コロナ下で住宅の売買が敬遠されると思うかもしれませんが、住宅購入意欲は落ちていません。テレワークが普及したことで、子育てによい、自然が多いなどの理由で郊外に住み替えたいというニーズが生じています。また逆に、より通勤時間を短くしたいという都心への住み替えニーズも生じています。
その結果、コロナ下といえども住宅需要は衰えず、中古住宅が注目されるという状況になっています。そこで、今回は「中古住宅の保証」について見ていくことにしましょう。
中古住宅の人気・不人気の理由は?
中古住宅が注目されているのは、近年、新築住宅、特に新築マンションの価格高騰や供給量の減少などもあって、中古住宅に目を向ける人が増えているからです。東日本不動産流通機構の「季報Market Watch サマリーレポート 2021年1~3月期」を見ると、最初の緊急事態宣言の影響で、2020年4~6月に一時的に落ち込んでいるものの、その後は中古マンション・戸建てともに成約件数が伸びています。
中古住宅が注目される最大の理由は、新築住宅に比べて「価格が手ごろなこと」です。価格が手ごろということは、「希望するエリア」や「希望する広さ・間取り」の住まいが予算内で買いやすいということです。また、特にマンションは、まとまった戸数が一時に供給される新築に対して、1戸単位で売りに出される中古のほうが「希望するエリア」で探すと物件数が多いケースがほとんどです。
こうした買いやすさの反面、中古住宅を買わなかった理由として、多くの調査で「新築のほうが気持ちがよいから」が挙がります。日本では新築志向が強いということもありますが、ほかにも、中古住宅は品質や状態がよくわからないということがあるのでしょう。
こうした中古住宅の品質への不安を払拭しようと、政府はさまざまな対策を講じています。購入前に建物状況調査(ホームインスペクション)の実施を促したり、不具合を保証する保険制度を導入したりといったことです。どういうものか、詳しく説明していきましょう。
新築住宅にある長期保証が中古住宅にはない!
そもそも新築住宅については、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以下、「品確法」)によって、(1)住宅の構造耐力上主要な部分と(2)雨水の浸入を防止する部分の重大な不具合については、引き渡し後10年間保証するように住宅の売り主などに義務付けています。
また、「宅地建物取引業法」(以下、「宅建業法」)によって、売り主が宅地建物取引業者(以下、宅建業者)の場合は、引き渡しから2年間は大きな不具合などを保証しなければならないことになっています。そのため、売り主が宅建業者の新築住宅では、品確法で定めた部分以外の大きな不具合も2年間保証されますし、いわゆるリノベーション住宅(宅建業者が中古住宅を買い取ってリノベーションしてから再販するもの)も、宅建業者が売り主なので2年間保証する義務があります。
しかし、一般的な中古住宅は売り主が個人であるため、過大な責任を負わせることが難しく、長くても数カ月の保証という契約がほとんどです。このため、中古住宅を購入する際の保証が課題になっていました。
建物状況調査(インスペクション)は普及している?
そのための対策として、中古住宅を売ったり買ったりする際に、建物に重大な不具合がないかどうか、その時点の状態を確認する「建物状況調査(インスペクション)」が民間で広がるようになりました。国土交通省では、統一した調査方法を定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を作成したり、調査技術者の登録制度を設けたりしています。
また、宅建業法を改正して、不動産を仲介する宅建業者が、住宅を買ったり売ったりする人にインスペクションの説明をして、調査事業者のあっせんができるかどうかを伝えることなどを義務付けました。
では、インスペクションは、中古住宅の売買時にどの程度行われているのでしょう?
大手の不動産仲介会社の団体である、一般社団法人不動産流通経営協会(以下、FRK)の調査結果で見ましょう。なお、FRKの調査は、首都圏で2019年度(2019年4月~2020年3月)に住宅を購入した人を対象に、2020年7~8月にWEBアンケートを実施したもので、このうち、71パーセントが中古住宅(戸建て・マンション)を購入しています。
この調査では、中古住宅を購入した人が民間のインスペクションを実施したのは、18.0パーセントでした。その内訳は、売り主が売りやすくなるように行ったインスペクションが13.3パーセント(中古戸建てに限れば22.5パーセント)、買い主の意向で売り主に依頼して行ったインスペクション(費用負担が売り主・買い主の計)が4.7パーセントとなっています。
ここでいう、民間のインスペクションは、売り主あるいは買い主が自ら、建物の状態を把握するために行った検査になります。購入を決めるために建物の状態を把握する調査ですが、その段階の住宅の所有者は売り主ですので、買い主が実施したいという場合には、売り主の同意や協力(調査事業者が住宅内に入るなどのため)が必要となります。そのため買い主の意向で行われる事例が少ない(4.7パーセント)と考えられます。
これに対して、不動産会社が建物保証などのために実施するインスペクションや、既存住宅売買かし保険に入るために実施するインスペクションを含めると、いずれかを実施した比率は47.7パーセントと半数近くにまで増加します。
次は、既存住宅売買かし保険や保証について見ていきましょう。
中古住宅のかしを保証する任意の保険制度
かし(瑕疵)とは、重大な不具合のことですが、2020年4月に施行された民法の改正により「かし」という考え方から、売買契約上に求められる品質や数量などに適合しない「契約不適合」という考え方に変わっています。ただ、今もかし担保やかし保険という名称が使われています。
さて、新築住宅の品確法による10年間のかし保証に対して、中古住宅でもかし保証の制度を設けようということで、「既存住宅売買かし保険」が誕生しました。建物検査と保証がセットになった「任意」の保険制度なので、新築のような強制力はなく、検査料や保険料などを依頼者が負担する必要があります。
その仕組みは、新築の品格法の場合と同じ部分の(1)住宅の構造耐力上主要な部分と(2)雨水の浸入を防止する部分の重大な不具合に対して、「5年間(1年または2年のものもある)」の保険が付けられるのが基本です。保険に加入するのは検査機関で、検査によって保証ができる住宅(リフォームをすることで保証ができる水準になる場合も対象)であることが必要で、後で重大な不具合が見つかった場合は、調査費用や補修費用などについて保険金が買い主に支払われる仕組みです。支払い上限額は1,000万円または500万円というのが一般的で、検査機関によってはシロアリ被害なども保証するオプションを用意している場合があります。
既存住宅売買かし保険(個人間売買タイプ)の仕組み
売り主が依頼することが原則ですが、買い主が費用を負担して依頼したり、不動産仲介会社が費用を負担して依頼したりすることも可能です。
FRKの調査結果を見ると、既存住宅売買かし保険の利用状況は、10.3パーセントとなっています。
広がる、仲介する不動産会社独自の保証
ほかにも、仲介する不動産会社が独自に建物や住宅設備について保証をする場合があります。FRKの調査結果を見ると、不動産会社による住宅保証の利用状況は、建物の保証で見ると37.4パーセントで、中古戸建てに限ると51.4パーセントと半数以上に達します。また、住宅設備の保証まで含めると、利用状況は中古住宅全体で53.0パーセント(中古戸建てでは59.0パーセント)になります。
では、不動産会社の住宅保証とはどういったものでしょう。まず、全ての不動産会社が行っているものではなく、仲介取扱件数の多い大手や中堅などの一部の会社で、主に売り主向けのサービスとして行っているものです。
保証内容も各社さまざまです。自社で社内の担当者が建物調査を行い、引き渡し後2年までなどの期間で建物の重大な不具合を保証するものもあれば、仲介会社が既存住宅売買かし保険に加入して保証を付ける場合もあります。また、建物の保証はせずに、住宅設備の不具合を1年間保証するといった場合もあります。つまり、各社によって保証の範囲や内容が異なります。また、売り主がその仲介会社だけに仲介を依頼する(専属選任媒介契約など)場合に限定するサービスということが多いので、同じ仲介会社でも物件によって保証がない場合もあります。
不動産会社による建物の保証のほうが、公的なかし保険よりも普及しているという結果ですが、調査したのが大手の仲介会社による団体のFRKなので、中古市場全体で見ると、実際にはここまで多くないかもしれません。
さて、アメリカ合衆国では住宅を購入する際には、買い主がインスペクションを行うのが一般的です。一方、日本の現状を見ると、まだそこまでは普及していません。それでも、中古住宅を買う際に半数近くがなんらかの検査をしており、かしに対する保険や不動産会社による保証などが広がっていることが分かります。
自身や家族のためのマイホームですから、安全で安心な住宅を手に入れたいものです。中古住宅を買う場合には、今回説明したようなインスペクションや保証などについて、ぜひ関心を持ってほしいと思います。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)