新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長引き、在宅勤務が恒常化していることもある今、住まいにもう一部屋を求める人が増えているようです。そうであれば3LDKが中心の新築マンション市場で4LDKタイプが増えてもよさそうなものですが、必ずしもそうではありません。なぜ増えないのでしょうか。
コロナ禍の住まいに求めるのは「広さ」
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、在宅勤務する人が増えています。外出もしにくくなって家族全員の在宅時間が長期化、息苦しい生活が続き、住まいへの不満が高まっています。狭い住まいだと、仕事に集中できず、子どもたちが家の中で騒いで隣近所への迷惑が気になり、一人でゆったりと過ごすことができないなどのフラストレーションがたまりがちです。その結果、家族のコミュニケーションがうまく取れなくなってギクシャクしかねません。なかには家庭内暴力、虐待などに発展する例もあるといわれています。
住まいに由来する問題が深刻化する前に、改善を図りたいと考える人が増えているようです。これがコロナ禍でもマンションや戸建てが売れている要因の一つになっているという分析もあるほどです。
実際、コロナ拡大によって、住宅に求める条件にどんな変化が起きているのか、リクルートが2020年12月に行った調査によると、図表1のような結果でした。上位10項目を見ても、「部屋数がほしくなった」「広いリビングがほしくなった」「収納量を増やしたくなった」「仕事専用スペースがほしくなった」などの希望が挙がっており、住まいに広さを求める傾向が強まっているのは明らかです。
一方で4LDKは減少傾向
こうした変化を考慮すると、新築マンションの間取りに4LDKが増えてもおかしくありません。ところが、現実にはそうはなっていないようです。
たとえば、新築マンション市場では相変わらず3LDKが中心で、4LDKは少数派にすぎません。図表2は首都圏で毎年5月に売り出される新築マンション戸数と、4LDKの割合を示しています。2020年はコロナ禍の最初の緊急事態宣言という特殊条件下だったので、特に落ち込んでいますが、そうでなくても、ここのところは10%以下で推移し、トレンドとしては右肩下がりの減少傾向にあります。2021年5月も4LDKの割合は3.5%にとどまっています。
グラフよりも前の推移を見ると、2000年代の初頭には地価の下落によって専有面積の広いマンションが多数売り出され、4LDKの割合が15%前後で推移したこともありました。しかしそれも一時期なブームに終わり、その後は図表2に見るように、10%を超えたのは2014年の1年だけでその後は10%未満で推移しています。
現実には、1部屋増やすよりもクローゼットを一時的にワークスペースに充てる提案などが増えています。
なぜ4LDKが増えないのか?
なぜ4LDKが増えないのでしょうか。大きくは次の3つの理由が挙げられます。
1. 専有面積を広くすると価格が高くなる
2. 世帯人員の減少でニーズは増えず、売りにくい
3. 売却時にもニーズが少なく不利になる
ここ最近マンション価格は上がり続け、特に首都圏では平均的な会社員では手を出しにくい価格になっています。
不動産経済研究所によると、2021年上半期の新築マンション平均価格は6,414万円でした。仮に6,000万円を金利1.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしで利用すると、毎月返済額は約17万円です。年収に占める返済額の割合である返済負担率(返済比率)を、無理のない範囲とされる25%に抑えるとなると、逆算して810万円以上の年収が必要です。こうなると買える人はごく限られてしまいます。故にいま以上に広くして、価格をさらに引き上げるわけにはいかないというわけです。
参考情報:不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向」
平均的な家族の人数は50年前の3.45人から2.27人に
わが国では1世帯当たりの人員がジワジワと減少しています。それなら長い目で見てそんなに広い住まいは必要ないという見方も強いようです。
特に最近の首都圏の都心やその周辺の新築マンションでは、契約者の家族数の平均が3人を切るのはごく普通で、2人そこそこの物件も増えています。世帯構造から見ても4LDKへのニーズはさほど強くないと筆者は感じています。
図表3は、2020年の「国勢調査」から日本の世帯数と1世帯当たり人員の推移を示しています。1970年には3.45人だった世帯人員が、2020年には2.27人まで減っています。子ども1人の家庭が中心で、子どもがいない世帯が多くなっているわけです。そうなると3LDKでも十分にワークスペースなどを確保できるのではないでしょうか。
これは、全国平均ですから、首都圏、なかでも東京都では1世帯当たりの人員は全国平均よりももっと減っています。
東京都では初めて2人を割り込む
東京都の数字を見ると、2020年の平均は1.95人で2015年の2.02人から0.7人減少し、初めて2人を切りました。2人以下になるのは全国でも初めてです。
この少人数世帯化は今後も当分変わりそうもありません。国立社会保障・人口問題研究所の推計(図表4)によると、東京都では2025年に1.92人、2030年には1.89人まで減少するだろうとしています。
これでは4LDKは必要ないでしょうし、むしろ広過ぎる住まいを持て余すことになります。現在はコロナ禍で自宅で仕事をする人が多く、外出自粛ムードの中で家族全員の在宅時間が長くなっていますが、これがいつまでも続くわけではありません。ワクチンが浸透し、効果的な治療薬が開発されればコロナ禍は収束するはずだからです。そうなれば今度は広過ぎる住まいを持て余すだけではなく、売却するときに広過ぎて不利になりかねません。
4LDKへのニーズは減少して売りにくくなる可能性も
1世帯当たり人員がますます減少するということは、4LDKへのニーズが強まることは考えにくく、むしろニーズの後退が考えられます。4LDKのマンションを買っても、10年後、20年後に売却するときには、なかなか買い手が見つからない可能性もあります。
そう考えると、分譲会社としては4LDKの間取りを作りにくくなり、消費者としても買いにくくなります。
このように考えてくると4LDKマンションは増えないどころか、減少していく可能性が高いと考えられます。コロナ禍の一時的なニーズに惑わされずに、自分たちの将来にとってどの間取りが本当にふさわしいのかを考えて選択したいところです。