育休中は収入が減ることが多いため、出費をできるだけ減らして節約をすることが大切です。育休中に収入が減った場合、年収によっては配偶者の扶養に入れる可能性があります。扶養に入ると配偶者の控除を増やして税金を減らしたり、社会保険料の出費を抑えられたりするので、扶養に入れるかどうかをしっかりと確認することが大切です。この記事では、育休中の扶養について解説しますので参考にしてください。
育休中に夫の扶養に入ることはできる?
「扶養に入る」というと、扶養に入るか、入らないかの二つのパターンしかないと思われがちです。しかし、扶養には「所得税上の扶養」と「社会保険上の扶養」の二つの意味があり、年収によって両方の扶養に入れる場合もありますし、片方の扶養にしか入れない場合もあります。それでは、育休中に夫の扶養に入れるかどうかについて、詳しく見ていきましょう。
育休中は所得税の控除を受けられる可能性がある
大部分の会社では育休中に給与が支給されないため、所得が大幅に減るケースが多くなっています。育休中の所得が減ると、夫側で今まで使えなかった「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を申請できる可能性が高くなります。これらの控除を受けられると、夫の税金を大幅に減らすことができます。
「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の条件には、「育休中の本人の所得」と「夫の所得」の両方が関係しています。たとえば、育休中の収入が少なくても、夫の収入が基準以上であれば控除を受けられない場合があるので注意が必要です。
育休中は育児休業給付金を受け取ることができますが、これらは所得とみなされません。給付金や一時金などがまとまった金額になっても年間の所得は増えないため「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の条件を満たせる可能性があります。
控除を受けられると大幅な節税につながりますので、産休や育休中は年間所得額や控除の条件をしっかりと確認するようにしましょう。
育休中でも社会保険の扶養に入る必要はない
育休中で収入が減って年間の所得が少ない場合は、夫の「社会保険上の扶養」に入ることができます。社会保険上の扶養に入ると、年金では「第3号被保険者」、健康保険では「被扶養者」となり、夫の保険料で自分の年金や健康保険をカバーすることができるようになります。
この社会保険上の扶養の条件は「年収が130万円未満であること」と「自分の年収が夫の年収の2分の1未満であること」です。この両方の条件を満たすと、社会保険上の扶養に入ることが可能です。
ただし、産休や育休の前に自分で社会保険に加入していた場合、事前に申請をすると産休・育休中の社会保険料は免除となります。保険料を払い込まなくても自分の健康保険や厚生年金に加入し続けることができるので、改めて夫の扶養に入る必要はありません。産休中や育休中の人にとって非常にメリットが大きい制度なので、休む前に必ず申請を行うようにしましょう。
収入がいくらまでなら扶養に入れるのか?
育休中の所得がいくらまでなら配偶者控除や配偶者特別控除を申請できるのでしょうか。これらの控除を受けられると大きな節税になりますので、条件をしっかりと確認しておくことが大切です。それでは、条件を満たせる所得額について詳しく見ていきましょう。
合計所得が48万円以下なら配偶者控除の対象
配偶者控除は、納税者本人(夫)と生計を同一とする配偶者の年間合計所得が48万円以下の場合、納税者本人(夫)が一定の所得控除を受けられる制度です。パートや会社員などの給与所得者は、給与所得控除55万円があるため年収103万円以下になります。
ただし、納税者本人(夫)の所得が900万円(年収1,095万円)を超えると段階的に控除額が減り、1,000万円(年収1,195万円)を超える場合は配偶者控除を受けることができません。
また、育休中の配偶者が青色申告者の事業専従者として給与を受け取っている場合や白色申告者の専業従事者の場合も、配偶者控除を受けることができないので注意が必要です。
たとえば、控除を受ける納税者本人(夫)の合計所得金額が900万円だった場合、国税庁によると所得税率は33%です。この場合は配偶者控除で38万円を所得から控除することができるので、38万円×33%=12万5,400円の節税効果があります。
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」
合計所得が133万円以下なら配偶者特別控除が受けられる
育休中の配偶者の合計所得金額が年間48万円(パートや会社員など給与所得者は給与所得控除55万円を受けられるため年収103万円)を超えてしまった場合は、納税者本人(夫)は配偶者控除を受けることができません。
しかし、年間48万円を超えた場合でも以下の表のように配偶者の所得が133万円以下(給与所得控除を差し引く前の年収では約201万円)であれば、段階的に配偶者特別控除を受けることができます。
たとえば、年収が201万円の場合を考えてみましょう。
配偶者特別控除が適用されるかどうかは「所得」によって判定されます。所得とは、「年収から給与所得控除もしくは公的年金等控除を引いたもの」です。そのため、年収から給与所得控除を引いた額が133万円以下であれば、配偶者特別控除を受けることができます。
国税庁のホームページによると、年収201万円の人の所得控除額は「201万円×30%+80,000円=68万3,000円」です。年収から給与所得控除を引くと「201万円−68万3,000円=132万7,000円」で133万円以下となり、配偶者特別控除の条件を満たせることになります。
ただし、配偶者特別控除の金額は、納税者本人(夫)の所得によっても変わります。夫の年間の所得が1,000万円超(給与所得控除195万円があるので年収1,195万円超)の場合は、特別配偶者控除を適用できないので注意が必要です。
また、ふるさと納税などで寄附金控除を使っても「所得」は減らすことはできないので注意してください。
出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
公的な給付金は所得金額に含まれる?
産休や育休の期間中は、出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金などのさまざまな給付金を受け取ることができます。また、退職したときには求職者給付が支給されます。これらの給付金はまとまった金額になりますが、所得金額には含まれません。そのため、いろいろな給付金を受け取っていても会社からの給与が少なければ、控除を受けられる可能性が高くなります。
所得は1月から12月までの12ヶ月分の給与で決まります。そのため、産休や育休に入った年、育休中の年、途中で復帰した年は年収が減るケースが多く、配偶者控除や配偶者特別控除を受けられる可能性も高くなります。また、育休が終わった後も時短勤務などで収入が減っていれば、これらの控除対象となる場合があります。
夫が配偶者控除や配偶者特別控除を受けられると大きな節税となります。産休から育休が終わるまでの期間は、控除の条件を満たしているかどうかを毎年確認するようにしましょう。
扶養に入るにはどのような手続きが必要?
育休中の収入が減って夫が配偶者控除や配偶者特別控除を申請できる場合は、期限内に忘れずに手続きを行うことが大切です。ここでは、どのような手続きが必要なのかを解説していきます。
納税者本人が勤務先に申告書を提出する
配偶者控除や配偶者特別控除を受けるためには、納税者本人(夫)が「給与所得者の配偶者控除等申告書」を勤務先に提出する必要があります。書類の提出時期は、その年の最後の給与等の支払いを受ける日の前日までです。たとえば、給与支給日が25日の場合は、前日の24日までに提出することとなります。
この申告書の提出が間に合えば、会社が行う年末調整で控除を受けることができ、多く支払った税金を年明けに還付してもらうことができます。ただし、納税者本人の所得が1,000万円超(年収1,195万円超)の場合は、書類を提出しても控除を受けられないので注意しましょう。
書類にはマイナンバーの記載が必要になります。納税者本人だけではなく、配偶者のマイナンバーも必要なので、事前に確認しておくようにしましょう。
確定申告書を提出する
会社での年末調整の手続きが間に合わなかった場合や自営業者の人は、確定申告をすることで配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができます。確定申告をする場合は、まず「配偶者控除」と「配偶者特別控除」のどちらが対象になるのかということを確認します。そして、配偶者や納税者本人の所得を見て「控除できる金額」を把握しておきましょう。
確定申告書には「配偶者控除、もしくは配偶者特別控除」の金額を直接記入します。記入する場所は「所得から差し引かれる金額」のなかにある「配偶者(特別)控除」の欄です。たとえば、控除額が38万円の場合は、この欄に380,000と記入します。
配偶者特別控除を受ける場合は、「その他」のなかにある「配偶者の合計所得金額」にも記載します。これは、配偶者の年収によって配偶者特別控除額が細かく決められているためです。合計所得金額は年収ではなく、給与所得控除を引いた金額になりますので注意してください。
また、申告書を作成する際には納税者本人や配偶者の源泉徴収票、配偶者のマイナンバーが必要ですので用意しておきましょう。
住民税は育休中も支払う必要がある
育休中は所得が減るため所得税も少なくなります。また、出産育児一時金や育児休業給付金などは非課税で受け取れるため、所得税を支払う必要はありません。しかし、住民税は前年の所得に対して課税されるため、育休中でも納税しなければならないことがあります。
一般的な会社では給与から天引きで住民税が支払われていますが、産休中や育休中は自治体から送られてくる納付書を使い、自分自身で納付する必要があります。会社によっては産休や育休に入る直前の給与から一括で住民税を天引きしてもらえるケースもあります。ただし、その場合は数ヶ月分の住民税をまとめて支払うことになり、手取り給与がかなり減ってしまうので注意しましょう。
関連記事:産休や育休のときの給与から天引きされる税金ってどうなるの?
まとめ
育休中は所得が減るため、自分や配偶者の所得額によっては配偶者控除や配偶者特別控除の対象になるケースがあります。控除が適用されると大きな節税効果が期待できるので、条件を満たすかどうかをしっかりと確認することが大切です。
育休中は社会保険料の支払いも大きな負担となりますが、育休中は保険料が免除になる制度があるため、事前に申請することが大切です。また、条件を満たすと夫の扶養に入ることも可能となっています。
育休中は収入が減ることが多いものの、出費を抑えるためのいろいろな方法があります。特に配偶者控除や配偶者特別控除を受けられると大きな節税効果が期待できますので、対象になる場合は忘れずに手続きを行いましょう。