【ARUHI アワード2022 10月期優秀作品】『ハシワタシ』間詰ちひろ

「この料理、ぜーんぶスーパーのお惣菜。私はお味噌汁を溶かしただけ」あっけらかんとした森の告白に咲は「えっ?」と驚いた。あれも、これも食べてと勧められるまま食事をし、咲はギクシャクしながら「どれも美味しいです。こんなにたくさん作られて、お料理お好きなんですね」と言ったところに、この回答だ。唐揚げ、揚げ出し豆腐、根菜の煮物、ひじき煮、枝豆……。確かに味噌汁はインスタントかなと咲も気付いていた。けれど、まさか白米も含め全部がスーパーのお惣菜だとは。
「私が食べそうなメニューを選んでくれたんですか?」少し不思議そうに咲が尋ねると、森はううん、と少し悲しそうな表情で首をふった。
「離れて暮らしてる息子がね、頼んでくれるんだけどね……」すぐには理解できず、咲は少し首を傾げた。
「ネットスーパーっていうの? こういう日持ちしないお惣菜も頼めるんだって」そうして森はふうっとため息をついた。咲はどう答えていいかわからなかったが、森を励ました方が良い気がした。
「息子さん優しいですね。こんなに色々……。夕飯の内容まで気にかけてくれてるっていうか、心配されて」咲は無理やり明るい声を出した。しかし、森はまた小さく首をふった。
「優しいし、心配してくれてるのは、分かるんだけど……。いつも食べきれない量でね。多すぎるから必要ないって言ったら、以前はたくさん食べてたのに、食が細くなったのか? とか、今度は柔らかい茶碗蒸しみたいなのをたくさん送ってきたり……」そう言ってふうっとため息をつき「離れて暮らしているから、心配なんだろうけど」と誰にいうでもなく、呟いた。咲はどう反応するのが正解かわからず、とにかく、目の前に広がった惣菜を食べることに専念した。
「ごめんね。なんか、よくわかんない夕飯だったでしょ?」ごちそうさまでした、と咲が食事を終えると、森は気を取り直したように明るく笑った。咲が少し困っていると、「私がメソメソしてると、徳田さん、息子とちゃんと話しなさい、お互い気にしすぎ! って怒ってねえ」と森は笑った。

「あの、なんで祖母は森さんと一緒に夕飯を取るようになったんですか?」咲が質問すると、森は麦茶をついだコップを咲の前に出しながら「ずいぶんプラごみが多いけどどうしたの? って質問されたのがきっかけ」と懐かしそうに笑った。
「プラごみ? 人の家のごみを見るなんて、おばあちゃん怖い」咲のちょっと引いた様子に、森は違う違うと慌てて手をふった。
「私がちょっと膝を痛めてね。ゴミ捨て行くのも億劫だってことがあって。痛い痛いって言ってるのを見た徳田さんが、ついでだから持っていってあげるって」
「優しいっちゃ優しいですけど……。でも、ごみの量が多いなんて……普通いいます?」唇を尖らせながら不満げに咲がいうと森は声をあげて笑った。
「でも徳田さんらしい、でしょ? 気になると突き止めずにはいられないっていうか」
「確かに」咲にはあれこれと思いあたるフシがあり、渋々うなずいた。
「お惣菜のパックって重ねても嵩張るでしょ。それで妙に気になったって。食べきれないほど送られてくるから、冷凍してるって打ち明けたら、それなら一人の食事は味気ないし、時々一緒に食べないかって」
「全然知らなかった。私が泊まりにきてる時はそんな素振りなかったけど」咲がそういうと、森は少し考えたが「咲さんが泊まりに来るって言っても月に数回でしょ? 毎日一緒って訳じゃないから」と笑った。

荷物が届くのは月木の週二回とのことで、木曜にまた一緒に食事をしようと約束した。森家ではスマホをチェックする余裕もなく、咲は帰宅後に画面を見ると、公代から連絡があった。
「夕飯今日は何だった? おばあちゃんは明日手術、がんばるでー」と妙に明るいテンションだが、おそらく不安の裏返しだろうなと咲は想像した。
「おばあちゃん、森さんの息子さんに会ったことある?」入院と手術に関するいくつかのやり取りの後、咲は公代に森家のことを尋ねた。少しして「真面目そうだったよ。確かご主人の葬儀で帰省してた。十年も前だけど、それから会ってないんだって」と返信があった。
「森さん、会いにいけばいいのにね」と咲が送ると「仕事とか息子の事情があるって遠慮してんだよ」と即返信がきた。おばあちゃん、お節介だよねとメッセージを送るより早く、公代から届く。

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