アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、2つのテーマで短編小説を募集する『ARUHI アワード2022』。応募いただいた作品の中から選ばれた8月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。
静かで良いなと思った。
秋が極端に短くなった昨今に珍しく秋らしい気候の日で心地良く、太陽が沈む具合から冬の端っこが見える感じの時間帯に、そう思い浮かんだ。
珍しく家には、母とわたししかいないから、そんな時間が訪れたのだろう。
基本的にわたしの家は騒々しい。というのは、家族が多いせい。
メンバー紹介をすると父、母、長男、次男、長女、三男、双子の次女と三女、そして、わたしという総勢9名の具合だ。
テレビに取り上げられる程の大家族ってほどではないけれど、少子化が叫ばれる現代では結構珍しい方だと思う。
もう少ししたら、家族全員分の晩御飯の準備を母が始める。食べ盛りが揃っているから、母が台所に立つと、まるでちょっとしたレストランの厨房のように賑やかになる。
自慢じゃないけど『買い物』だって、『仕入れ』と言った方が正しそうな分量だし、冷蔵庫と冷凍庫は業務用のものだ。しかし、『美味しい』があちこちから響き、それが母の糧となり、今日も勇ましささえ放ちながら厨房に立つだろう。でも、ちょっとくらい手伝ってもらえると嬉しいのは本音だろう。
思えば、母は一日中、家のことをしてくれている。
朝は、朝食と同時に4人分のお弁当を作り、全員を送り出したら、洗濯機の二回戦目に突入し、一回戦目の洗濯物を干している。二回分の洗濯ものが、ベランダに干されると、どこかの国のお祭りのようにカラフルになって見ている分には楽しい。
毎日ではないけれど、掃除機を駆動させ、家中を駆けずり回っている。だが、今の今は、母もきっとわたしと同じように静かで良いなと思っているようだ。
しかし、玄関が開く音が聞こえて、この安息の時の幕は降りた。
小学生の双子姉妹が帰ってきた。
「ただいまー」
元気良い足音を響かせて、母とわたしのところにやって来た。
「ただいまー」
「お帰り」と母とわたしは同時に言った。
「手洗いとうがいね」
「はーい」
さすが双子なのか、呼吸がぴったりで洗面所に向かった。
この二人はちょっとおじさんっぽい。例えば、母が「何食べたい?」と尋ねると「枝豆」とか「湯豆腐」と渋い料理を息ぴったりでリクエストするし、『ポリポリ』と言いながら頭を掻いて笑い合っている。
洗面所から二人が戻ってきた。
「元気?」
双子の姉が尋ねた。姉は優しい。
「ありがとう。元気だよ。今日何食べたい?」
「ししゃも」
妹が先に答えると「私もししゃも好き」と姉が続いた。
「じゃあ、ししゃもの竜田揚げとナスのミートソースグラタンにしようか? お兄ちゃんたちはお肉食べたがるし」
「手伝おうか?」
姉はぐいぐい優しい。
「宿題ある?」
「あるー!」
妹はむちゃんこ元気。
「じゃあ、先に宿題やってね。お姉ちゃんも帰ってくるだろうし」
「はーい」
二人は自分達の部屋に向かった。この部屋は長女の部屋でもあり、我が家は兄弟、姉妹で部屋が分けられている。
「さてと」
母は立ち上がって台所に向かった。