会社員や公務員などの給与所得者は、源泉徴収という形で毎月の給与から所得税を納めており、その額は一定額ではないケースも多く見られます。
なかには、所得額が変わらないにもかかわらず、所得税の額が変わる場合もあります。そこで今回は、所得税の仕組みや税額が変わる理由について詳しく解説します。
所得税とは
そもそも所得税とはどのような税金なのかをご存じでしょうか。まずは所得税の概要について、仕組みや税額の根拠などを交えながら解説します。
所得税は所得にかかる税金
所得税は個人の所得にかかる税金で、課税所得金額に応じた税率を乗じて納税額を算出します。課税所得金額とは、1年間の収入から必要経費や各種控除を差し引いたものです。
控除には配偶者控除、扶養控除、医療費控除などさまざまな種類があり、個人の状況によって控除額が異なります。そのため、同じ会社・同じ条件で働いていても、所得税額は同じにはなりません。
なお、2013~2037年は、所得税額の2.1%に相当する復興特別所得税の納付が義務付けられています。
所得税の控除についての詳細はこちらの記事を参考にしてください。
関連記事:所得税の控除(所得控除)って何? 15種類の内容と控除額の計算方法
所得税は毎月源泉徴収で納付している
所得税は1年間の所得を対象とした税金ですが、1年分の一括納付は納税者にとって負担が大きいでしょう。そのため、毎月給与から差し引く源泉徴収という方法が取られています。
源泉徴収とは、給与や報酬などの支払者が納税者に代わって国に所得税を納付する制度です。支払われる給与や報酬からは、所定の方法によって計算された所得税が差し引かれています。
会社から支給される給与をはじめ、原稿料や講演料、弁護士や公認会計士などに対する報酬など、個人に支払われる報酬も源泉徴収の対象です。また、利子や配当金、年金なども、あらかじめ所得税が差し引かれた額が支払われています。
年末調整・確定申告で所得税額が決定する
所得税は給与や報酬から源泉徴収として差し引かれていると説明しましたが、その金額は見込みであり、正しいものではありません。
1年の間には結婚や出産で扶養親族が増える、ケガや病気で入院し医療費がかかるなど、控除に関係する出来事も起こり得ます。つまり、年末にならないと正確な所得税額はわかりません。
そこで必要なのが年末調整や確定申告です。年末調整や確定申告でその年の所得税額を計算し直し、納めすぎていれば還付、足りなければ追徴課税という流れになります。
基本的には会社員や公務員などは勤め先で年末調整を行えば手続きが終わりますが、状況によっては別途確定申告が必要です。
会社員でも確定申告しなければならない条件については、こちらの記事を参考にしてください。
関連記事:会社員のための確定申告|申告が必要なケースとは? ペナルティもある?
所得税額が毎月変わる理由とは
所得税額は毎月同じ額とは限りません。前月とぴったり同額の給与が支払われていても、所得税額は増減しているということも起こります。なぜそのようなことが起こるのか、所得税額はなぜ毎月変わるのか、いくつかの理由について説明します。
4~6月の給与が増え社会保険料も増額した
源泉徴収される所得税には、その月の支給総額から社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険)の合計を差し引き、扶養人数を考慮して源泉徴収税額表に定められた金額が適用されます。
この社会保険料は原則として毎年4~6月の3ヶ月間の給与をもとに決められます。残業代や休日出勤手当などを含めた3ヶ月間の平均給与が標準報酬月額とされ、それをもとに社会保険料(雇用保険を除く)を算出することになっています。
したがって、4~6月に残業や休日出勤が多いと社会保険料が増加し、所得税に影響がでます。
昇進や残業・休日出勤などで課税所得金額が変わった
残業や休日出勤などで給与が増えれば、当然ながら所得税も増えます。また、昇進や昇格によって基本給がアップした場合も同様です。
なお、日本は超過累進課税制であるため、給与などの所得が高くなるにつれて所得税の税率が上がります。
給与から差し引かれる控除額の変動も、所得税に影響する要因の一つでしょう。
たとえば、結婚や出産で扶養家族が増えた場合は控除額が大きくなるため、その分課税所得金額が少なくなり、所得税額も減ります。反対に、子どもが成長して扶養から外れれば控除額は減り、所得税額が増えると考えられます。
まれに給与明細の内容が間違っている可能性もある
ほとんどの企業は勤怠管理や給与計算をシステム化しているため、給与明細に間違いが発生するのはかなりまれなことかもしれません。
しかしながら、人が関わる以上入力ミスなどが発生することは、あり得ます。給与計算を外注している場合には、給与担当者からの連絡漏れなどもあるかもしれません。給与明細は毎月きちんとチェックして、気になる点があれば給与担当者に確認するようにしてください。
税制改正があった
控除額や各種税率を含め、税制は社会情勢などを考慮して毎年変更されます。たとえば、東日本大震災後は2037年まで所得税に復興特別所得税が加算されることになりました。
2020年1月からは、基礎控除の引き上げ・給与所得控除の引き下げといった変更が実施されています。所得税額が突然変わったというときは、税制改正を反映しているのかもしれません。
なお、2021年度の税制改正については、こちらの記事をご参照ください。
関連記事:【2021年度税制改正】住宅ローン減税や贈与など、私たちの生活への影響は? FPが改正内容を解説
所得税が変わったときにチェックする項目
所得税が急に増減した場合は給与明細の各項目を確認してみてください。所得税に影響するのは社会保険料と各種手当です。ここからは、チェックすべき項目とその理由を説明します。
社会保険料
雇用保険を除く三つの保険料は、4~6月給与の平均額をもとに見直され、その年の9月から翌年8月まで新しい保険料が適用されます。
9月分の給与明細で所得税が増えているとしたら、社会保険料が減っているのかもしれません。社会保険料の控除額が減り、課税対象額が増えるケースがあるからです。
なお、大幅に基本給が変わったときや政策の変更など、年度の途中に社会保険料が見直されることもあります。
残業手当や休日出勤手当など
残業手当や休日出勤手当、職務手当、住宅手当などは原則として給与所得とみなされ、課税対象になります。基本給が変わらなくても何らかの手当が支給あるいは増額されていれば課税対象の所得が増えるため、所得税も増えたと考えられます。
ちなみに、一定金額以下の通勤手当や宿直(日直)手当、通常必要と認められる転勤・出張旅費は非課税のため、所得税への影響はありません。
まとめ
所得税の額は所得金額と控除額によって決まるため、所得と控除に関わる状況が変われば所得税額も毎月変わります。
所得税の増減の理由は、給与明細をチェックすればある程度わかるため、給与明細は毎月必ずチェックしておきましょう。
前月と比べてどの項目が増減しているのか、何が原因で所得税に変更があったのかなどを確認し、正しく給与が振り込まれているか確認してください。不明点がある場合は、給与担当者に確かめるようにしましょう。