
詳細については後述しますが、一般的に私立大学の学費は、文科系が一番少ないようです。次いで家政や芸術、体育や保健などのその他の学部、次に理科系、そして一番高いのが医歯系である傾向が見られます。
学費は主に「入学金」、「授業料」、「施設設備費」の3つに分けられます。この3つの費用の概要について、次項で詳しく説明します。
入学金
入学金とは、学校に入学する際に納める費用で、授業料とは別の扱いとなるものです。また、多くの大学で、入学金は入学前に支払うよう求められています。
令和3年度の私立大学の入学金の平均は、24万5,951円となっており、約25万円が相場と考えられます。
ただし、大学院に進学する際には、その時点で再度入学金を支払わなければなりません。大学院は前期課程と後期課程に分かれますが、前期課程では約20万円、後期課程では約19万円とどちらも大きく変わりません。
授業料
授業料とは、大学において講義や授業を受けるための費用で、通常は前期と後期とで分けて支払う仕組みです。初年度は入学金と前期の授業料を支払わなければならないので、まとまった費用が必要になるというわけです。
授業料の相場は、文科系で約82万円、理科系で約114万円、医歯系になると約288万円にのぼります。また、家政や芸術、体育や保健などその他の学部だと約97万円です。
授業料は大学に在学している限り発生するもので、授業料以外に実験実習料が発生するケースもあるので、余裕を持って準備しておいたほうがよいでしょう。
施設設備費
施設設備費とは、学校の施設や設備を拡充もしくは維持していくための費用です。そして、授業料と同様に、在学中は毎年納めなければなりません。
施設設備費も学部によって差があり、文科系だと約15万円、理科系だと約18万円、医歯系の場合は約93万円、そしてその他の学部においては約24万円が相場です。
在学期間中は、授業料と施設設備費を合わせた額を毎年納めなければならないため、授業料以外の施設設備費についても加味して準備することを忘れないようにしましょう。
私立大学に進学するのにかかる学費以外のお金は?
私立・国公立にかかわらず、大学進学には学費以外のお金も発生します。
たとえば、受験する際には願書を購入する費用や、受験料が必要になります。受験する場所によっては、交通費や宿泊費もかかるでしょう。
ほかにも教科書代や交通費、自宅外通学の場合は加えて下宿代が発生します。
教育費の総額は私立文系で約698万円(自宅通学)、約978万円(下宿)、私立理系で、約833万円(自宅通学)、約1,114万円(下宿)かかるというデータもあり、私立大学に進学するには、前述の授業料以外にも多額の費用を要することを知っておきましょう。
受験料
受験料も大学によって異なりますが、私立大学の場合、1校あたり平均で3万5,000円程度をみておくとよいでしょう。受験方式や受験校の数によって最終的な金額は異なります。
また、近年は私立大学でも大学入学共通テストを利用するところが増えています。大学入学共通テストの検定料は、2教科以下の場合1万2,000円、3教科以上の場合は1万8,000円です。大学によりますが、大学共通テストを利用する場合の受験料は一般選抜に比べて低く設定されている傾向にあります。
宿泊を伴うなど遠方での受験が重なると、さらに費用がかかるので、地方受験などを利用することも考えましょう。
教科書代
大学の教科書は、比較的高価なものが多い傾向にあります。全部そろえると年間数万円ほどといわれていますが、大学や学部によっては10万円程度かかる場合もあるようです。
また、最近では教科書を購入する代わりにノートパソコンの購入を義務づけているところもあります。授業で利用する資料をクラウド上で共有することで、教科書がなくても授業を受けられる仕組みを採用している大学もみられます。
下宿・通学費用
通学の際の定期代は、大学生の場合、中学生や高校生に比べ、割引率が低くなっています。とはいえ、切符での乗車と比べると80%程度の割引で利用できるため、お得であることには間違いありません。
問題は自宅外通学の場合です。自宅外通学となると、部屋を契約したうえで家賃のほかにも敷金や礼金などが必要になるほか、引っ越し費用も考えなければなりません。入学時期は引っ越し会社の繁忙期にあたるため、通常に比べると料金が高く設定されています。
ちなみに、首都圏の私立大学・私立短大に入学した新入生の平均値をみると、自宅外通学者の「受験から入学までの費用」は、223万3,780円、「入学の年にかかる費用」は302万9,380円となっており、奨学金だけで賄うには難しい金額といえそうです。
私立大学の進学費用を準備する方法
私立大学の進学費用を準備する方法には、どのようなものがあるのでしょうか。ここからは、代表的な大学進学費用の準備方法と、活用できそうな制度について紹介します。
学資保険や財形貯蓄を活用して貯める
教育費を準備する方法として昔から活用されている学資保険は、地道に教育資金を準備する方法としておすすめです。ただし、現在の低金利下では保険金額より保険料が高くなっている元本割れのケースもあるため、契約の際には保険金額に対する保険料の支払総額(返戻率)を確認するようにしましょう。
また、会社に財形貯蓄制度が用意されているなら、活用しない手はありません。給与から天引きで貯められるうえ、一般財形貯蓄なら使途が自由なため、進学費用としてさまざまな用途に利用できます。
会社に財形貯蓄制度が用意されていない場合は、金融機関の積立貯蓄の利用を考えましょう。
【詳細記事】
FPが教える! 確実、着実に“子どもの教育資金”を準備する4つの方法
奨学金や特待生制度を利用する
奨学金にはいくつかの種類がありますが、日本学生支援機構やあしなが育英会の奨学金が有名です。日本学生支援機構の奨学金には、給付型と貸与型があり、給付型は基本的に低所得世帯向けの内容になっています。大学進学前(高校3年生)に申し込む必要がありますが、大学進学後でも申請できます。ただし、利用にあたっては学業と所得の基準を満たさなければなりません。
また、大学独自の奨学金や特待生制度を設けているところもあります。特待生制度とは、成績優秀者を対象とした学費の免除制度で、特定の分野で優秀な結果を残した学生が対象になるケースもみられます。
【詳細記事】
「奨学金」にはどんな種類がある? 国、自治体、民間団体の仕組みと申込方法
【種類別】奨学金は主に3種類、申請基準や金額は何が違ってくる?
高等教育の修学支援新制度を利用する
高等教育の修学支援新制度は、2020年に始まった大学無償化支援制度です。支援を受けるには、学力基準と併せて本人に学ぶ意欲があるかどうかや、世帯の収入要件(住民税非課税世帯もしくはそれに準ずる世帯であること)を満たす必要があります。
減免額については、以下のとおりです。
(住民税非課税世帯、私立大学の場合)
入学金:約26万円
授業料:約70万円
さらに給付型奨学金も受けられ、私立大学の場合の年間支給額は以下のとおりです。
・自宅通学:約46万円
・自宅外通学:約91万円
また、住民税非課税世帯に準ずる世帯の場合、世帯収入に応じて減免額および支給額が3分の2もしくは3分の1になります。
これらはいずれも返還不要なので、要件に当てはまる場合は積極的に活用しましょう。
【詳細記事】
【2020年4月から】高等教育の修学支援制度や大学無償化制度とは? 年収などの条件や対象の学校は?
教育ローンを利用する
教育ローンとは、教育費やそれに関連する費用に利用するための資金を借り入れるローン商品です。国(日本政策金融公庫)が行っている「教育一般貸付(国の教育ローン)」のほか、民間の金融機関が用意しているものもあります。
民間の教育ローンの内容は、提供する金融機関によって異なります。金利や借入希望額などを比較し、さらにシミュレーターを利用して綿密な返済計画を立てたうえで、目的に合った使いやすいローンを選ぶようにしましょう。
一方、国の教育ローンといわれる「教育一般貸付」の場合は、最高350万円(一定の要件を満たすと450万円)を年1.95%(2022年12月時点)の固定金利で、最長18年間の長期借り入れができます。家庭の状況に応じて金利や保証料の優遇策なども用意されているため、安心して利用できるでしょう。
【詳細記事】
子どもの入学・在学資金が足りない! 困ったときの“教育ローン”利用方法
まとめ
私立大学の初年度の学費は、約110万円~160万円程度です。4年間で約400万円~550万円の学費がかかる換算になりますが、大学に進学するためには、学費以外にも多くの費用が必要です。
まず、どの費用がどのくらいかかるのか、大学進学に必要な資金の総額を把握し、計画的に準備することが大切です。不足する場合は、奨学金や高等教育の修学支援新制度、さらには教育ローンなどの利用についても検討し、要件に当てはまるなら、上手に活用しましょう。