【ARUHI アワード2022 10月期優秀作品】『退屈なコピペの日常』木戸流樹

自宅の最寄り駅に到着し、改札を出ると後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、カズヤ―。」
振り返ると幼馴染のユキコ。俺は思わず叫んでしまった。
「俺が見えるのか!?」
「は?何言ってんの。頭おかしくなった?」
「いや、俺、消えちゃったと思って。」
「意味わかんない。疲れてんの?」
「よかったぁ。よかったぁ。おれ本当に消えちゃったのかと思って、どうにか冷静になろうと思って、おうちでお星さまと語り合う妄想をしてる自分を妄想したりして……」
「落ち着け落ち着け、何があったの。」
「え、いま鏡持ってる?」
「は?いや持ってるけど。」
「ちょっと一緒に鏡のぞいてくれ。」
ユキコが呆れながら鏡を取り出す。二人で鏡をのぞき込む。
「え、ちょっと待ってこれどういうこと?」鏡にはユキコの顔だけが映っている。
「俺にも分かんないから情緒不安定になってるんだよ。」
「ちょっとさがってみて。」
カシャ。携帯のカメラで俺を撮る。
「え、カメラには映るよ。ほら。」
「いや余計怖い。」
「いつからこうなったの。」

「さっき。仕事の帰りに駅まで歩いている途中。」
「消えた瞬間は見たの?」
「見た。なんかふと顔を上げたらお店の窓に制服を着た高校生の自分が映ってて、そいつが逃げてった。」
「なるほどね。なら探すしかないね。」
「この状況受け入れるの早くない?」
「グダグダ言ったところで目の前の事実は変わらないからね。」
「かっこよ。」
「高校生のアンタが行きそうな場所、心当たりないの?」
「……わかんない。」
「じゃあ、高校生のアンタが逃げたときってどんな状況だった?」
「えっと……、俺が道で転んじゃって、号泣してた。」
「いや子どもか!そりゃ大人になった自分が道で転んで泣いてたら絶望してどっか消えるわ。」
「何も言い返せないな。」
「とりあえずさ、制服着てたんだったら私たちの高校に行ってみない?」

駅からバスで 30 分。母校に到着。
卒業してから初めて来たな。懐かしい。ここにいるときは何もかもが楽しかった。ただ毎日ダラダラと授業を受けて、部活をして、友達と全く生産性のない会話をしながら帰る。それだけだったのに、そんな他愛のない日々が楽しかった。
「なに感傷に浸ってんのよ。」
「いや、そういえば裏庭の門ってまだ鍵壊れっぱなしなのかなって。」
「あ、そういえばそうだったね。簡単に入れるじゃん。」
「さすがに修理してるでしょ。」
裏庭に回る。門は簡単に開いた。もう 10 年近く経つのに直っていない。大丈夫かこの学校。ユキコはそんなことまったく気にしない様子でさっさと中に入っていく。振り返って手招きをしてくる。そして子どもみたいに無邪気な笑顔でこう言う。
「早くこっちに来なよ。」
「今行くよ。」
俺は小走りでユキコを追いかける。ユキコは意地悪な笑顔でこう言う。
「また転ぶよ。」
「ちゃんと気をつけてるよ。」
一通り探索し終わって、ベンチで休憩。実際のところ、ただ学校を散歩するのが楽しくて本来の目的なんてどうでもよくなっていた。

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