水道管の老朽化問題、暮らしのインフラに何が起きている?

2021年10月3日、和歌山市で水道用の橋が崩落し、一時、6万戸で断水が発生しました。その後、10月7日の夜に首都圏を襲った強い地震は水道管に大きな影響を及ぼし、東京、埼玉、千葉の26ヶ所で漏水が起きました。断水は起きませんでしたが、道路のマンホールから水が勢いよく噴き出す映像をニュースで見た人も多かったと思います。

いま、全国的な課題となっている水道施設の老朽化について解説します。

和歌山市の断水では、「老朽化そのものが原因とは考えにくい」と、鳥のフンなどで腐食が進んだ可能性を市が説明しました。

一方、首都圏の漏水は、水道管に付属する空気弁などの不具合が原因の大半を占めたと発表されています。

そんな中、大阪府は首都圏の地震による漏水に関連し、「水道管は全国的に老朽化が進んでいる。更新・整備を早く進め、災害に強いライフラインを目指さないといけない」と府庁で記者団に答えています。

水道管の老朽化は社会的課題に

和歌山市の断水と首都圏の漏水がどの程度、水道管の老朽化に関係あるのか、正式な発表はありません。しかしながら、近年、水道管の老朽化を指摘する声は増えています。

主に国や地方自治体に対し、上下水道建設に関するコンサルティングを行う株式会社日水コンの執行役員でコンサルティング本部水道事業部長の宮本勝利さんに現状を伺いました。

「水道は高度経済成長期を中心に整備され、日本の上水道の普及率は飛躍的に上がりました。それから50年以上たち、老朽化が顕著になってきています。水道施設の法定耐用年数は、水道管が40年、鉄筋コンクリート造の構造物は50~60年です。これはあくまでも減価償却の話ですが、水道施設を構成するものが古くなってきていることは確かです」(宮本さん)

水道管の劣化は土壌や地質で全然ちがう

宮本さんも言うように、法定耐用年数というのは会計処理で減価償却を算出するために国が一律に決めた数字であり、これがそのまま水道管の寿命を意味するものではありません。法定耐用年数を超えていたからといって、直ちに水道水が汚染されるわけではありません。

「管路の中の水は、人が飲める水なので、送配水する管を劣化させるような物質は多くは含まれていません。水道水に触れているところはそれほど劣化のスピードは速くないです。しっかり分析すれば、水道施設は長く使える場合もあります。しかし、管路の外側は、確かに腐食が進みやすい土壌もあります。たとえば、海に近くて海水が地下水に流入しやすいところや、鉄を腐食させる水素イオン濃度(pH)が低い海成粘土という土壌とか。古い時代は海だった所などは腐食しやすい。土壌によって、水道管の劣化のスピードは全然違います。老朽化が激しいものとそうでないものを見極めて長く使えるようにすることが大切です」(宮本さん)

補修・更新スピードが追い付かない

人材不足の水道事業

水道事業は、税金ではなく水道料金を主な財源として運営されている独立採算制です。人口が減少して水道を利用する人が減れば、料金収入も減少。事業を管理・維持するための財源が不足します。

「特に地方の小規模な水道事業では、水道施設を管理する人材が不足しています。水道管を新しく替えようにも財源が十分にありません。設計する人や工事を監督・管理する人も十分にいません。これらが水道事業の課題です。老朽施設は毎年増えていきますが、今後さらに老朽化のスピードが上がっていきますので、水道管の取り換えスピードを現状よりも上げないと追い付きません」(宮本さん)

地方に行くと、郊外に家屋が点在している状況が目に付きます。家屋が密集していれば、浄水場から送水管をその地域に敷設すれば済みますが、ぽつぽつと点在している状態だと配管するにも予算と時間が余分にかかります。独立採算なので、水道料金も高くなる可能性があるわけです。

「水道管の取り換えのための工事がしにくい場所もあります。ニュータウンのように住宅開発の途上であれば、どんどん水道管の敷設工事ができますが、たくさんの人が住んでしまった後は、工事をする際に、水道を止めたり断水が必要だったりします」(宮本さん)

自治体が公表する水道ビジョンの確認を

厚生労働省が2021年2月に発表した「水道事業における耐震化の状況(令和元年度)」によれば、水道施設の耐震化状況は、基幹的な水道管のうち耐震性のある管路の割合が40.9%、浄水施設の耐震化率が32.6%、配水池の耐震化率が58.6%となっています。大規模災害時の断水が長期化するリスクも指摘しています。その上で、基幹的管路の耐震適合率を22年度末までに50%以上に引き上げる目標を掲げています。

毎月支払う水道料金が気になる人は多いでしょう。しかし、自分が住む地域の水道施設について考えることは少ないかもしれません。厚労省では全国の自治体に、地域の水道ビジョンを策定して公表するように働き掛けています。

たとえば、東京都は「東京水道経営プラン2021」を2021年3月に出しています。安定給水のための水源確保のことや、災害対策として送水管をネットワーク化する計画など、東京の水道に関するあらゆる情報が掲載されています。

防災の観点から一度、自治体のウェブサイトを見てみることを勧めます。

〈取材協力〉
株式会社日水コン
http://www.nissuicon.co.jp/

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