路線価の6年ぶり下落はマンション価格に影響? 住宅の専門家が解説

2021年7月1日、国税庁が相続税や贈与税の算定基準となる2021年分の路線価を発表しました。全国約32万地点の標準宅地の路線価は平均で2020年に比べて0.5%の下落となりました。路線価の下落は6年ぶりのことですが、マンションなどの住宅価格に影響はでるのでしょうか。

路線価は公示地価の8割を基準に算定される

路線価というのは、相続税や贈与税の算定基準となる地価のことで、毎年7月に国税庁から発表されます。1月1日現在の調査として3月下旬に公表される公示地価を基に、その80%程度を目安に算定されます。
名称に路線価とあるように、全国各地の主要な路線(道路)別に1平方メートル当たりの価格が千円単位で示されます。最新の路線価は国税庁のホームページで確認できます。

図表1にある例であれば、路線価が30万円ですから、それに「奥行価格補正率」をかけて、さらに面積をかけると評価額になります。「奥行補正率」というのは、土地の形状によって使い勝手が異なりますから、それを価格に反映させるもので、普通住宅地区であれば、奥行き10メートル以上24メートル未満は補正率1.00で、それより奥行きが浅くても深くても補正率は1.00以下になります。たとえば、奥行き4メートル未満は0.90となっています。奥行きが浅いと使い勝手が悪くなる分、評価額も下がるということです。

このケースであれば、奥行が18メートルなので「奥行補正率」は1.00ですから、路線価30万円×180(平方メートル)で評価額は5,400万円という計算になります。

図表1:路線価を基にした評価額の計算例 出典:国税庁ホームページ

相続税は2015年に基礎控除が引き下げられている

贈与し、相続が発生したりした場合などには、この評価額に基づいて贈与税や相続税が算出されます。

ただし、相続税には基礎控除があり、一定額までは非課税になっています。その基礎控除、2014年までは相続1件当たり5,000万円+相続人1人当たり1,000万円だったのが、2015年から1件当たり3,000万円、相続人1人当たり600万円に引き下げられています。

図表1のケースで、土地のほかに遺産はゼロと仮定した場合、相続税評価額5,400万円を子ども2人で相続するとすれば、基礎控除は、3,000万円+600万円×2(人)の4,200万円で、相続税評価額5,400万円から4,200万円を引いた1,200万円が相続税の課税対象になります。

2014年までの相続であれば、2人で相続するときの基礎控除は5,000万円+1,000万円×2(人)で7,000万円ですから、相続税評価額が5,400万円なら、基礎控除7,000万円の範囲内なので相続税はかからなかったわけです。このように基礎控除の引き下げで、課税対象になる人が増えているので注意しておく必要があります。

路線価のダウンで若干なりとも相続税は軽減

その相続税評価額の基になる路線価が下がったのですから、相続税負担が軽くなると期待できます。どれくらい軽くなるのか、図表1のケースで試算してみましょう。

相続税は相続人1人当たりの法定相続分に応じて税額を計算します。相続人2人で課税対象額が1,200万円なら、1人当たりの法定相続分は600万円なので税率は図表2にあるように10%です。税額は1人当たり60万円で、2人分で120万円になります。

いま仮にそれが、路線価が2%下がったとすれば、相続税評価額は5,292万円になり、課税対象額は、5,292万円-3,000万円-600万円×2で1,092万円に減少します。相続税は1人当たり54.6万円で、2人分の相続税は109.2万円ですから、120万円の相続税が10万円ほどですが、減額される計算です。

路線価の下落で相続税が軽くなるといっても、そんなに大きく軽減されるわけではありません。過剰な期待は禁物です。

出典:国税庁ホームページ

路線価が大きく下がったエリアは都心が中心に

ただ、今回の路線価の下落、実は都心近くでも最寄り駅から一定の距離がある住宅地や郊外、地方ではさほど下がっていません。下落率が大きかったのは、都心の駅前や繁華街など、コロナ禍の影響が大きかったエリアが中心になっています。在宅勤務の増加などでオフィス需要にブレーキがかかり、繁華街では商業施設や飲食施設などの閉店などが続出、それが地価を引き下げ、路線価のダウンにつながっているのです。

他方、最寄り駅から一定の距離のあるエリアや郊外、地方などはさほど下がっていません。むしろ上がっているエリアもあります。

東京国税局の各税務署管内の最高路線価地点の対前年変動率を見ると、最高路線価が大きく下がっているのは都心のオフィス街や繁華街を抱える税務署で、図表3の(1)にあるように、台東区浅草1丁目の雷門通りは11.9%の下落、千代田区外神田4丁目の中央通りは10.5%、台東区上野4丁目の中央通りは8.0%の下落となっています。新宿や銀座なども大きく下がっています。

出典:東京国税局ホームページ

マンションや戸建ての適地は上がっている

それに対して、管内の最高路線価が上がっているのは、都心ではなく郊外が多くなっています。1位と5位には横浜市の中心街が入っていますが、2位から4位までは千葉県の千葉駅前、本八幡駅前、蘇我駅前になっています。ここにはありませんが、6位には本厚木駅北口広場通り、9位に習志野市のぶらり東通りが入るなど、郊外の上昇が目立っているのです。

つまり、オフィスや商業施設の適地などの路線価は下落傾向にあるものの、マンションや戸建てなどの住宅地適地についてはさほど下がっているわけではありません。むしろ、上がっている所も多いのです。ですから、路線価が下がったからといって、住宅価格も下がる可能性があるから、それまで待ったほうが得策と考えるのはどうでしょうか。

郊外の駅前などはまさにマンションの適地ですが、路線価を見ると上がっている地点が多いので価格の下落は期待しにくく、それどころかジワジワと上がっていく可能性が高いのではないでしょうか。

路線価下落=住宅価格下落ではない

とはいえ、新型コロナウイルス感染症拡大がなかなか収まらず、地価についても先行きが見通しにくい環境が続いています。

国税庁では2020年にはインバウンド減少の影響を大きく受けた地点があったとして、大阪市中心部などで年度途中で路線価を引き下げたケースがありました。今後も深刻な影響が長引けば、再び減額補正が実施される可能性もあります。
特に、在宅勤務の増加で需要が減少している都心のオフィス街、インバウンド減少などの影響が大きい繁華街は、さらなる低下余地があるかもしれません。

他方、郊外や地方の住宅地については、マンションや戸建て、新築・中古ともに市場は好調に推移しており、路線価をはじめとする地価が大幅に下がることは考えにくく、住宅価格の高止まり傾向が続き、もう一段の上昇があるかもしれません。

「路線価下落」とはいっても、それが住宅価格の下落につながるわけではないので注意しておきましょう。

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