【ARUHI アワード2022 10月期優秀作品】『退屈なコピペの日常』木戸流樹

二人で空を見上げる。満天の星。ユキコは満面の笑顔でこう言う。
「今日星綺麗だね。」
「そうだな。」
こんな他愛のない会話をしたのはいつぶりだろうか。学校に来てからずっと笑顔のユキコ。俺はその笑顔に見惚れている。自覚してしまうと何故か急に恥ずかしくなって前を向く。校舎の窓に映る高校生の俺も同じようにユキコに見惚れている。ん?あれ。見つけた。ユキコと二人で何か話してる。あ、なんか俺、ユキコに思いっ切りビンタされてる。
「あんなこともあったね。」ニヤニヤしながらユキコはそう言った。
「懐かしー。ていうか高校生の頃から同じコート着てるんだね。」
「気づいてなかったの。」
「だってあの後ほとんど話さなくなったし、覚えてないよ。さすがに中学生の頃は着てなかったでしょ?」
「うん。」
「ポニーテール。そういえばさっき駅で鏡覗いたときポニーテールだったな。今髪おろしてるのに。あれ、もしかしてあのときから高校生のユキコが映ってた?」
「気づくの遅い。」
「でもなんでユキコも?」
「なんでだろ。……いつもと違うことをしたからかな。」
「いつもと違うことって?」
「カズヤに声をかけたこと。実は毎日仕事の帰り同じ電車だったんだよ。でも最後に話したのってあれっきりじゃん?だからずっと知らないフリしてた。」
「じゃあなんで急に声かけてくれたの?」
「んー、暇だったから。毎日同じことの繰り返しで。」
「あー、俺も一緒だ。同じことの繰り返しの毎日を受け入れてるフリしてたけど、なんでもいいから変化が欲しくて走ったんだ。結果、腕は擦りむくし晩御飯も無くなった。」
「変化ちっちゃ。」
「うるせー、何したらいいか分かんなかったんだよ。でも、泣いたのは 10 年ぶりくらいだったな。」
「なにで泣いたの。」
「もちろん転んで痛かったからじゃないよ。なんか色んな思いが溢れちゃってさ。」
「いやそれくらいわかるよ。聞いてるのは 10 年前に泣いた理由。」
「……今見てたじゃん。」
「泣くとこまで映らなかった。」
いつの間にか窓に映る二人は元に戻っている。
「目的は達成したし、そろそろ帰ろうか。」そう言って俺は立ち上がる。

「でもなんで高校生だったんだろうね。」
「多分、俺らにとって毎日同じことの繰り返しだなーって思いながらも退屈じゃなかった最後のときだったんじゃない?」
「なるほどね。今日はそんな過去を思い出して、その虚像を追いかけてみたってわけか。」
「久々に非日常的な一日で、楽しかったよ。」
「ねぇ、晩御飯なくなっちゃったんなら今から食べに行かない?」そう言ってユキコも立ち上がる。
「アリだな。どこ行く?」
「学校出てちょっと南に下ったとこにあるラーメン屋覚えてる?」
「あー!覚えてる!あそこ今からでも間に合う?」
「ギリギリ走れば間に合う!確か夜の1時まで開いてるはず。全然味変わってないよ。」
「ラーメンの味だけは変わらないのが一番。」
「注文してから出てくる早さも異常だし、あれ絶対下でコピペして出してるよ。」
心地良いしょうもない会話。そしてラーメン屋までのダッシュ。ガッ。盛大に転ぶ俺。二人で大笑い。これから始まる新しい日常。それもいつかは同じことの繰り返しになる。でも、退屈ではないっぽい。

『ARUHI アワード2022』10月期の優秀作品一覧は こちら  ※ページが切り替わらない場合はオリジナルサイトで再度お試しください

~こんな記事も読まれています~