今回は、住まいを売却する時にかかる税金について考えます。マイホームを売却する際にかかる税金にはどのようなものがあるのでしょうか。特に重要な、譲渡益にかかる所得税の計算方法なども押さえておきましょう。また、譲渡損が出たときの節税方法についても解説します。「知らなかった!」と後悔することがないようにしましょう。
家を売却した時にかかる5つの税金
住み替えなどで住宅を売却する際にかかる税金にはどのようなものがあるでしょうか。まずは、5つの税金について押さえておきましょう。
<印紙税>
買主が見つかって売買契約を結ぶ際には、印紙税がかかります。実際には印紙を購入し、書類に貼り、割印を押す(消印をする)形で納税したとみなされます。売買契約書は、売主保管用と買主保管用に2通作成されるので、2通分の印紙税が必要となりますが、売主と買主それぞれが1通分ずつ負担するのが通常です。なお、仲介会社と締結する媒介契約書には印紙税はかかりません。
不動産の印紙税の税額は下表(抜粋)の通りで、物件価格に応じて決まります。たとえば契約金額が1,000万円超5,000万円以下の場合は本則2万円、5,000万円超1億円以下の場合は本則6万円です。しかし、不動産の売買契約・建築工事の請負契約に関しては、2024年3月31日までに作成される契約書については、税額が軽減される優遇制度があります。1,000万円超5,000万円以下の場合は1万円、5,000万円超1億円以下の場合は3万円に軽減されます。この優遇制度には特に条件や必要な手続きはありません。
<消費税>
売主が事業者ではない個人の場合(収入要件あり)、売却時にかかる消費税は、不動産会社に支払う仲介手数料、住宅ローンの残債がある場合の、金融機関に支払う一括繰り上げ返済手数料及び司法書士に支払う抵当権抹消登記費用にかかる分です。仲介手数料の上限は【(売却価格×3%+6万円)+消費税】です。仲介手数料は売却が成立して発生するもののため、売買契約を結んだときに半額、物件の引き渡し時に半額を支払うのが一般的です。
例えば、売却価格が5,000万円の場合、消費税額は以下のように計算されます。
仲介手数料にかかる消費税額=(5,000万円×3%+6万円)×10%=15万6,000円
参考まで、仲介手数料額を計算してみると次にようになります。
仲介手数料額=(5,000万円×3%+6万円)+15万6,000円=171万6,000円
<登録免許税(抵当権抹消登記)>
家を売却するときにも所有権移転登記を行いますが、その登記費用は買主側が支払います。ただし、売却する家に住宅ローンの残債があった場合は、住宅ローンを完済したうえで、抵当権抹消登記を行う必要があり、その際に登録免許税がかかります。
抵当権抹消登記の際の登録免許税は、不動産1つごとに1,000円です。
登録免許税額=不動産の個数×1,000円
ただし、登記の際に土地と建物は別の不動産としてカウントするため、一戸建てやマンションはそれぞれ不動産の個数としては「2つ」として計算します。例えば、1室のマンションの抵当権抹消登記であっても、登録免許税は1,000円×2=2,000円となります。まれに、土地が分筆されているケースもありますが、その場合は分筆された分もカウントします。マンションの土地が2つに分筆されているケースでは、登録免許税は1,000円×3=3,000円となります。
登記費用としては、登録免許税に司法書士への報酬、雑費も含め2万円前後のようです。
<所得税・住民税>
マイホームを売却したときの譲渡所得には、所得税と住民税がかかることがあります。
計算方法や税率、控除などについては、次項で解説します。
家を売却したときの譲渡所得にかかる所得税・住民税の計算方法
家を売却したときの譲渡所得に対する所得税・住民税は、以下の式で求められます。まずは譲渡所得を算出し、税率をかけて計算します。
<家を売却したときの譲渡所得にかかる所得税・住民税>
課税譲渡所得金額=[(1)譲渡価額-((2)取得費+(3)譲渡費用)-(4)特別控除額]
所得税・住民税=課税譲渡所得金額×(5)税率
式の中の用語を1つずつ見ていきましょう。
(1)譲渡価額
家の売却によって得られる収入金額のことです。厳密には、「固定資産税の精算金」も含みます。固定資産税は1月1日時点での所有者が支払うため、売却日以降の分を案分して売却時に精算します。この精算金も譲渡価額に加えます。
(2)取得費
家を購入した時にかかった費用。土地・建物の購入代金や建築代金、仲介手数料や税金、登記費用、設備費、住宅ローンの金利の一部、リフォームにかかった費用などです。建物については時間の経過で価値が下がると見なされ、決められた計算式に基づいて減価分を差し引く計算をします(減価償却)。
住宅ローンの金利については、「土地建物を購入するために資金を借り入れた日からその土地建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子」(国税庁タックスアンサー)です。勘違いして売却までの金利を加えないように注意しましょう。
なお、取得費が不明な場合は、「譲渡価額の5%」として計上することもできます。取得費が「譲渡価額の5%」より低い場合も「譲渡価額の5%」で計上できます。
【取得費に含まれるもの】
・土地・建物の購入代金や建築代金
・測量費
・整地費
・設備費
・建物の取り壊し費用(取得時)
・購入時に支払った仲介手数料
・税金(登録免許税、印紙税、不動産取得税等)
・登記費用
・住宅ローンの金利(居住開始前まで)
・リフォームにかかった費用など
(3)譲渡費用
家を売却するためにかかった費用。仲介手数料や印紙税、建物を取り壊した場合はその費用も含みます。「修繕費や固定資産税などその資産の維持や管理のためにかかった費用、売った代金の取立てのための費用などは譲渡費用になりません」(国税庁タックスアンサー)となっています。
【譲渡費用に含まれるもの】
・仲介手数料
・印紙税(負担したもの)
・貸家にしていた場合、借家人に家屋を明け渡してもらうための立退料
・建物を取り壊したときの取壊し費用
・既に売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
・借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
(4)特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。【譲渡価額-(取得費+譲渡費用)】が3,000万円以下であれば、この特別控除により、税金がかからずに済みます。
ただし、住まなくなった日から3年経った日の属する年の12月31日までに売却することが適用の条件です。また、売却した年の前年・前々年に同特例や「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」(後述)の適用を受けた場合は対象にはなりません。また、住宅ローン控除と併用もできないため、住宅ローンを借りて買い替える際は、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除の効果を比較して選択する必要があります。
(5)(譲渡所得にかかる)税率
土地や建物を売ったときの譲渡所得に対する税金は、給与所得や事業所得などと切り離して計算をする「分離課税」です(確定申告は他の所得と一緒に行います)。
税率は、長期譲渡所得か短期譲渡所得かによって異なります。具体的には、売却した不動産の所有期間が、「売却した年の1月1日現在で5年を超えるかどうか」により、5年超なら長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得となり、税率はそれぞれ20.315%と39.63%(復興特別所得税含む)と大きく異なります。
【家を売却したときの譲渡所得にかかる税率】
・長期譲渡所得(所有期間が5年超)
20.315%(所得税15%+復興特別所得税*0.315%+住民税5%)
・短期譲渡所得(所有期間が5年以下)
39.63% (所得税30%+復興特別所得税*0.63%+住民税9%)
*2013~2037年まで、東日本大震災の復興財源として所得税額に2.1%が加算される
売却した年の1月1日現在でマイホームの所有期間が10年超の場合は、軽減税率を適用することも可能です。3,000万円の特別控除の特例を適用した後の課税長期譲渡所得金額に対して、次のとおり軽減された税率で税額を計算することになります。
【所有期間10年超のマイホームの譲渡所得にかかる税率】
・課税長期譲渡所得6,000万円までの部分
14.21%(所得税10%+復興特別所得税*0.21%+住民税4%)
・課税長期譲渡所得6,000万円超の部分
20.315%(所得税15%+復興特別所得税*0.315%+住民税5%)
*2013~2037年まで、東日本大震災の復興財源として所得税額に2.1%が加算される
なお、マイホームを売った年の前年から翌年までの3年以内に買換え(交換)をした場合、譲渡価額が1億円以下、売った年の1月1日現在で所有期間10年超、居住期間10年以上など一定要件に該当する場合は、譲渡益の課税を繰り延べる特例もあります。
試算例
例えば、10年超住んだ家を売却した時の譲渡価額が5,800万円で、取得費が3,800万円、譲渡費用が200万円だった場合の所得税・住民税を計算してみましょう。3,000万円の特別控除の特例も利用できる前提とします。
譲渡価額5,800万円-(取得費3,800万円+譲渡費用200万円)=譲渡所得1,800万円
1,800万円<3,000万円の特別控除
つまり、特別控除によって課税譲渡所得は0円となるため、所得税・住民税はかかりません。
もう少し高額の設定にしてみます。10年超住んだ家を売却し、譲渡価額が8,800万円で、取得費が4,700万円、譲渡費用が300万円だった場合はどうでしょう。3,000万円の特別控除の特例も利用できる前提とします。
譲渡価額8,800万円-(取得費4,700万円+譲渡費用300万円)=譲渡所得3,800万円
税額=(3,800万円-特別控除3,000万円)×14.21%
=113万6,800円(所得税80万円、復興特別所得税1万6,800円、住民税32万円)
譲渡損が出た場合、最長3年繰り越しも
所有期間が5年(売った年の1月1日時点)を超えるマイホームを売却して譲渡損が出た場合、他の所得(給与所得や事業所得など)と損益通算することができます。その年に損益通算しきれなかった譲渡損失は、翌年以後3年以内の所得からも繰越控除をすることができます。つまり最長4年間にわたって控除を受けることができます。合計所得金額が3,000万円を超えないことが条件です。
ただし、新たにマイホームを買い換えるか買い換えないかで、下記のように違いがあるので注意しましょう。
<マイホームを買い換える場合>
マイホームを売却した前年から翌年までの3年間に新たなマイホームを取得し、年末時点で新たなマイホームの住宅ローン残高があるなど一定要件に該当する場合、「譲渡損失額」について損益通算及び繰越控除をすることができます。
<マイホーム を買い換えない場合>
マイホームの譲渡契約締結日の前日に住宅ローン残高があるマイホームを売ったなど一定要件に該当する場合、「譲渡損失額(住宅ローン残高から売却価額を引いた残額まで)」について損益通算と繰越控除をすることができます。
試算例
給与収入700万円(給与所得520万円)の人が、マイホームを買い替えて2,100万円の譲渡損失が発生した場合、所得税・住民税はどうなるでしょうか(※給与収入・所得は変わらないとする)。
当年:520万円-2,100万円=▲1,580万円 → 非課税
2年目:520万円-1,580万円=▲1,060万円 → 非課税
3年目:520万円-1,060万円=▲540万円 → 非課税
4年目:520万円-540万円=▲20万円 → 非課税
これを見ていただくとわかるように、4年間は、譲渡損の控除により、非課税となります。繰越損が4年目も残りますが、5年目まで繰り越すことはできません。
おわりに
住宅の売却時にどのような税金がそれくらいかかるのかを知っておくと、税金がかかって見込んだ額が手元に残らない、といったことを避けることができます。また、住み替えを計画する際も、タイミングなどの判断材料にもなります。「知らなかった!」と後悔することがないよう、最低限の知識を付けておきたいものです。