目の前で堂島さんがカップラーメンをすすっている。
「・・・。」
今日初めて会った人と一緒にランタンの明かりを頼りにカップラーメンを食べている。なんだか変な感じだ。
「どうしたの?」
「いえ、すいません、何でもないです。」
話す事がほとんどない。ちょこちょこ話す事はあるが、すぐに会話が無くなる。
すると玄関のドアが開く音が聞こえる。
「あ、富さん帰って来たかも。」
堂島さんが玄関の方を見る。
「富さんって誰ですか?」
「ここの住人。仕事から帰って来た所だね。たぶん。」
「・・・。」
一気に緊張が高まる。どんな人なのだろうか?出来れば怖くない人であって欲しい。
「ただいま~。もう最悪だよ。」
リビングに現れたのは中年の元気な男性だった。大柄で髪は後ろに束ねられていてアゴ髭が生えている。
「うわ~、びしょ濡れだね。」
「あれ、新しい人?」
アゴ髭の男性はこちらに目をやる。
「今日から住む事になった小早川です。宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。富沢です。ちょっとごめん、ゆっくり話す前にシャワー浴びてくる。」
そう言ってバタバタとお風呂の方に行った。暗いのによくライトも持たずに行けるな、と感心する。
「見ての通り陽気なおじさん。」
堂島さんがこちらに向きなおりニコッと笑う。
「そんな感じですね。」
「同年代がいなくてごめんね。がっかりした?」
「いえ、今日から一人暮らしなのでとりあえず自分の事で一杯いっぱいです。」
「いいね~初めての一人暮らし。っていってもシェアハウスだから厳密には一人暮らしじゃないけど。」
「まぁ、そうですね。」
クスッと笑う。なんとなく会話が出来て嬉しい。
「大学は何を専攻してるの?」
「えっと、教養学部です。」
「じゃあ、将来は学校の先生?」
「今の所は、ですけど。」
「小?中?高?」
「小学校です。」
「へ~、子供可愛いもんね。」
「はい。ちなみに堂島さんのお仕事を聞いてもいいですか?」
「私?そうだな・・・何か恥ずかしいな。」
「俺だけってズルいっすよ。」
「そうだよね・・・私はね、音楽家。」
「凄いっすね。そういう人に初めて会いました。ちなみに楽器はなんですか?」
「ヴァイオリン。でもそんなたいそうなもんじゃなくて、最近ちっちゃな楽団に所属したってだけだから。」
「すげー。」
「凄くないよ。そのためにこの前仕事やめちゃったし。」
「何やってたんですか。」
「えっとね、教員。」
「・・・。」
「しかも小学校の。」
「めちゃめちゃ俺の先輩じゃないですか!」
「まぁ、そうだね。でももうやめてるから。」
「そんなの関係ないっす。色々教えてください!」
「それは良いけど、そんな役に立たないよ。」
「そんなの全然いいです。やった~。」
予想していなかった繋がりに心が躍った。
そこから大学ではどんな事をやるのか?どんな勉強をしたらいのかを教えて貰った。
「いやいや、さっぱりした。」
富さんが濡れた髪をガシガシとタオルで拭きながら戻ってきた。
「儲かった?」
と堂島さんが聞く。
「全然だめ。こんな嵐みたいな天気だから運営から中止の連絡来たよ。」
「そりゃあ天気も天気だしね。しかも停電だし。」
「せっかくいい調子で配達してたのに最悪だよ・・・えっと小早川君だよね。」
「はい。」
「わけわかんない話してごめんね。俺さっきまで配達してたの。フードデリバリー。」
「ああ、今やってる人多いですよね。」
「小早川君は大学生?」
「そうです。」
「さっきその話してた所。」
堂島さんが間に入ってくれて、さっきまで話してたことを代弁してくれた。
「そうなんだ。じゃあこれからの大学生活楽しみだね。」
「はい。富沢さんは、お仕事は配達なんですか?」
「いや、本業は俳優なんだよね。でも食えてないから配達して生活してんの。」
「そうなんですね。」
「富さんも脱サラして俳優やってんだよね。」
「え、前職は何やってたんですか?」
「食品の営業。去年の今頃やめちゃった。」
富さんが苦笑いを浮かべる。