退職後に確定申告が必要かどうかは、状況によって異なります。退職金の受け取りに関係なく、確定申告が必要なケースもあります。確定申告で税金が戻ってくるかもしれないのに何もしないのは、もったいないと思いませんか。今回は、退職金にかかる税金や確定申告の必要性などについて解説します。退職予定の人や転職を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
退職金は原則として確定申告が不要!
退職金は、所定の手続きを経て源泉徴収されてから支払われるため、原則として確定申告は必要ありません。退職前に「退職所得の受給に関する申告書」に必要事項を記入し、勤務先に提出すれば手続き完了です。中小企業退職金共済や特定退職金共済などを受け取る場合は、提出先が共済組合になります。
退職金の源泉徴収は、次の項で解説する通り、通常の給与とは計算方法が異なります。申告書を提出しなかった場合は多額の税金が引かれるため、本来支給されるはずの退職金よりも少ない額しか受け取れません。申告書の提出を忘れないよう注意してください。
退職金の税金はどのくらいかかる?
退職金から引かれる税金の額が正しいかどうかを確認できるように、計算方法を知っておくと便利です。ここでは、退職金にかかる税金がどのように計算されるのかを解説します。
そもそも退職金は何所得?
退職金は、給与所得の一部ではなく、退職所得に分類されます。長年の勤労への報奨の意味もあるため、ほかの所得との分離課税で税負担が軽くなるように配慮されているのが特徴です。なお、退職金のほか、役員退職金、退職手当、企業年金や確定拠出年金などの退職一時金も、退職所得とみなされます。
退職金にかかる税金の計算方法
退職所得を求める計算式は、以下のとおりです。
退職所得の金額 = (退職金 - 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額は勤続年数によって異なるため、次の表を参考に計算してください。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、それが1日だったとしても1年として計算します。また、障害者になったことが理由で退職した場合は、算出した退職所得控除額に100万円が加わります。
退職金の税額は、次の計算式で求められます。
退職金の所得税額 = (課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額)×102.1%
参照元:国税局「退職所得の源泉徴収税額の速算表」
税率と控除額は退職所得金額に応じて異なるため、次の表を確認してください。
退職後に確定申告をしたほうがいい主なケース
退職金は確定申告の必要がないとお話ししましたが、確定申告をしたほうがいいケースもあります。税金の一部が戻ってくる可能性があるため、面倒がらずに確定申告をすることをおすすめします。
申告書を提出していない場合
退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、退職所得控除が適用されません。さらに、所得税および復興特別所得税として、退職金から一律20.42%が源泉徴収されています。本来なら課税対象額ももっと抑えられたはずなのに、余計に税金を支払っている状態です。確定申告で納めすぎた税金を取り戻しましょう。
年の途中で退職した場合
会社員や公務員などの給与所得者は、給与・賞与からの源泉徴収で所得税を納め、年末調整で正しい納税額を確定します。年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、税金を納めすぎているかもしれません。特に、年の前半で退職した場合は、納めすぎている可能性が高いものと考えられます。
通常、確定申告は2月16日~3月15日にかけて行われますが、還付申告は1月1日から5年間、可能です。思い当たる場合は確定申告で還付金を受け取りましょう。
なお、同じ年に転職した場合は新しい職場でまとめて年末調整を行うため、確定申告は不要です。
所得控除を受ける場合
退職する・しないに関係なく、以下の控除を受ける場合は確定申告が必要です。
・医療費控除:年間10万円以上の医療費を支払った
・寄附金控除:ふるさと納税などの寄付を行った
・雑損控除:災害などで損失が発生した
・住宅ローン控除:借入金でマイホームを購入した
また、退職後に支払った健康保険、国民年金、厚生年金保険などの保険料は社会保険料控除の対象です。さらに、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合は生命保険料控除が受けられます。還付金が受けられる可能性があるため、確定申告をおすすめします。
退職金の確定申告に関する特殊なケース
退職金を受け取るはずだった人が亡くなってしまった、同じ年に複数の退職金を受け取ったなど、特殊なケースを紹介するとともに、それぞれの対処方法を解説します。
死亡退職金を受け取った場合
退職金を受け取るはずだった人が亡くなった場合は、死亡退職金として遺族に支払われます。亡くなってから3年以内に支給が確定した死亡退職金は、遺族に対する相続財産とみなされて相続税が課税されます。ただし、必ずしも退職金の全額が課税対象となるわけではありません。すべての相続人が受け取った死亡退職金の合計額が、非課税限度額を下回る場合は非課税となるため、確定申告は不要です。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
なお、法定相続人の数には、相続を放棄した人の数も含まれます。
1年で複数回の退職金を受け取る場合
退職する同じ年にほかの会社からも退職金を受け取っているケースや、「退職金+中小企業退職金共済」など複数の退職所得があるといったケースもあるでしょう。このように、複数回の退職金を受け取る場合は、「退職所得の受給に関する申告書」の記入や提出に注意が必要です。
すでに受け取り済みの退職金がある場合は、申告書にその支払者の名称や退職金・源泉徴収税の額などを記入し、受け取り済みの源泉徴収票を添付して提出する必要があります。複数の支払者に同時に申告書を提出する場合は、申告書に順番を記載して提出します。
まとめ
退職金は源泉徴収後に支払われるため、原則として確定申告は不要です。ただし、退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなかった場合は税金を納めすぎているため、確定申告で還付を受けることをおすすめします。年末調整を受けていない場合も同様です。各種所得控除によって還付金が発生する可能性が高いため、確定申告をしたほうがよいでしょう。
(最終更新日:2022.04.04)